38.表出のきっかけは?
何で、こんなことになっちゃったんだろう。
いつも通りの、3人ないし4人の楽しい昼食だったのに。旅の間だって、ふたりはいつも本当に仲良さそうで、わたしはそんな2人が羨ましいくらいだったのに。
――わたしがいるから? わたしの面倒見なきゃいけないから、それでいつの間にか、何かがうまくいかなくなっていったの?
『ごめん、マイヤちゃん。俺のせいだ』
混乱したまま、目に涙を滲ませていたわたしの傍でローシャさんが呟いた。顔を上げたローシャさんは、そのまま、無念そうに目を瞑って天井を仰いだ。
『俺がもうちょっと落ち着いて聞いていれば、あんなに奴を怒らせることじゃなかったはずだ。まずい踏み込み方をした――』
『ホント、ローシャってば肝心なところでおバカなんだから』
いつも通りの落ち着いたレーナさんの態度に、動揺していた心かいくらか静まってきた。
『奴が居心地の悪い家で育ってきたんだろうってのは、想像ついてたんだけれどな。俺は察して、先回りして。踏み込まないようにして、居心地のいい場所に誘って。「言わなくていい」って言いつつも、本当はいつか話してくれるだろうって思ってた』
そうだね……ローシャさんがそこまで気を配って、エーディクさんを構い倒している姿は想像できるよね。
『けどさ、ここに来て親戚のミクラに会って――あんなに近くで家の話になってんのに、俺にもマイヤちゃんにもほとんど知らせようって気がなかっただろ。あの時から何だか、無性にイライラしちまって』
そっか。わたしは付き合いが短いから仕方ないって思ってたけど、ローシャさんにとってはまた違う捉え方になってたんだ――
『しょうがないって思い切って墓参りに送り出したはいいけどさ、そのくせこっちのやることにはいちいち目くじら立てやがって。それでさっきキツい言い方しちまったんだ――ほんと馬鹿やったよな、俺』
『そうそう』
レ、レーナさんから容赦ない追い打ちが。
『でも、本当に心配だったんだよ、マイヤちゃんのことが――だって奴の家は〈貴族〉だってことだからな。そしてそのことすら、俺は察するだけで奴の口から直接聞いていないわけなんだ』
「貴族……?」
『たぶん解ってないだろうから言うけど、家を継ぐ際の面倒事がとんでもなく多い連中のことね』
「はい……」
『特に面倒なのが結婚で。嫁さんは家からの持参金とか家同士の力関係が重要になってくるからつまり、全く身よりのないマイヤちゃんだと多分、向こうの家から猛反対に合うわけで』
「え?! あの、わたしはそういうのは別に」
『俺が普段からエーディクの嫁とか言って茶化してたのは、あのまま奴がフォークスに腰を据えるつもりなら全く問題ないんだけどってことな。でも、これが家に戻るってことになると全く事情が違うわけで。特に遅ければ遅いほど大問題なわけで』
「遅くなると……ですか?」
『要するに、子供できてたらどーすんのよってことよー』
「ぶっ!」
最後のレーナさんの一言に思わず吹きそうになって、そのまま顔を押さえていたらどんどん顔に血の気が上ってくるのがわかった。
『……今までの様子だとたぶん、そういうのなさそうだけど。「だからこのまま同居してて問題なし」ってワケじゃないでしょ?』
「は……はい、そうですよね、普通は」
『しかも、3ヶ月以上は過ごしてるわけだからな……正直、男の立場から見ると相当危ういと思えるところも垣間見えるし』
ちょっと今きわどい発言出ました?! あ、いやでも「エーディクさんならたぶん大丈夫」という根拠のない信頼感だけで過ごしてた気がするかも、今思うとその感覚のほうが明らかにおかしい……
『それでお袋やスヴェータに言われてちょいちょい様子見に行ってたわけなんだが、奴は本当に顔に出ないからな。だからかえって不安になったりもして、ああいうのは思いつめると一足飛びに何かやらかすこともあるから』
「な、何かって……」
『いやさ、真面目な奴ほど世間の見えてない行動やらかすってこともあるからさ……そう、それで奴の家の相続に関してちゃんと聞いとかないと、マイヤちゃんが悲しむことになるんじゃないかって思ったわけなんだけど。奴が俺達に言う必要を感じてないってのが腹立ったんだよな、そこでいろいろおかしくなった気がする』
『つまりローシャも拗ねてたのよね、相手にされてなくて』
『うるせーよ』
ああ、なんか解ったかも。ローシャさんもエーディクさんも分別ある大人の男の人だと、いつも信じて疑わなかったのだけれど。今だけ、ずっと年下の男の子達みたいに思えた……。




