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17.他人の目を意識するとか

『毎年俺も行ってるんだけど、ね……』

 ちらっとエーディクさんを見やるローシャさん。うーん、確かに彼もいてくれると断然心強いんだけど、今エーディクさんが準備してる橇、あまり大きくないようなんだよね。買い出しが目的で積載量を考慮すると、いたずらに人員を増やすのもよくない……ということになるのかな。

『お前には家のほうを頼む。時々様子を見ておいてくれ』

『……本当に、気をつけろよ』

 積んでいるのはおもに毛皮。かなり高値で取引されるらしい。確かに、需要ありそうな割に入手は難しいと思われますからね。そしてこれらを食べ物に換えてくるわけですよね。オリガさんの家でお裾分けしてもらったぶんとか、スヴェータさんにお世話になったお礼とか、そのぶんもお返ししなくちゃいけないですから……って、結局エーディクさんが支払う形になってるけど。わたしにとっては借金の借り先が変わる、ってだけのことですかね……。

『マイヤちゃんも、知らない男についていくんじゃないよ。エーディクが泣くぞー』

「それはないと思うけどー、気をつけます」

 ローシャさんのこういう物言いは社交辞令のようなので、あまり気にしないようにしてます。


 毛足の長い、やや小柄な馬――とても寒さに強い種らしい――に引かれ、鈴の音を鳴らしながら、白い道を滑ってゆく。最高速度はかなりのスピードが出るらしいのだけれども、飛ばしすぎるのもよくないし、その後雪の中で長く休憩しすぎてもよくないようなので、ゆるやかな足取りで。人がジョギングするくらいの速度のように思えた。

 なんとなく街道らしきものに沿ってゆくと、休憩所として使える小屋が設置されていて、往々にしてそれらを利用した。とはいっても本当に小さな小屋で、なんとなくその場所を囲むように線を引いて〈寒さ避け〉の空間をつくってみた。わたし達もだけど、馬がすこしでも快適でいてくれたらね……。

 ただ、馬にはあんまり意味なかったかもしれない。ほぼ野生に近い種らしく、普段の手入れもわりと放ったらかし気味だったし。飼育用の草だって普段は勝手に雪の下を掻き分けて食べてるらしいんだよね。ざっと蹄の点検や汗拭き、ブラシがけを手伝ったのだけれども、エーディクさんも超適当な感じ!『移動に使っている時くらいしかやらないし、やりすぎもよくない』と。馬ってもっと丁寧に面倒みるものだって聞いたことがあったから、正直なところ拍子抜けしてしまった……ていうかこの動物、本当に馬なのかな??


 一日目はクロートという村で一泊。宿は男女共同の大部屋で、ようするに雑魚寝状態。『離れるといろいろ危険だから』と、選択の余地もなくエーディクさんと寄り添うようなかたちで寝ることに……。え、ええと、これで普通なんですよね。大部屋なのはたぶん宿の暖房の都合だろうし。盗難とか、荷物の番とかいろいろ考えたら、これが最適なんだろうし。

 っていうかもう一ヶ月近くエーディクさんの家に寝泊まりしてるのに、今さら何意識してるんだろう……いやいやでもいつもと距離が違うから! でも不特定多数に見られてますから!! というところではたと思い至ったのだけれど、わたしとエーディクさんって、どういう風に見られてるんだろう。顔立ちはどう考えても血縁に見えないから、家族と言っても通用しないだろうし……場慣れしていない使用人と、そのあるじ兼保護者って感じに見えてるのかな。なんだかいろいろ考え込んでしまったせいか、あんまり寝れなかった……。


 翌日の昼過ぎ、目的のカラノークという町に着いた。宿は『個室もありますよ』と言われたものの、エーディクさんが即決で大部屋に……たぶん値段違うんだろうな。そうは思うものの、なんとなく理由を聞くのは憚られた。

 ここでは〈バーニャ〉という公衆浴場があって……でもやっぱり蒸し風呂だった。川のほとりに建てられていて、ときどき裸の人が風呂小屋から川面に出てきて水被ったり泳いだり。エーディクさんと交代で入ったのだけれど、当然ながら家の暖炉の中より広くて、座る場所もちゃんとしていてより快適でした。『実はクロートにもあったんだがな、あそこは男女共同だから』と後からポツリと補足され……うん、ここの人達の羞恥心レベルはやっぱりなんか違うらしい。さりげなく気を配ってくれているエーディクさんの心遣いが、なんかちょっとこそばゆい。


 次の日は朝一番でエーディクさんの馴染みの毛皮職人のところに行った。エーディクさんの持ち込んだ毛皮はどれもいい状態だ、と褒められていたものの『それにしても、そこのお嬢さんもいいもの着てるねぇ。モルジのものかい?』と興味を持たれてしまった様子。『まあ、そんなところだ』と、銀を受け取ったエーディクさんが話をぶった切って終わらせ、そのまま店を後にした。

「あの、わたし、どう思われたんでしょうかね」

 店を出てすぐ、どうにも居心地の悪さを感じてエーディクさんに問いかけた。

『俺も迂闊だったが、北部の貴族が着るレベルの毛皮を着ていて顔立ちは南方人風、その下のなりは村娘だが所作はどことなく村娘らしくないからな。不自然なこと極まりないが……南部の裕福な家の娘が、慣れない北部で過ごすために衣服を適当に見繕った、と見えるかもしれん』

「えーと、今後もそういう風に通すんでしょうか?」

『変に話しすぎてもボロが出る。あまり気にしないことだ……そうだな、喋るのもなるべく控えたほうがいいかもしれない。〈喋り方が違う〉ことに気づかれると、厄介かもしれない』

「え……」

『フォークスとは違う、ということだ。あの場所が特別寛容なだけで』

 いつになく張りつめた表情のエーディクさんの横顔を覗き見て、わたしはそれ以上言葉を続けられなかった。

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