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20.意外と退屈していない

 あと二ヶ月足らずのうちに、何ができるか。何をしておいたほうがいいのか。

 ひとつには旅そのものの支度。長旅になるので丈夫で動きやすい衣服や、靴の準備と点検を。使いやすい必要最低限の荷物の選別を。――わたしの場合、〈寒さ避け〉ができるので、衣服はわりと適当でもなんとかなるんだけど、他人に不審に思われない装いは必要なので。あと、〈灯り〉も作れる……けど、あれは明らかに常人の力じゃないってわかってしまうからねー。火は起こせないし、そのあたりの道具はやっぱり必要。

 もうひとつは、フォークスにいるうちにできて、旅先でやりづらいこと。オリガさんからの知識の吸収や、〈力〉の修練――あとは何といっても文字の読解かな。会話に不自由してないので、今までおざなりにしてしまっていたのだけれど。

『話はできるが文字は読めん、という者は多いから、そこまで変ではないが……お前さんは旅先で、本を読む必要に迫られるかもしれんからね』

 そう、古書を読む機会があって、エーディクさんに頼れる時ばかりではないだろうしね! ある程度日常会話の単語を覚えたあたりでオリガさんから再度、古書に出やすい固有名詞の綴りを教わり、これらも覚え書きとして樹皮の巻物をびっしりと埋めつくしました……うんでもね、やっぱりすぐには覚えられそうにないや……〈ドモヴォーイ〉や〈キキーモラ〉みたいにお馴染みになってきたのは覚えられるんだけど。ま、まぁ、困った時はこの単語帳が頼り! という感じで見直すんだろうな、きっと……。


 それにしても、とにかく寒い! から、男の人達も外仕事は薪割りくらいで、わりと家の中でダラっとしてる様子。最初の頃狩りが多かったのは、例年よりすこし多めに稼ぐつもりだったみたいですね、イレギュラーな同居人のために。

 エーディクさんも毛皮をなめしたり、という作業時間が少なくなって、代わりに木材を削って食器などを作ったり、白樺の樹皮で篭を編んだりしてる時間が増えた。……あれ、食器も篭もわたしのぶんを作ってるんでしょうか。やっぱりものすごく申し訳ない気分……

『いいんじゃねぇのー。せっかく奴がやる気出してるんだから』

 なんだかローシャさんのニヤニヤ笑いが気味悪いですよ! それにエーディクさんのやる気のあるなしってどうやって見分けてるんですか、そんな顔に出る人じゃないのに……

『ほんと、気にしなくていいって。ここはちょっと退屈な場所かもしれないからな、このくらい変わったことがあったほうが、刺激になるってもんだよ』

 面白がられてるー。でもさっきより穏やかな笑みで頭を撫でられて、少し落ち着いた。


 時間は、あるといえばあるし、ないといえばない。文字の勉強をしているとあっという間に過ぎるし、ちょっと手の込んだ料理や、刺繍なんかをやってみるとかなり時間を食う。掃除や洗濯は要領よくなってきたからそこまででもないんだけど。

 料理は……暖炉がほぼ常時稼働状態なので、煮込み料理が作りやすいかな。朝晩に多めに作っておいて、昼は火を入れてないので、余熱で暖めるだけの食事を用意する。スープは残りに継ぎ足すように具を入れていくので、これがほとんど秘伝のタレ状態になってる。

 主食はパンに限らず、雑穀粥とか、クレープみたいに薄く焼いて肉や魚や野菜を巻くのもある。正直いってこれらの料理がかなり自分のストライクゾーンに入ってるので、教わりながら作ってる時と食べてる時は、とっても幸せ……。ただ、旅の時は自分で作れるわけじゃないから、料理ばかりに熱中しすぎるのもどうかという気がしている。

 刺繍はなんとかできてるんだけど。あんまり実用性ないから、家事の優先順位としては低いんじゃない? とか思ってた。でも刺繍があることで誰の所有物かが明確になるので、盗難防止にもなるんだそうだ。狩りの事故などで不幸があった場合の、身元証明にもなるとかで……ひぃい、ちょっとそれは今はまだ考えたくないかも。でも旅先で買った衣服にすこし手を加えることもあるだろうから、繕い物や刺繍はある程度できたほうがいいよね。


 で、そういった針仕事に伴い、糸紡ぎにチャレンジすることにしました……何かにつけ糸は量を必要とされるから、どこのお家でも奥さん娘さんが軒先で紡いでる姿を見かけるんですよねー。さすがにこれを苦手だと避けているのもよくない気がしたので。亜麻より難易度の低い羊毛からやらせてもらっているのだけれど……、ぜ、全っ然進まない。『最初はみんなそんなもんだよ』と仰るオリガさんやスヴェータさんの手さばきの早いことといったら! こ、これは家でもしばらく集中して練習したほうがいい気がする。

「あの、エーディクさん。糸紡ぎ器がほしいんですけれど、このお家にはありましたっけ?」

 相談したのはちょうどローシャさんが来ている晩だった。聞いていたローシャさんが何故か、蜂蜜酒を吹き出しそうになってる。

『……物置の奥に埋まっていた気がする。出してくる』

 階下に降りていったエーディクさんを見送った後、ローシャさんが『あ、そういや前の人の持ち物が少し残ってたっけな』と呟いた。どういうことなのか聞いてみたら、ここは昔ローシャさんの親戚が住んでいた家で、亡くなった後、しばらく空き家になっていたところをエーディクさんが譲り受けたものだそうで。

『独り身の男はふつう持ってないよ〜。でも、マイヤちゃんが頼めば作ってくれるかもね?』

 いや、あるんならわざわざ作る必要ないと思うんですけど。なんでそういう方向に持っていくかな。

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