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59.収穫と物思いの秋

「ふふふふふ♪」

『今日は何をもらってきたんですか?』

「じゃーん、リンゴですよーそれもこんなにたくさん! いやーベリーも好きなんですけどこのボリュームはやっぱり魅力ですよねー」

 多少痛んでるからってことでたくさん分けて貰えたんですが、コンポートにするわけだから気にしないー、皮も芯もいろんな使い方教えて貰ったからそれも楽しみー、とりあえず今日はクレープの上にのせて蜂蜜かけてサワークリームも添えて、とちょっとやりすぎた甘味をつくってしまいました。作った後ではっと我に返ったんですが、これはもしかしたら、男衆には不評かもしれない……。

『まあ、たまにはこういうのもいいんじゃないのか』

『採れたては何でもおいしいですよね』

 二人ともサラッと平らげましたね。酒呑みのくせに甘いものも平気なんだ……考えてみたら、このへんは塩よりも蜂蜜が入手しやすい土地柄ってのも大きいかな。

 順番が逆になりましたがその後、普通にスープや炒め物を出して、最後にリンゴの皮と芯の煮出し汁でつくった飲み物を出しました。ちょっと間違ってる気がするけど気にしない。

『麦の刈り入れも終わりましたし、あらかた、収穫の目処がつきましたかね』

 そう、もう秋ですからね。この後保存食作り、干し草作り、家畜の数調整(干し草の容量をオーバーしている家畜を屠って薫製肉などに加工する)、森での狩りや採取、薪作り……あたりが冬越しの準備に必要な作業だということは教えてもらっています。初っ端の生活を真冬からスタートしたわたしにとっては、前年の教訓を踏まえ、不安のない快適な冬を過ごすために尽力したいところ……あれ、何か忘れてる気がする……?


『今年は豊作だったから、かなり余裕のある状態でいられてるわけなんだが……』

「? 何か心配事があるんでしょうか、エーディクさん」

『今年は、寺院設置の件で、いろいろ変則的になっている。労働報酬に関しても、カラノークや都からの支給がたびたび来ていたわけだが、その運送費を軽減するために、収穫期以降は税の一部免除に変更もしていた』

「えーと……」

 ちょっとすぐに話が呑み込めなかったのだけど、後をデニスさんが続けるように教えてくれた。

『要するに、税として徴収する収穫物を寺院設置の労働報酬に割り当てて、なるべく無駄な労力や経費を削減していたわけなんですよね。なので、今年はフォークスに限っては課税がかなり軽いわけなんですよ』

「ふむふむ」

『……それでですね、大変申し上げにくい話ですが、来年以降は寺院の維持費として課税がアップするために、今年との落差がたいへん激しいものになるだろうということなんです』

「あー……」

『そんな目で見ないでください……私だって税吏の説得にあたってたんですから。これでも、予定の上昇率から思いっきり下げさせたんですよ』

 珍しく、困った顔のデニスさんが溜息をついた。

「てことは、つまり来年以降の変化を予測して動かないといけないんですね……ところで、寺院ができると里の生活がどんな風に変わっていくんでしょうかね、ちょっとまだ想像つきませんが」

『いちおう、皆さんが寺院を利用する場合には基本的に無料なんですよね……聖職者は公にお金を要求するものではない、ということになってますので。で、わたしのできる範囲で読み書きを教えるとか、医療とか、悩み相談とかそんなことをやっていくと思います。旅の方もお泊めしますから、オリガさんのお宅で手が足りない状態などに利用していただけますし』

 あ、つまり寺院の維持費ってデニスさんが生活できるようにってことなんだ、デニスさん公務員扱いってこと?

『俺の本音としては……便利なようなそれほどでもないような、といったところなんだが』

『そうなんですよねー、このあたりって、筆記用の樹皮が安いから皆さんわりと読み書きできてますしねー、医療もご家庭の奥さん方の知恵でなんとかやってらっしゃいますし、悩み相談なんてのはあからさまに勧誘目的なので、このスタイルが受け入れられるかどうかは正直、わたしでも疑問です』

 相変わらずデニスさんは冷めたものの見方してるなー……

『……なので、普通にみなさんと同じように生活して、時々お手伝いに行って、お手伝いしてもらって、となるんじゃないでしょうかね。いちおう、敷地に薬草を植えることだけは決めているんですが、それ以外はなるようにしかならない、と思いますよ』

 今でも、デニスさんは時々収穫のお手伝いに顔を出しているけれど。わりといるのが普通の人、になってきた気がしてるんだよね。彼はそうやってすこしずつ「この里の人」になってくのかな……わたしも、そうなるのかな。

 ……あ、思い出した。収穫期の忙しさにかまけて、頭の片隅に留めておいた諸々の気になることを、まったく思い出そうともしてませんでした。気をつけないと、またすぐに忘れそう。

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