不健康管理ビジネス
……そう言えば、私の知人が新しい商売を始めましてね。
増悪師、です。そう――ぞうあく。
ええ、正確にはそうなるのですが……まあ、より分かりやすく言うなら、悪化師、といったところでしょうか。
要するに、ケガや病気を治療する治療師の正反対ということですよ。それらを悪化させる職業です。
……ええ、そう思いますよね。
私も最初耳を疑いました。そんなものが商売として成り立つものなのか、って。
ですが……これが案外好評らしくて。
どうも、自分のケガ、あるいは病気が、『もっとヒドかったら……』とか思っている人間は少なくないようですよ?
死ぬのはイヤだ、だけどこの程度のことでは、痛いばかりで何の恩恵も無い……といった風にね。
仕事を休みたいのに、とか、保険金が欲しいのに、とか、もっと心配して欲しい、だとか。
あるいは、失敗に対する言い訳にしたいとか、悲劇ぶりたいとか、そもそも性癖だとか……まあ、理由は人それぞれ、色々ですが。
ああ……それと、キチンとした治療師と業務提携もしているらしくて、そっちも大繁盛らしいですよ。
一度ヒドイ状態になって、ようやく健康のありがたみを知るって人間も多いらしくてね……まったく、上手いことやるものです。
……ええ、そうなんです。
だったら、悪化対象を本人だけでなく、他人にまで広げてみたらさらに儲かるんじゃないか、とは言ってみたんですけどね。
ダメだそうですよ、それは。
ええ。
法律はもちろん、倫理感が許さないとか、そういう問題じゃなくて――。
そうです。
そっちまで手を出すと大ケガする……だそうで。