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48.人を惹き付ける才能あるよね

 それでも、探したのだけれど、あの石を扱うお店は見つからなかった。何軒かに聞いてまわったのだけれど、常駐の商人ではないだろう、ということぐらいしか解らなかった。見切りをつけて宿に帰ろうとしていた時に、その音が聴こえてきた。

 ――さほど聴衆も集まっていない路地の片隅で、グースリの弦を掻き鳴らして曲を弾きはじめた人物がいた。帽子の陰から、黒革の仮面が覗き見える。

「え……」

 既視感を訝しむ間もなく、歌の内容が頭の中に染み入ってきた。山の女神が財宝を分け与えた、二人の男。ひとりはわずかに手にとり、その後の人生をささやかに幸せに生きた。もうひとりは手に余る量を掴み、帰る途中に重みで身動きがとれなくなって、沼に沈んでしまった――


 あまり長い物語ではなかった。ひと区切りついたところで、その場の流れで拍手してしまった。エーディクさんが小銭を放ると、放浪芸人は帽子の中に器用にそれを納める。

『〈東の山の女神〉の物語か。そういうのに詳しいのか?』

『ひと通りは。わたくしより詳しい方も、沢山いらっしゃるでしょうが』

『古い神の出てくる話で、他に何か知らないか』

『……はて、いろいろありますから、何からお話しましょうか――そうですね、歌にするほどでもない小話ですが、こんなものもありまして』

 彼は一歩下がると、優雅な手振りで一人芝居の動きをとった。

『先程の話にもありました通り、山の女神は、豊かさを司るとともに、同時に強欲を嫌います。彼女からの授かりものに、多くを求めすぎないこと。これは東の鉱夫らの戒めともされています。――さらに言えば』

 その場に跪く形をとった彼が、その仮面を隠すように俯く。

『彼女は、生に関しては恵みを与えない。恩恵を受けたとしても、末永い幸せを約束されるわけではない――先程の話には、歌にされていない続きがあります。それは、生き残った男のほうも、幸せを掴んだとはいえ、長生きしなかったという結末です。鉱夫らの寿命が短いさだめを、変えることはできぬという事実が反映されているのでしょう』

 立ち上がり、身を翻した彼が、最後に一礼してこう告げた。

『そういうことですから、くれぐれも欲を起こしすぎぬように。〈東の山〉の加護は、ここまでと思い留めるべきでしょう――彼女は、中立ですから』


「……」

 ええと、あのですね。しばらく二人とも路地のど真ん中で固まってしまっていたんですが。

『もしかして、アレだったのか』

「ど……同一人物の確証はありませんが」

『正直、お前やローシャが言うほど胡散臭いものだろうか、半信半疑だったんだが。ここまで異彩を放っているとは思わなかった』

 はい……何て言うのか、一度出会うと忘れられない、そんな強烈な印象を残していく人なんですよ……


『マジか! やっぱり出やがったのかよ』

 その日の晩は、ひさびさレーナさんも一緒の夕食だった。デニスさんが居なくなったので人目を気にする必要がなくなったから。トーリャさん達には会わせてないけど、会ったら知り合いの女の子で済ませるつもりでいる。

『どう考えても、聴衆を俺達二人に限定した話を提供してくれた』

『〈山の加護はここまで〉か……忠告か、それとも脅しか』

「……あの人、今回はお金を受け取ったんですよね」

『つまり、俺達にとって有益な情報を与えた自信がある、と……』

『何だろうな、〈黒い仮面〉の〈スコモローフ〉……レーナ、お前何か知らね?』

 ローシャさんが話を振った彼女は、面白くなさそうな顔で溜息をつく。

『さあ、あたしが直接知ってる奴じゃないと思うけど。今回の件だけなら〈山〉の眷属かもって思うけど、ちょっと違うみたいだし。〈東の山の女神〉って、もうちょっと潔癖っていうかストイックな感じに思えるから、別口かなーってことくらいしか』

『うーん……手詰まりかな』

『引き続き警戒するしかないが、聞き出せることはなるべく聞き出していったほうがいいかもな。……何かの罠かもしれないから、ひとりの時に遭遇したら充分に気をつけてくれ』

 その後もぽつぽつと会話したのだけれど、どうにもモヤッとしたものの残ったまま、食事会議が終わってしまった。

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