25.おのぼりさんは目立つかも
モルジの何がすごいって、まず城壁が……こんなにしっかり作ってある場所、今までなかったから。ほんとに都会、大都会って感じ。家屋もいままで木造ばかりだったのが、石造りの家も見かける。
湖も近いし、西岸の海も近いということで、魚介類や塩の取引も充実しているそうだ。ほかに、北部で豊富な木材、農村で推奨されている養蜂による蜂蜜や蜜蝋、最も重宝される毛皮なども集まるそうで、本当に北部の重要拠点なんだって嫌でもわかる。
『モルジの領主はたいてい、大公の長男か、でなくても最も有力な後継者候補が就任する。今の領主は……三男だっけか』
「それって、上の二人は」
『最初長男が領主だったんだが、早死にして。次男は出自にいろいろ問題があって、今んとこ西部の中堅都市の領主なんだけど、どうも大公と仲悪いみたいでさー。でも、三男で安泰ってわけでもなさそうなんだ。大公が最後に迎えた妃が南方の大国だから、まだ幼いそっちの息子をなんとか押し上げようとしてる動きがあったりで』
後継者問題が不穏だ……さらに突っ込んで聞くと、現大公も兄と争った上での即位のようなので、やっぱり不穏。兄弟仲良く、が通用しない世の中なんですね……。
『んで、まずは宿だけど』
個室もあることはあるのだけれど。何よりも男女別にしてしまうと、わたし一人になってしまうというのがすごく不安で、今までのところ結局大部屋になっている。――あ、レーナさんはこういう時は別行動で、最寄りの川や湖に行ってます。宿代浮くし、彼女も水底の様子を見に行きたいらしいので。
無事に宿の手配を済ませ、晩ご飯をいただいて――魚のシチューが美味しくて、包み焼きもまたおいしかった。いい感じにくつろぎながら、今後の予定を相談した。
『しっかし、当てって言ってもなぁ。寺院は〈マスリーナの教義〉が幅を利かせてきてるから、古い神に関する文献が残ってるかどうか……』
『以前はまだ両方混在した寺院もあったから、そういうところが残っているかどうかを確認しよう。あとは、占い師の店を捜すか――あれは要するにヴェドゥーンだからな』
『そういうのはたいてい路地裏とかなんだよな。ちょっと手間だから、先に寺院のほうをあたるか』
南の大国が崇めている宗教――その地方でかつて活躍した聖人の知恵をまとめたものらしい――が、大公の婚姻を機に積極的に導入されつつあるらしい。とはいえ、まだまだ土着の神々の信仰も根強いそうなんだ。特に農村部とか、自然の影響の大きい場所ほど、その力を体現した古い神々の存在を払拭できないでいるらしい。
『多分、フォークスの近隣を含めた北東部が、いちばんそういう傾向が強いところなんだよな』
地理的に言うとそうみたい。北西は氷河の向こうに別の国があって、こちらは別の多神教だけれども、神様達の名前が違うだけで同一神とみなしてもいいんじゃないかってくらいにその役割が大差ないらしい。あと南東は遊牧民たちの領域で、彼らは信仰の自由を信条としているそうだし。南の大国マスリーナと、その影響の強い南西諸国を相手するにあたっての外交政策が、大公の政略結婚であり、その宗教文化の導入のようなんだ。
『あれから……どんだけ経ったかな』
『二年は過ぎたはずだ』
ふたりとも、モルジにはそれなりに詳しいようなんだけれど。ものすごい楽しそう、という様子ではない。ヴェドゥーンであることと、何か関係あるんだろうか……。
『おお! 久しぶりじゃないか』
『そちらこそ、元気そうでよかった』
いちばん大きな寺院ではほとんど収穫がなかったものの、その後に訪れた場所で運良く二人の顔見知りらしい、お髭の祭司とお話ができた。ここはうまいこと二つの宗教をごっちゃにして成り立たせているらしい。時おり素朴な民芸品っぽい飾りつけが見かけられる。
『そちらのお嬢さんは?』
『マイヤという。最近フォークスで暮らしはじめた』
「はじめまして、舞夜です」
『エーディクの嫁だよー』
『ほぉ、それはそれは』
「違いますよ!! 何言ってんですかローシャさん!」
ネタもやっていい時と悪い時がありますよー!! 初対面の人にそういうのは勘弁して。
『まぁ、そこはおいおいだな。爺さんどうよ、最近の景気は?』
『そうさね、悪くはないよ。最近は北部では大きな戦もないし、いろいろと便利になってきておるからね。――まぁ、だからこそ南の動きは気になるわけだが』
『特に気になるものはあるか?』
『都からの押しつけが気に食わん、という輩の不満を聞かんでもないかの……』
『それ、やっぱり無理矢理な改宗とかがあるわけ?』
『それだけで済む話ではないが、一因ではあるかの。南の教義はなかなかに一理あるとは思うのだが、いかんせん一部に豪奢すぎるきらいがあってな、そのしわ寄せがどこに来ているかというと――地方の労働階級じゃろう、税の取り立てが厳しくなっておるらしく、参拝者の様子からもそれが伺える』
うわ、実質的な経済が絡むんだ……それは、もしかして思ってるより深刻かも。




