19.衣食足りて、俯瞰してみる
『東の鉱脈で採ったんだろうな、どれも比較的上質なんじゃねえの』
――買い出しより帰還しました、オリガさん家にお裾分けしました――しかる後の相談タイムです。商売上手のおじさんにのせられて買い込んでしまった石の鑑定を、ローシャさんにお願いしております。
『こういうのは、たいてい〈力〉を秘めてる。一般人もお守りとして身につけているが、俺たち〈ヴェドゥーン〉の場合は、すこし意味合いが違ってくる。たとえば、黄色い石は一般には黄金を意味して金運や商売運に結びつくが、本来の精霊の力としては太陽や光、活力。緑の石は癒しや知恵を意味するが、根本的には植物の精霊の力』
うーん、確かに似ているようで違うというか。力の源と、どういう方向に利用したいかで生活に密着しすぎた結果にズレがある、ってことみたい。
『青いのは空の行動力や水の冷静さ。薄紅色は恋愛や、女性に関わる力。紫は精神の安定、解毒とか。透明のは浄化、白いのはどっちかっていうと癒しよりって感じ。黒いのは魔除け……魔を制する力、とされる』
ざっくり解説いただいたところで、オリガさんの提案で、相性のよさそうなものを直感で選んでみようということになった。石を入れた袋に手を突っ込んで目で確認せず数粒取り出す、というやり方です。エーディクさんは黄色、赤、茶色とか。ローシャさんは黄緑から青緑、水色とか。わたしは……ほとんど白や透明に近い薄黄や薄青、でなければほとんど黒に近いものの両極端。
『また、ずいぶんと〈力〉の傾向が読みにくいねー』
『俺からみると、マイヤの力はどちらかといえば――防御的な印象を受ける』
『面白いもんだね。この組み合わせで護符を作ってみるから、ちょいと預かるよ』
意外にこの手の細工物が得意らしいオリガさんに、お任せすることにしました。
『マイヤ、これからしばらくは冬越しに専念するつもりだが、春になったら行こうと思っている場所がある』
その日の晩にエーディクさんから話を切り出された。西にあるこの国随一の交易都市、モルジに行くつもりだそうです。北部で最も情報の集まる場所ではあるものの、冬は近隣の海や湖が凍結してしまうらしい。よほど切羽詰まっていなければ、春以降に訪れたほうがいい――とのこと。
『今が冬至から数えて38日目だから、春分までは……まだ53日あるな』
「そうですか。結構先になるんですね……」
『……もう少し早いほうがいい、ということなら、お前の〈力〉があれば然程苦労はしないだろう。だが、〈力〉に頼りすぎても危険だし、周囲からみて不審がられるかもしれない』
なんだろうエーディクさんの声がなんとなく頼りなげだ、何か嫌な思い出でもあるんだろうか……
「そういうことでしたら、春まで待ちましょう……そ、その間、まだまだお世話になるってことになっちゃいますが、それでよければ」
なんかちょっと言ってて恥ずかしくなってきた。自分で言うのも何だけど、あつかましい居候になってきたな。
『そこは心配しなくていい……そのための買い出しだったんだから、春までは気長に過ごすといい。この間に、旅の準備をしておこう』
「はい!」
二ヶ月弱ってとこかぁ。地図を見せてもらったのだけれど、先日行ったカラノークより距離は遠く、早くとも七日はかかるんだそうだ。さらに南に十日ほど行くと首都のメドヴェージに、さらに五〜六日ほどで南海の湾岸都市群に辿り着く。また、東には巨大な山脈があり、麓に鉱夫たちの村が、山から流れる川に沿ってその他の町や村が点在している様子。
ほか、西や南、東にも他の国々があるようだけれど……う、これらもメモしておくべきかな。今のところ会話には不自由してないんだけれど、地図の地名くらいは書けるようにしておきたいなぁ。
『例年、何かにつけ出かけてはいるんだがな。お前をまず連れて行くとしたら、モルジがいいだろうと思っている。歴史だけならこちらのほうが古いからな』
なんでも、南の国との交易が盛んになって以降、交易拠点が徐々に南下していったらしい。古い言い伝えも多く残っているだろうから、何か手掛かりがあるだろうと。
手掛かり、かぁ。本当にあるんだろうか。今のところ、どう考えても人智を越えた力が関与してるとしか思えない、ということしかわかってない。遠くにいる人間を離れた場所に移動させる、という〈力〉は、とても大がかりなもので、ヴェドゥーンであってもそう容易にできるものではない……というのが、オリガさん達の認識のようだ。
可能性は、ゼロではないらしい。それっぽいお伽噺――通常とは明らかに移動スピードが違うという記述――はあったりする。ローシャさんも〈速駆け〉という力を使うことがあるそうなんだけれど、人間の限界を著しく超えるようなものではないらしい。
あとは、何か繋がりのある物を媒体にして、動物(おそらくは精霊の類)を呼びつける、という話もある。どちらかというとこれに近いことが起きたんじゃないのか、というのが皆の見解であるのだけれど……その場合、呼ばれた場所に呼んだ本人がいるはずで。その人の願いを叶えないと、もとの場所に戻れない、というケースが多い。でも、わたし、誰にも何も言われてない……よね?
あの女の子……? 何か、言ってたっけ。
フォークスの里にわたしを導いて、それから……わたしに、何をさせたいの??




