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15.傾向は人それぞれらしく

 それからというもの、紆余曲折と試行錯誤をくりかえし〈感覚〉をつかむよう、訓練すること十数日。

 最初は『なるべく精霊の気配を掴むこと、できれば意思疎通を試みること』からはじまり『精霊の存在を感じ取れた時、その力の流れを少し、違う方向に動かすようにイメージすること』と教わった。必要ならば(姿が見えないとしても)声をかけたり、身振り手振りでその〈力の流れ〉を形作ることで、よりその力を発動させやすくなるらしい。

『お喋りなやつは適当に話していれば動いてくれたりするもんだよ。コソコソっとしてるやつはさりげなく動かすような感じで。ちょっと上位の、気位の高そうなのは敬意をはらう祈りの文句や、気長に待つ集中力がいるかもな』

 ローシャさんのざっくりとした解説をもとに、日頃から家事の合間に、または買い物やお使いの道中に周囲に気を配ることしばし。外出中になんとなく気になるのは霜……の気配、だろうか? なんとなく、静かに見られてるって感じの視線を感じる、気がする。ただの自意識過剰って言われたらどうしようもないんですけどね……。

 家にいるときは……やっぱり、〈キキーモラ〉をよく見かける。だいたい夜中になんかやってる……『俺はそこまでは気づかないんだが』とは同居しているはずのエーディクさんで、彼は神経質そうに見えて、意外に眠りが深い様子。そのかわり『なんとなくザワザワする気がして、落ち着かない。〈ドモヴォーイ〉の仕業のような気がしている』と言いつつ、かまどの手入れをまめに行ってます。

 あと、家の中でも一階(半地下。ふだん居るのが二階で、玄関も階段あがって二階から入るようになってる)のほうが、なんとなくそれっぽい気配を感じるんだよね。貯蔵庫や、冷たい水を汲んだときの冷気とか。このへんはまだちゃんとした姿や声を聞けてはいないけれど、〈力の流れ〉みたいなものは感じ取れる。なんとなく、冷蔵庫から流れ出る冷気を止めるような感覚で手を振ってみたら、冷気がそこで留まったような……気のせい、かな?


 狩りは常に連れて行ってもらっているわけじゃないけれど、ローシャさんは〈レーシィ〉――森の精霊――の声がよく聞こえるんだそうだ。ローシャさんが言うにはのんびりしたお爺さんで、奥さんとか子供とか他にも何人かいて、各々がマイペースに話しかけてくるらしい。

 〈スィム〉と〈リグル〉にもまた会った。彼らの声はわたし達全員に聞こえるのだけれど、やっぱり、基本的にエーディクさんに向けて語りかけてるようなんだよねぇ。


 それから夜なんですけど、けっこう灯りの足りなさに苦労することが多くって、なんとかならないもんかなーと思っていたら、エーディクさんが灯りに手をかざして――火の大きさが増した。いいなー便利だなーと思ってわたしもやってみようかと思ったんだけど、うまくいかなくて……ふてくされて寝た夜、なかなか寝つけなくて。窓を覆うタペストリの隙間から光がわずかに漏れているのを眺めていたら、ピンポン球みたいな光の玉が2個、3個とふわんと流れ込んできた。あれーと思っている間にその光の玉はふよんふよんと跳ねて、しばらくして消えた。……螢じゃないよね、今は真冬なんだし。

 それからわざと暗くして、外から光を呼び込むイメージで、招き入れるような仕草で念じると、やっぱりふよんふよんと光の玉が寄ってきた。でもこれ、エーディクさんの灯りよりずっと頼りないんだよね! あんまり役に立たなさそうなので、エーディクさんにはしばらく黙っていたのだけれど。一階での作業で使っていた時にバレてしまいました……

『いつからできるようになったんだ』

「し……四、五日くらい前、ですかね……」

『何で言わなかった』

「いやその……大したことじゃないと思って、何となくですね」

『大したことじゃないと思っても、言ってくれ』

 な、何だろうエーディクさん、もしかして怒ってる? それとも今日だけ機嫌悪い、のかな……? その日はそのまま、なんとなく気まずい時間を過ごした。


『それは……何だかな』

 後日ローシャさんに話したら、やっぱり首を傾げられた。

『俺が奴を見てたときはそこまで干渉しなかったぜ。あーコイツ、いつの間にか腕上げてるじゃんって感じで放っておいたから。だいたいいくら信用できても、自分の手札を他人にぜんぶ晒すようなことは俺はしたくないし、させたくもない……けど』

 こっちを見て、なんとなく目を細めるローシャさん。

『本当に、何だかなぁ』

 ちょっとちょっと、変な間をつくって締めないでくださいよ。

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