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14.隠し芸みたいなものだろうか

『その可能性は、わたしも考えていなくはなかったが』

 すっかり馴染みになってしまったオリガさんのところで、めずらしく朝からエーディクさん、ローシャさんと揃っての話になった。男性陣は普段は外の仕事に出向くのだけれど、今回はエーディクさんの強い希望により、この場が設けられている。

 エーディクさんの話によると――わたしにはある種の素質があるのではないか、とのこと。里で〈ヴェドゥーン〉と呼ばれる――女性の場合は〈ヴェーディマ〉となるらしい彼らは、神や精霊の言葉を聞き、その力の一部を借りることができる者だそうで。

「それって、どのくらい珍しいことなんですか?」

『この里付近だと二、三軒に一人いるかいないかといったところかね。昔はもう少し多かったんだが』

『大きな都市ではもっと少ないな。百人に一人いるかどうか……もっとも、力を発揮する機会に出会うことなく、知らずに日々を過ごしているだけかもしれないけどな』

 ローシャさんがちらっと意味ありげにエーディクさんに目を向けた。

『都会では南の新興宗教が古い神々を圧倒している。廃れたものだという認識だ。――だからこそ、マイヤのように神々の力の及ばぬ場所での暮らしをしていながら、その加護を受け、この地に招かれた――俺にはそう思える――者にはなるべく、それらの古き力に触れるように勧めたほうがいいのではないか、と思える』

『……お前がそう思うんなら、そうかもしれないな』

 ローシャさんがテンション落とし気味の時は真剣な話なんですよね。なのでわたしも真剣に聞いています。

『マイヤ、お前さえよければ、今後なるべくそういった力や知識を身につけるような機会を設けたいが』

「そう……ですね。なんとなくですけど、わたしもそのほうがいいんじゃないかって気がしてきました」

 他にやることないし。ってか家事や雑用とか、生活するうえで必要なあれこれをこなすのはそれはそれで大事なんだけど、それだけで終わっていいのかって問題なんだよね。特に……森の奥にいた〈彼ら〉について、知らないままで過ごすわけにはいかない、と思ってる。


『で、〈相性〉だけどさ。今までの感じからするに、寒気の精霊とか、家の精霊、あとは……他に何か遭遇した奴らいる?』

「あとは……スィムとリグルですかね」

『あれは、どっちかっていうとエーディクじゃねぇの? 奴ら、お前にばっかり姿を見せるだろ』

『かもしれないな』

 そう……かもしれないけど。あれ、ちょっと待って。エーディクさん、それってもしかして。わたしがエーディクさんのほうを見つめてしばし瞬くと

『俺も、〈ヴェドゥーン〉のようだからな』

 あ……そういうことでしたか。納得。


『……あのさ、実は俺もなんだよ、マイヤちゃん。エーディクよりも年季が長いから、こっちも頼りにしてくれていいんだぜ』

 なんとなく居心地悪そうに割り込んできたローシャさんの台詞に、さらに納得。

『〈ヴェドゥーン〉らの人数が減ってきている以上、個人差も大きいからの。ひとりに定めて師事することはない、なるべく多くの同胞から学び得るほうがよいと思うておるよ』


 その後、わたしは二人に狩りに連れて行ってもらった。

『風や雲の流れを読むことに関しては、ローシャのほうが上手いな。おそらくはそれらの〈加護〉を受けている』

 本当に、ほとんど迷わずサクサク進んでるようなんですよね。狩りの獲物ってこんなにスムーズに探せるものなのかって、経験のないわたしでも疑問に思えるくらいに、ローシャさんの先導には無駄がない。

『……俺は、普段はあえてこの力を使って狩りをすることはないんだが』

 真昼の木漏れ日でまだらに光る雪原を、掠めるように動く小さな影。エーディクさんは手袋をはずし、右腕をすっと頭上にかざした。ひと呼吸、ふた呼吸。

 ひゅっと、鋭く息を吐き出す気配と同時に振り下ろされた右腕。その指先が指し示す方向に、強烈な一条の光が走った。空の真上から落とされた、矢のように鋭い光の筋。トサッと軽い音を立てて、その場所に何かが落ちたよう。

 近付いてみると、真っ白な雪兎がくったりと倒れていた――外傷は、どこにもなかった。

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