表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/83

56.隠し事ができない

 夏至も過ぎ、里は亜麻やカブなどの成長の早い作物の収穫がはじまっている。わたしは今のところ、オリガさんのすすめでその日その日で手伝いに行っては収穫の一部を分けていただいているのだけれど。けっこうきっつい労働だけれど、それでも収穫したての野菜とか、お目にかかれるだけでも嬉しい。エーディクさん達と一緒にキノコやベリーを見つけに森に入るのも、大変だけどやっぱり楽しい。さらに保存食の作り方とか、教えてもらってる時はもうほんとに嬉しい。

『いいねーマイヤちゃんのその顔、見てるだけでこっちも癒されてくるよ』

 へらっと笑いながらわたしの頬を指でつついてくるローシャさんに、やっぱりへらっとした締まりのない顔で笑い返してしまった。最近はクヴァースを使った冷たいスープとか、夏ならではの料理も教えてもらってレパートリーもまた増えましたしね! ちなみに、新鮮な食材でも生食はお奨めできない(衛生観念的に若干問題がある)らしく……自分も絶対に生サラダとかが食べたいというわけではないので、必ず湯通しするようにしています。いやでも、生より食べやすくなるからかえって食べ過ぎてしまいそうで危険だ……熱で破壊される栄養素には気をつけないといけないけど、そのへんはキャベツらしき野菜やチトルースの塩漬けとかで、なんとかカバーできてると思う、多分。

『いや本当に、マイヤさんの気持ちが全面に溢れてるような料理ですね』

 どんな気持ちがわたしからダダ漏れてるのかは知りませんが、教えてもらったレシピから多少ズレていてもほとんどクレームが来ないのには安心してるところです。……というか、エーディクさんは本当に何も言わないなー、本当にこのままでいいのかな。彼は不満を溜め込むタイプかもしれないから、少し気をつけていないと。

「そういえば、エーディクさんは好きな食べ物とかってあるんですか」

『いや、特に』

 ……会話が続かない……ちょっと寂しいかも……隣でデニスさんが『不満がないって、素晴らしいことですね』とどことなく空々しい言い方で返してくる。デニスさんはねー、なんか色々と含んだものの言い方をするんですよね。


「あのーデニスさん、少し聞きたいことがあるんですけど」

 エーディクさんが外仕事に行っていて、デニスさんが書簡の整理などで家にいる時を見計らって声をかけた。うーん何て言うか、最近エーディクさんに言えないようなことばっかりしてる気がする、ちょっぴり罪悪感。

「以前言っていた〈黒い精霊〉に関しての話なんですが。エーディクさんのことも気になりますし、もう少し詳しいことが知りたくて」

 エーディクさんはこの間の騒動ほど大事にはなっていないけれど、やっぱりどことなく調子が悪そうでいる。他にも気になることはあるんだけどね――実はこの〈黒い精霊〉という単語、一度聞いたことがあった。留守番の夜にレーナさんから聞いた話なのだけれど。


『――ていうかさ、あんた、あたしが今まで遠回しに言ってたのに気づかなかったみたいだから言うんだけど。あんたの得意なうちの〈精神〉って、〈水〉の範疇っていうよりは水底に通じる〈闇〉から来るもんなのよ。で、〈冷気〉はもともと〈闇〉との繋がりがすごく強いもんなわけで。つまりさ――』

 あの時、レーナさんがわたしの首飾りを指差して言った言葉が、それだった。

『この黒い石が〈闇〉、薄青いのが〈氷〉〈水〉なわけね。薄黄色のはたぶん弱めの〈光〉だろうけど、これについてはあたしも詳しくはわかんないんだけど。つまり、あんたは今のところ、使いやすい〈氷〉〈水〉を使ってるけれど、もっと力を使いこなすことを考えると〈闇〉について知ったほうがいいかもね、ってこと――奴ら、〈黒い精霊〉は今、特に不穏な動きをしているから。あれは支配できれば強力な力になるだろうけど、逆に敵にまわすと、最も〈死〉に近い脅威になるでしょうよ』


『――マイヤさん?』

「あ、いえすみません! どうぞ、お話の続きを」

『えーと、そうですね……〈黒い精霊〉は、一般には負の感情を司る精霊、と聞いていますが、取り憑かれたからといってその人が極端に根暗だとか性格が悪いとか、一概にそう言い切れるものでもないらしいですよ。師の見解では、人によって精霊を取り込む〈器〉が違って、それが大きい人に集まった場合、ああいう極端な状態になるらしく』

「はー、それってやっぱりヴェドゥーンだからってことになるんですかねー」

『ああ、やっぱりそうなんですか、彼』

 あれ? わたし何かまずいこと言ったかも? はっとして思わず口をおさえたのだけれども後の祭りで、デニスさんはいつもの笑みで返して来た。

『いやぁ、私も最初は驚きましたよ。北東部にいる確率は高いと聞いていましたが、こんなに固まってお目にかかれるとは思ってませんでした』

「あ、あはは、そうらしいですねー」

 固まって、って、つまりバレてるってことですよね、ローシャさんもわたしも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ