47.巡り廻って
北東部に入ってから、カラノーク領の中心都市であるカラノークに辿り着くまでに、2回ほど不審な輩に遭遇した。一度目は客を装って近づいて来た集団スリだったので、エーディクさん達が数人を取り押さえた時点で、向こうの見切りが早く逃げていった。別のはまた大事になりそうだったので、早々に〈恐怖〉を押し付けて追い払った。効きやすいタイミングってのがあって、こちら側がほんのわずかでも優位に立てた、と思った時に一気に畳み掛けるようにぶつけると追い落としやすいみたい。
こちらの弱みを見せず、相手の恐怖を煽る――ちょっと性格悪くなりそうな気がするけど、お互いの怪我がひどくなるよりマシ、と思い切って最初から全力でいった。今回はなんとかうまくいったけれど、不意打ちとかで不利な状況からはじまると、こううまく行くとは思えない。〈恐怖〉なんて、そうそううまく飼い馴らせる気がしないもの。負けたら自分が呑まれてしまう。どうか今後とも、そんな状況に出くわしませんように――
そして、何ヶ月かぶりのはずなのに、まったく記憶に覚えのないカラノークの町並みが見えて来た。いやあのですね、雪があるとないとではだいぶ違いますねとしか言いようがなくて。
『それでは、わたしはひとまずここでお別れです』
もともとカラノークの寺院に赴任する予定だったデニスさんとは、到着早々にお別れすることになった。
『皆さんと一緒に旅ができてよかったです。当分はカラノークの寺院にいると思いますので、また機会があればお会いできると思います……それでは』
いつも通りの穏やかな笑みで長衣の裾を翻し、彼は去っていった。
『……カラノークにいることになるんか、あれが』
「なんか、まだお付き合いがあるかもしれませんね。今後ともうまくいくといいですけど……」
『〈遠当て〉ができる程の修練を積んでいる司祭だ。どう考えても荒事向きで呼ばれている。できれば敵にまわしたくはないが』
『お前らはともかく、俺はバレたんじゃないのかなぁ。……ま、別に構わんけどさ』
トーリャさんとも、とりあえずカラノークまでという取り決めで同行していた。いくらか取り置いてもらっていた荷物を分けることになって、今後の予定を再検討していたところ。
『さて、どう運ぶかな。ここからなら顔パスが通じるから、貸し馬車も受けてくれるだろうけどな』
『宿に預けておいて先に帰って、馬車を持ってくるのと所要時間は変わらんがな。経費を考えるとやはり……』
『いや、やっぱり行くことにした! 実はフォークスには一度行ってみたかったんでな』
「え?! 本当ですか、トーリャさん」
『ああ、巷じゃ〈吹雪の里〉とか〈神隠しの里〉とかけったいな名前で呼ばれてるからな。地元の奴がいて、それが腕に覚えがあって信用できるってんならいい機会だと思うぜ』
『誰だよ、そんな噂流した奴は……』
突っ込んで話を聞くと、一部の商人の間で、交通が不便なことを誇張された結果のようでした。それはそれで、聞いていながら行きたがるトーリャさんもチャレンジャーですねー。
『本当にいいのか? たいして他の村と変わるところもないが』
『エーディク、お前が言うな』
『いいけどな、その代わり値段の見直しと……あと、そうだな、帰りはクロートまででいいから護衛についてくれるか。さすがに〈神隠しの里〉に行ったはいいが、帰ってこられなかったんじゃ笑い話にもできん』
『そういうことなら……あとは、宿だけどな……』
再度交渉を重ね、随行の旅は契約延長となった。
「本当に、冬に来た時とは全然違って見えますね」
『そうだな、きっとクロートもフォークスも違って見えるぞ。迷わないようにな』
「はい……」
以前来たはずの市場も違って見える。うろうろと目を泳がせていたら、エーディクさんに手を引かれて、思わずドキッとした。
「あ、あの?」
『マイヤ、ちょっといいか。これを扱っていた店のことを思い出したんだが』
「え……ああ!」
エーディクさんが首元から引っ張り出した革紐を見て、わたしもすぐに思い出して自分のを引っ張り出した。色とりどりの石を銀の線で連ねた護符。とはいっても、わたしのは色彩に乏しいモノトーンに近いのだけれど。それでも、日ごとに高くなってゆく陽の光を浴びて、はじめて手にした時よりも輝いて見える。
『個人的には、これより大きい石だとどう違ってくるか、気になっているんだが』
「わたしは別に……あ、でもエーディクさんが気になるのでしたら、行ってみましょうか」
ぶっちゃけお値段次第という気がしていますよ……わたしのお金の使い方も人から見れば変わってるかもしれないけれど、エーディクさんも時々、何かに入れ込むとお金に糸目をつけないことがある。そもそも彼のお財布ですから、わたしが口を出す事ではないのだけれど。
そんなわけで、すこし時間をもらって、二人であの石を売るお店を訪ねてみようということになった。――道中ずっと手を繋がれていたのは、迷子になるのを心配されたみたいだった。




