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52.初、親戚以外の同居人

 エーディクさん達は、トーリャさん一行を見送った後、丁度クロートまで来ていたデニスさんおよびそのお連れと出会ったらしい。里の代表者、要するにオリガさんのところへ赴任したばかりのカラノーク公からの書状を持って来たんだそうで。で、その内容は、フォークスに〈マスリーナの教義〉の寺院を新たに設立するというお触れと、その費用を支給する約定、あと設立に必要な人員を募る協力要請、等々――

『いやさ、まったく出てない話じゃなかったんだけどな。とうとう来たかって感じ』

「これって、反対とかしたら、どうなるんですか」

『公の庇護下に入らないとみなされる、何かあってもドルジーナが動員されない、その他諸々の不利益を被るだろうな』

「オリガさん達は、どう考えてらっしゃるんでしょう?」

『いちおう、従う前提ではいるようだ。ただ、不当な締め付けにならないように、なるべく有利な状況に持っていけるよう交渉してみると言っていた――この手の約定は、しっかり目を通しておかないと、ついでで税率が異常に引き上げられていることに気づかないまま、承諾してしまうこともあるからな』

『里側の負担が高くなりすぎないか、気をつけないとな。そのためにもクロートや他の村の状況も調べてはいたんだが、何しろ僻地だからなー。先方も臨機応変に動いてくれることを期待したいが』

「その先方の責任者が、彼なんですか……」

 デニスさん、悪い人ではないと思うのだけれど。まだなんとなく、底が知れないんだよね……。


『……』

「そ、そうなんですか。それは確かに、必要ですよね」

『いやあ、助かります。少しでも見知った方がいると心強いです』

 翌々日、オリガさん家に呼ばれて話を伺いました。寺院の設立については、里で持て余し気味だった一家屋を改築するという話になっていて。要するに新築とか他の都市のような煉瓦造りだとか、なるべく金のかかることをしない方針のようだ。『冬を越すのでよければ新築も考えるが』といったオリガさんの提案を蹴って、デニスさんが冬までに拠点を確保する選択をしたらしい。経費の見積もりなどを済ませたうえで、デニスさん以外の人は各諸手続きのためにカラノークに戻ることになったのだけれど。

『どうしても1人は最初から最後まで、仔細を見届けないといけないんですよね。で、当然のように、赴任予定の司祭である私がそうするべきで。それでその間ご厄介になることになってしまうわけなんですが』

『筋としては里長か、なるべく里長に近い縁者の家がいいわけなんだがね。ほれ、そちらの家のほうが空きがあるし、お主らも知らん仲じゃないようだから』

『あ、ちゃんと滞在費出ますから、そこは安心してくださいね』

 わたしもだけど、エーディクさんも居候の身なんですよね。断る選択肢がありません……


『大丈夫か、エーディクの奴』

「たぶん大丈夫じゃない気がしてますが……」

 なんかね、気のせいか空気がピリピリしてる気がするんですよ、彼の周りだけ。

『お袋としては、それなりに目端の利く奴に監視させたいらしい。エーディクもだけど、マイヤちゃんにも期待してるから、そのつもりで頼むよ。俺も時々見に行くから』

 オリガさん本当にこの人選でいいんですか……なんかもう、初日にして先行き不安です。

「あー、そうだデニスさん、好きな食べ物とか苦手な物とかあったりしますか」

『ありませんよ、どうぞお構いなく』

「部屋割りは……いつもローシャさんが使ってるベッドになりますかね、エーディクさん」

『……そうだな、あんたが暖炉の上でも構わんが』

『あー、アレは、遠慮させていただきます。どうも慣れませんし、やはりお家のご主人の定位置でしょうから』

 なんとなくぎこちない流れで夕食まで済ませ、デニスさんのお祈りの文句が時々聴こえたりで、やっぱり何か違和感の漂う夕食後。

「デニスさん、お風呂の準備できましたよー」

『あ、いえ、私は最後で結構ですが』

『片付けが面倒だから先に入れ』

 半ば無理矢理にデニスさんを暖炉の中に押し込んだエーディクさん、焚き口の蓋を閉めて……

『実は昔から気になっていたことがあってな。歴史書に、四代前の大公が地方を平定する際、巡回中にある部族に暗殺されたという事件があるんだが』

 ? 何か意味のある話なんでしょうけど、でも何でこのタイミングで仰るんですか。

『その後大公の腹心が摂政として、その部族と講和を結ぶ場を設けたんだが。その席で使者に風呂に入るよう勧めて、そのまま暖炉に閉じ込めて焼き殺したという逸話があってな』

「ちょ、エーディクさ」

『正直、火を消した暖炉にはそこまでの熱はないと思うんだが。〈力〉で熱を上げたらあるいは……と思ったりもした、今』

「エーディクさん落ち着いてー!!」

 思わず〈鎮静〉の力を込めた手のひらで、エーディクさんの額を何度も擦ってしまった。

『……冗談だ』

 笑えない冗談、苦手です。

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