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41.全容が見渡せる?

 お、大きいです、としか言えない。モルジもすごいと思ったけれど、後から拡大されたんだろうと容易にわかる城壁の層も、巨大な門も。モルジよりも数多く立ち並ぶ、煉瓦造りの建築物――大半がマスリーナの教義の寺院だそうな――も、威厳を持って輝いて見える。メドヴェージはまさに首都にふさわしい風格のある巨大都市です。

 地図も見て、今までの交易路や物流も振り返ってしみじみ思うのだけれど、どう考えても南の国とは諍い起こしたくないよね、と切実に思った。フォークスにいた頃は自給自足でも意外となんとかなるなーって思っていたけれど、その中でもいくつか南西諸国由来のものがあって――特に農産物、もっと言うとハーブの類なんだけど、それらの栽培をなんとか定着させて少しずつ便利になってきているんだそうな。

 北西の国、リディニークはこの国と似たりよったりの厳しい環境らしいし。東南のトラヴァーと呼ばれる地域は放牧地帯なので、やっぱり恵まれているとは言い難い。マスリーナを中心に外交政策を考えざるを得ないのはごく自然の流れなんだ――そうは言っても、もれなく宗教思想がおまけについてくるのは勘弁してほしい気がするのだけれど。このへんの感覚に疎い日本人としては、理解に苦しむ……

『いっときその辺りを詳しく調べたこともあったんだが、大公の判断としてはマスリーナが一番マシ、というのもあったらしい。当初はなるべく土着の民との二重信仰を許容していたこともあってな……そうは言っても、徐々に圧力をかけてきているようだがな』

 う、うーん。やっぱり苦手な部分だ、こういうの……


『これまでに、いくつか仕入れてきた情報をまとめるとな……』

 対外的には、大きな危機は迫っていないらしい。リディニークからは傭兵を雇い入れている状態なので、支援はあっても衝突があるわけではなく。そもそもお互いに侵略しても旨味の少ない土地柄だというのが大きいらしい。ただ、過去――現大公がモルジ公だった時――には内政に干渉されそうになったこともあるのだけれど、その時は一旦傭兵を国外退去させる等の措置を取ってバランスを保ったようだ。このあたりは特にモルジの領主の采配がものを言うようで、次期大公に期待されるところなのだろう。

 マスリーナに関しては、過去に侵略を試みたうえで、その失敗の教訓として今の政略結婚があるので当分は安定しているはずなんだそうだ。なんだか、それを聞くとどっちの国が正しいとかいう問題じゃないんだね……と改めて思い直された。

 トラヴァーの遊牧民族とはちょくちょく小競り合いがあるのだけれども、これはおおむね、問題なく撃退しているそうだ。トラヴァーに接する南東部は大公の四男、ティムール公が領主なのだけれども、若いながらになかなかの戦上手らしい。

『問題はむしろ、国内にある――奴隷狩りだ』

 罪を犯した罰則であったり、貧困に窮したりで一定の期間、奴隷身分でやりとりされることを承諾する者は少なくないという話だけれど。それとは別に、中央の目の行き届かない農村を襲って無理矢理人を攫う奴隷商人がいるんだそうな。これらを取り締まって治安維持に努めるのも、その地方に赴任した公とそのドルジーナの任務なのだそうだけれど。

『マイヤ。バトゥを覚えているか』

「ええと……はい、モルジにいらした遊牧民のドルジーナですよね」

『彼からも話を聞いているんだが、通常は北の民が標的になるんだが、一部の遊牧民もその被害に遭ったらしい。マイヤも充分気をつけるようにと言われた』

「そうだったんですか……」

『最初、どうもマイヤちゃんも攫われたクチなのかと思ったらしいぜ。実はあの後もう一回エーディクに確認しに来たんだ。俺やグレーブもいたからなんとか信用してもらえたけどな。奴隷市場のある南部の都会ならともかく、フォークスにいるって時点でおかしいだろって』

「攫われた、ですか……何だろう、わたしの場合は神様に攫われて来たんじゃないかって気がしてますが」

 何気なく言ったらその場がシンと静まって、凍り付いてしまった。

『あー……』

『……マイヤ、今更だが、本当に遊牧民の部族出身ではないよな?』

「あ、ええ、それはもう! 全然関係ないです、馬なんて乗ったこともありません」

『南部の湾岸都市に住んでいたわけでもなく』

「あの辺りの町の名前にひとつも覚えがありません」

『……うん、そうだよね、そのはずだよねー……』

 あああ、いつになくエーディクさんとローシャさんを混乱させた気がする。あの北の森での出来事はどう考えても人外の力、というのがフォークスの里での共通認識だったのだけれど、奴隷狩りの被害者かもしれないというほうがずっとあり得る身の上なんだろう。

「すみません、変なこと言っちゃいましたね! 忘れてください」

 その後ばんばん南国の香辛料を利かせた料理を食べたので、わたしはすっかりご機嫌で夜まで過ごしたのだけれど。二人がどうだったかまでは、伺い知れない。

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