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13.まだまだご挨拶してませんでした

 そうそう、実は二日ほど、〈レジャンカ〉――あの暖炉の上の寝床――にお世話になったんですよ。二週間くらい立った頃だったかな。例の月のアレが来てしまいましてですね……アパートに常備していた鎮痛剤などあるわけもなく、スヴェータさんに相談していろいろと便宜を図ってもらったものの、屍のように生気の失せた有様をさらけ出してしまっておりました。

 いつになくエーディクさんが険しい顔つきで心配するものだから、「今日明日あたり放っておいてもらえればおさまる」と言ったのだけれど、それでも暖炉の上で寝るようにと強く言われて。どうもソコは病人や体調の悪い人が優先的に使うものだという意識があるらしくて、そこで意地をはるのもどうかと思ってお言葉に甘えることにしました。煉瓦の上に木の板が渡されていて、さらに敷物が敷いてあるんだけど、うわーすごくあったかいわー。これ慣れると逆に危険かもしれない、コタツみたいに抜け出せなくなりそうな予感がする……

『そうか、暖かいか』

 ときどきエーディクさんはわけのわからないポイントに注目するのだけれど、今回は何だろう……

『最初お前がレジャンカを嫌がったとき、〈そういう類のモノ〉かと思ってな。実はあの時は警戒していた』

「はい……?」

『寒さを感じていなかったようだからな、逆に熱いものに弱い連中ではないのか、と思っていたんだ。実際には風呂にも平気で入っていたから、違うとわかったわけだが』

 いや……あれはただそういう使い方を知らなくて、状況が呑み込めなかっただけなんですけど。ただその話を聞いてふっと思い出した。小さい頃に読んだ絵本で、そういうのなかったっけ。――子供のいない老夫婦のもとに、雪の日にやってきた女の子。焚火を飛び越える遊びに誘われて、溶けて消えてしまった――

 ふわっとあの女の子の顔が浮かんだ。白い髪に青い目の、儚げな少女。あの娘だったら、やっぱり暖炉には近付きたくないんだろうか……


『マイヤちゃん、具合悪いって聞いたけど……』

 翌日訪れたローシャさんが、わたしが疲れた顔で暖炉の上に横たわってるのを見つけて、ついでエーディクさんのほうを見て。

『お前、もしかして』

『たぶんお前の考えてることと違うぞ』

 わたしにもなんとなくわかったけど突っ込む気力がなくて、ローシャさんの対応はエーディクさんに任せておいた。


 二日目も早めに寝させてもらうことにして。そういえば、やりかけの縫い物を放置していたのを思い出した。明日はちゃんとあれを仕上げなくちゃ……と眺めていたら、そのあたりがモゾッと動いた気がした。んん?

 灯りも落とし気味で薄暗い部屋の中だから、最初はよくわからなかったけれど。すこし集中して見ていたら、やっぱり何かが動いてるのがわかった……けど……?

 それは、格好だけはオリガさんに似ていた。髪を覆ってショールを肩にかけた年配の女性のようで……ただし、サイズ感が全然違う。つくりかけの靴下や小物袋の間にちょこんと座っている、靴下よりやや大きいくらいの人影。ちっちゃい身体をちまちまと動かしたり、時々「キキッ」て小さく鳴いたり……え、ええ? もしかして、ネズミなんだろうか??


 翌朝、謎の小さな人影がいたところをよく調べてみたら……あれ、もしかして、縫い物が自分でやってた時より進んでる? まさかの小人の靴屋さん的な妖精でしょうか。朝一番でエーディクさんに相談したら、相変わらず驚いた様子もなく淡々と告げられた。

『たぶん〈キキーモラ〉だな。夜中に主婦のする仕事をやっていることがある』

 オリガさんのところでも挿絵入りの巻物を見せてもらった。直立歩行したネズミが主婦の格好をして、掃除や糸紡ぎをしてる図。何それちょっとかわいいうえに助かるんですけど。一家に一匹欲しい感じですよ。

『しかし、マイヤはこの短期間によく遭遇するな。本当に……なのかもな』

 ――このときエーディクさんが考え込んでいた内容については、後日詳しく聞かされることになります。

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