24.春の訪れは水とともに
『なんでお前ついてくるんだよ!』
『言ったじゃない! 家出してきたんだって』
三人旅の予定でしたが、実質的には四人旅になってます――ローシャさんの傍にくっついてる、傍目には異常としか思えない薄着のお姉さん。「せめてこれ着てください……」と予備の上着を貸そうとしたら、『あ、いい。自分で変えれるから』と、さらっと手を振って藍色のサラファンを身に纏った。次に身を翻すと、どこからともなく外套や長靴も現われる。よかったー不審者じゃなくなったー。露骨に身体が濡れてるとか、そういう部分も見られないしね!
『何、その本格的な服装は……』
『あたしはいつだって本気よ』
なんか健気だなー、こうまでしてローシャさんについて行きたいんだ……あれ? でもこれって不倫になるんでしたっけ?
『……と、言いたいところだけれど、ちょっと他にも気になることがあってね。なんか最近、あっちこっちザワついてるのよ』
〈ルサールカ〉が言うには、住処とする水辺の深部が、どことなく『活性化してる』、印象があるらしい。
『うちの人が急に色気づいたのもそういうのの影響があるんじゃないか、って気がしてね……ちょっと遠くの様子も見てみたいのよ。あわよくばもっといい人が見つかるんじゃないか! とも思ってるんだけどね!』
『オマエも充分色気づいてるよな……今に始まったことじゃないけど』
なんだろう、今まで会ってきた精霊達とすごいタイプが違うよね……そのせいかわたしも、ときどき彼女が普通の人間だと思ってしまうことがある。発言は人間の常識を超えてるけど。
フォークスからモルジまでは、ときどき徒歩、ときどき乗り合い馬車――じゃなかった、乗り合い橇を利用しつつの旅路になっている。以前使った、ほとんど放し飼いにしている馬(?)は『長期の旅程に使うには向いてない』らしい。飼育の手間がかからない代わりに人間の都合で酷使しすぎない、という制限があるらしい。今は家ともども、オリガさん達に時々様子を見てもらうよう、お願いしてある。
あと、準備の時の話なんですけど……あれも持っていきたい、これもと悩みつつ荷物を鞄に詰め込んでいたら、エーディクさんが『マイヤ、今まで入れた荷物を取り出してみてくれ』と。言われるままに出してみたら……なんと、鞄の容量の3倍くらいの荷物が詰め込まれていた。『〈魔法の鞄〉だな。便利なので昔話にもよく出てくるんだが、俺やローシャだとできて2倍くらいまでだ』ってさ! うわーこれ便利だ、わたしの場合、筆記具や書きためた覚え書きがけっこうかさばるなーと思ってたから、すごい助かる。
そういうわけで、おそらく一般人より快適ではあるものの、のんびりと進んだために当初の予定より数日遅れつつの旅路だった。近付く頃には雪解けのために、橇に車輪を取り付け馬車に換装したり。靴が濡れやすくなるということで、木製の靴底をとりつけたり、と初春の変化を感じる日々。
「彼女、人前ではどう呼べばいいんでしょう」
『さすがに〈ルサールカ〉はまずいな』
『レーナでどうだ? 昔話で定番のエレーナから』
『えーなんか安直ー』
『確かどっかの国で〈美人〉って意味だったと思う』
『そお? ならそれでいい〜』
新しい呼び名が気に入ったようで何よりです。それはともかく、わりと大きめの川や湖の点在する地域を通ってきたように思えるのだけれど、特に例年より凍結解除が早いとか遅いとか、そういうわけではないらしい。『でも……なんか、違うのよね』と仰る〈ルサールカ〉、改めレーナさん。
『水面はともかく、深部のつながりが強くなってるのよ。もともと地上とは別の世界だって思ってもらえればいいんだけど……なんかね、ずっと居たいような、別のところに行きたいような、落ち着かない感じ』
『……そうなったのはいつ頃からか、わかるか?』
あっレーナさんお願いエーディクさんをシカトしないでー! 慌てて「あの、わたしも知りたいです」と口を挟むと、彼女は『……冬至を過ぎた頃だったかしら』と。
『……水の底、ねぇ。なんかあった気がする。そいつも調べてみるか』
目指す場所、北西部随一の交易都市モルジは、もう間近に迫っていた。




