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63.腹をくくる

「寒くなりましたねー」

『そうだな』

 秋分過ぎてそう何日も経ってないけれど、もう冷えること冷えること。一年の半分近くが冬……なんだ。

 最近は、以前カラノークの市で買った、古着の毛織の外套を羽織っていた。もうそろそろ、あの白い毛皮を引っ張り出す時が近づいているかもしれない。いつ頃にしようかな、わたしは〈寒さ避け〉で済ませてしまうこともあるので、そのへんが傍目には無頓着に映るらしいけど。

「そろそろ、森での木の実とかの採取も限界でしょうし、保存食作りでいうとあとは肉モノになりますかねー」

『そうだな』

 家畜の解体は、さすがにわたしにできる気がしない……基本的には男の人の仕事なんだけど。他にわたしにできそうなことってあるかな? 薪作りはずっと手伝っていたけれど、他には木工を覚えたいんだよね、夏用の白樺の靴は履き潰してしまったので、これが自分で作れるようになるとだいぶ違うと思うし。

『……マイヤ、そういうのもあるだろうが……いや』

「え、何かありましたっけ……?」

 たっぷりの沈黙の後に思い出した。そ、そういえば、冬にならないとやれないことで、わたし以外の人ではやれなさそうなことがありましたっけ……なんで忘れてたんだ、わたし。


「し、失礼しました。それで相談なんですが、こちらから〈呼び出す〉ケースに関しての注意などいろいろ、再確認しておきたいのですが」

『ああ、まずは〈彼女〉なのだろう。最初に気をつけなくてはならないのは、かなり上位の存在だろうということだ。それはあの毛皮に込められた力から推測できるわけだが』

「はい」

『大きく分けて固有名詞を持つ〈神〉と、ふだん種族の総称でしか呼ばれることのない〈精霊〉といるわけだが、彼女はその中間、下位神とも上位精霊とでも言うべき存在だ――今までの推測が当たっていれば、の話だが』

 このカテゴリに当てはまるのは他に〈スィム〉と〈リグル〉、あとは以前レーナさんの話してくれた〈川を統べる王〉、あとはデニスさんから聞いた大蛇〈ズメイ〉などのようだ。

『実は俺やローシャは、このランク以上のを呼び出した事があるんだが、話をしたわけではない』

「と、言いますと……」

『……ドルジーナ時代の話なんだ。つまり、そういう意図で〈力〉を振るった――周囲にしてみれば、一方にのみ都合悪く降りかかった大災害、にしか見えなかっただろう』

 あ、大きな自然の力を呼び出すってつまりそういうことですか……

『なので、話をする目的で呼び出したことはないんだ。逆に、そのランク以下が向こうの方から寄ってきて、話をしてくることは非常に多い。あの二匹やレーナのようにな』

「あー、レーナさんだけならわたし、自分の都合で呼んだことはあります」

『……正直、レーナは例外ではないかという気がしているが、各精霊の個体差も大きいからな。こちらの都合に合わせてくれるタイプか、話の通じるかというところで、〈彼女〉に関して言えば望みを持てるだろうな。温厚さでは知られているから』

「そうみたいですね」

『問題なのは、彼女の〈上〉がどこまで関与しているかだ。彼女を相手にしているつもりで、〈彼〉が出てきてしまうかもしれない――冷酷さと広大すぎる力を持つ存在が、だ。なのでつまり、いつ〈彼〉が出てきても狼狽えないように。特に、彼に対する礼を欠いた行為は極力避けること。失言イコール即死に繋がるくらい危険だからな』

 怖い怖い怖い! 失言の取り返しが聞かない御方ですか……

『そして、どう考えても〈彼〉が何も関与していない、とは思えない。何故なら、マイヤがここにいること自体が、力の弱い神や精霊の力でできることではないだろうからだ』

「ですね……」

 重苦しい沈黙が流れた。


『……マイヤ、気が乗らないのなら、無理をすることはないんだぞ。呼びかけても応えが返って来ずに徒労に終わるだけ、で済むのならばまだいい。それ以上に先方の機嫌を損ねて、命を危険に晒すことになるかもしれない』

 思わずエーディクさんの顔をじっと見つめてしまった。彼は平時によく見かける厳しい面持ちではなく、平静さを保っているものの、瞳にはずっと心配そうな色をたたえていた。

「そう……ですね。でも、もう季節が一巡りしてしまいましたから。覚悟ができなくて、もう一巡りして……結局その繰り返しになるのなら、今でも変わらないと思うから」

 だから、決めた。でも、やっぱりちょっと怖い。俯いて震えを鎮めるために深呼吸した。そろっと両肩に手が置かれて、その後頭を軽く撫でられた――ちょっとだけ、目尻に涙が浮かんだ。

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