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11.冬の夜は、人恋しい

 髪や身体を洗うようにと、壷に入った黄褐色の謎の液体も渡されましたが……灰を煮込んだ汁の上澄みだそうで。灰ってアルカリ性でしたっけ? なら確かに洗剤になるよね。お肌や髪にどれだけ優しいかはわからないけれど……うわ、けっこうヌルっとしてる。これは使いすぎると流すのが大変かもしれない、とりあえずは少なめで試してみようか。エーディクさんは暖炉の中で使っても外で使ってもどっちでも構わないって言ってたけど、なんとなく中でやろう。蒸気と壷のお湯である程度流さないと、盥と水桶だけだと落としきれなさそうだから。

 ――強烈なカルチャーショックを受けつつも、しっかり身体は暖まらせてもらったわけですが。最後に入ったエーディクさんも、それなりに脱ぐ時には気を遣ってくれたようなので万事落ち着いた、というところで。


『俺、マイヤちゃんと一緒に暖炉の上で寝たいなー』

 なんでこの人はいちいちこういうノリなのかな……実は暖炉の上の寝床はちょっと興味あるんだけど、でも同衾は遠慮させていただきますから。

「お二人が暖炉の上でいいんじゃないですか?」

『いや……何が哀しゅうて男と寝なきゃならんのよ』

『食事で使ってるもう一つの長椅子をこっちの壁につければ、もう一人分の寝床になるから、それで三人別々に寝れるぞ』

 エーディクさんのナイス采配で事なきを得、ついでに風呂の時に使った衝立をわたしの寝床の傍に置かせてもらうことにした。

『ふーん……マイヤちゃん、思ってたよりガードが固いね。俺はてっきり』

「何ですかその微妙な期待に満ちた目は!! わたしの国ではこの距離感が普通なんです、これでも近いくらいですよ!」

 おそらくは暖房の都合なんだろうけれど、ほとんど部屋を仕切らないで大部屋で家族でもない人と過ごすってのがね。……まあでも、子供のころの田舎の雰囲気にちょっと近い……かも……

『マ、マイヤちゃん?!』

「いえ……ごめんなさい、ちょっと……思い出しちゃって」

 やだな、恥ずかしい。人前で泣きそうになって慌てて腕で涙を拭う。そろっと頭を撫でられた感触があったので少しだけ目を上げると、エーディクさんが傍に立っていて。

『……もう少し聞かせてくれないか。お前のいた場所の話を』

 うん、今日はまだすぐには眠れなさそうだから……お言葉に甘えることにした。


 各々が掛布を持ちよって、暖炉近くの床に座る。

 この里とわたしの田舎の似ているところ、違うところ。わたしの小さい頃、学生の頃。上京してきた頃、就職して――うっかり彼氏に振られたところまで言いそうになったけど、そこはごまかした。女友達なら遠慮なく話してたと思うけど、なんか話題が違う感じがしたので。

 そういえばクリスマスが近かったなとか。煙突から入ってプレゼントを配るお爺さんの話をしたら、ローシャさんが『それ泥棒が見つかったのを誤摩化したんじゃないのか』って突っ込んだので吹き出してしまった。あとはちょうど柚子湯をやった日だったこと――お湯をはる風呂の話になって、エーディクさんが『温泉みたいだな』とか(こっちにも温泉ってのはあるらしい)。お風呂上がりに飲んでたお酒は、日本では米で作るんだけど、こっちでは麦が主流で――でもビールとはだいぶ違う、果汁も入ってるので甘い口当たりだったり。そういえばエーディクさんが最初に飲ませてくれたのは蜂蜜のお酒で、かなり度数の強いやつだったとか。

 今までなんとなく緊張してたから、〈託宣〉とやらに関係のなさそうな話は、なるべくしないようにしていたのだけれど。脈絡のない些細な話題をいくつも連ねて。笑ったり、興味を持ってまた詳しく聞き込んだり。

 すこし気が紛れたら眠くなってきて。そこで寝床に下がらせてもらうことにした。なんとなく、心地良い疲れを感じでいた。


『……本当に、ちゃんとした人の暮らしを送ってたんだな。だいぶ職人の技術の発達した、都に近い場所の印象だ』

『だが、精霊や神の力の及ぶところの弱いようだな。……そこも何かの手掛かりになるかもしれないが』

『奴ら、〈変化の兆し〉と言ってたよな。確かに、何か異質だ……ただ彼女自身に、差し迫って危険な気配は感じられない』

『そうだな。彼女に限って注意深く見守る、というだけでは充分ではない気がしている。もっと大きな流れを読む必要があるのではないか、という気がしてならない……』

 ――おぼろげな意識の把握する範囲で、ふたりはまだ、すこし話してるようだった。

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