26.人が話したがらないこと
『もしまたモルジでの働き口を探しているようなら、お前さんらなら――とは思ったんじゃが、その様子では、どうかの』
え、わたし見られてます? 一体どういうことですか……
『すまないが、今回はそういう予定はないんだ』
少しわたしの前に出るようにしてエーディクさんが言った。ローシャさんもお爺さんに言いつのる。
『何だ? そっちの人手が足りないってのか。今の領主はどうなんよ』
『なかなかやり手だと思うておるよ。わしらにも、新しい宗教にも、充分配慮くださっている。それだけに、板挟みになっていることを真剣に受け止めておられるからな。お力になってやれんだろうか、と思うが』
『……確か、解散時に何人かそっちに流れたはずじゃないか。そいつらはどうしてる』
『今でも会えるとも。会ってみるか?』
『……考えておく。まだしばらく滞在するつもりだから、そのうちに会うかもしれん』
『そうか。そうじゃの、是非そうするといい』
最後のほうの会話がわけわかんないまま、寺院を後にした。
『……どうする?』
『行ってみたほうが、状況はよくわかるだろう。だが――マイヤを連れてはいけん』
『俺だけで行ってみるか?』
『ああ――いや、それはちょっと待て……』
なんか、口挟んでいいのかよくないのか気まずい雰囲気! でもそこに場の空気を変える救世主が来ましたよ。
『あ〜んローシャー!! やっぱりあたし貴方だけだわ!』
脇道からいきなり飛び出してローシャさんに抱きついてきた、色っぽいうえにカワイイ声のお姉さんが。
「あ、レーナさんお帰りー」
『……もっとゆっくりしていてもよかったけどな……で、そっちはどうだった』
『ん〜ちょっと期待はずれだったかも〜。獲物狙ってるヤツはもう遠出してるみたいなのよね。あとは無駄にイチャイチャしてる連中しかいなかったから〜、なんか気分悪くなって出てきた』
『遠出ねぇ……どこまで行ってんだろうな、お前らの親戚は』
『河が繋がってればどこまでも行くわよ? でも、今まであんまり見かけなかったから、つまり』
『……南ってことか?』
「何かあるんですか?」
『さぁ……人が多いって意味では、確かに絶好の狩場だと思うけれど。時々変な〈力〉を使う連中がいるから、やりづらいと思うんだけどね。逆にそういうのを落としたい物好きが増えたのかも……』
ローシャさんに頬擦りしながら答えるレーナさんの言葉を反芻してみる。
「変な〈力〉を使うって、どういうことなんでしょう」
『〈マスリーナの教義〉の祭司じゃないのか。土着の精霊や神の力から引き出しているわけではないから、コレには異質に感じるんだろう』
「ふーん……レーナさんはヴェドゥーンのほうが好きなんでしょうか、ローシャさんみたいな」
『ローシャは特別なの〜』
……よくわからないけど幸せそうなレーナさんを眺めていたら、しばらく黙っていたエーディクさんが口を開いた。
『やっぱり、俺が行ってくる。ローシャ、お前達で辻占い師をあたってくれ。夕方に宿で落ち合おう』
『ああ……いいのか?』
『ソレを連れて行くのもまずいだろうし、俺と一緒にいてもうまくいかんだろう。――マイヤを頼む』
『わかった。知ってる奴がいたら、俺からもよろしくってな』
『ああ』
アレですか、エーディクさんはどうもレーナさんと相性悪いようだから、別行動にしたんだ……それにしても。
「ローシャさん、エーディクさんはどこに?」
『ああ……まぁ、別に言ってもいいよな』
ローシャさんは決まり悪そうに頬をかくと、エーディクさんが通りの雑踏に紛れて消えていった方向を眺めながら教えてくれた。
『俺達な、ニ年くらい前までここの前の領主のとこで働いてたんだ――〈ドルジーナ〉っつってな。ようは領主んとこに集まる志願兵のことなんだけど。前の領主が亡くなった時に、何人かは引き続きここに留まって、今の領主のところに組み込まれたんだ。だから、その時の同僚が残っていれば話を聞こうって話で――確か他にも、ヴェドゥーンかもしれないって奴もいたしな』
「へ……兵隊さん、だったんですか……」
今までのやりとりで、昔二人はモルジに長くいたんだろうなって思ってたんだけど、もしかしてけっこう物騒なお仕事やってたんですか?! なんだろう、ちょっと見てる世界が変わってきたかも……。




