無関係な俺
さてさてさて水曜日。練習試合まで残っている日数は今日含めてたったの3日だ。指導者無くしてほぼ自主練に近い形での練習で、本当に大丈夫なのだろうか。まぁ、俺の知ったこっちゃ無いんですがね。練習試合当日だってただの付き添い人風を装って、テキトーにシラを切ってやるさ。
そろそろ1年生が中学校生活に慣れ始めたこの頃。俺が担任している1ー3組のホームルームも終わり、下校する者は下校、部活へ行く者はそれぞれの場所へ向かっていった。
「先生.........」
「んあ?...........ああ、なんだ、小春か。どうした」
先生用机で伸びをしていた俺に話しかけてきたのは、内気の擬人化、影染小春だった。ああ、勘違いされると困るから言っとくがな、俺は学級の担任や授業の先生としては一丁前に働いてんだぜ。ひとりひとりの生徒だってちゃんと見てる。部活だけはやる気にならないだけだからな。
「えっ、あっ、その..................」
「ん?どうしたんだよ?」
何か言いたげな様子だが、なかなか口にしない。まったく、いつまで人見知りを拗らせてんだ。お前の担任だぞ、いい加減慣れろよ。まぁまだギリギリ業務中だ。気長に接してやるよ。
「こっはるーーー!!!部活いこーぜーーーー!!!」
突然教室の外から耳障りな大声が突き刺された。元気活発天真爛漫なあいつだ。その声の方向、廊下から教室を覗き込んでいたのは速水刹那だった。
「ごっ、ごめんなさい!」
ペコ、と小さなお辞儀をして小春は刹那の元へ向かっていき教室を後にした。なんか俺がフられたみたいな感じになってんな。てか、なんだったんだ。
もういいや、俺も体育館行こう。めんどくせーけど、行かなきゃお偉いさんにどやされるかもしれないしな。
はい、着きました。
「しゃっす!」「「しゃっす!」」
「お願いします!」「「お願いします!」」
6人整列して俺に挨拶、そして俺は
「ああ。じゃあお前らの好きにやってこい」
いつも通り用意された椅子に腰掛けて、ダラダラ見物。のつもりだったが、今回は前の2日間とは少し違っていた。
「心、アップさせといて。お願いね」
「うん、わかった」
キャプテンのアリサが副キャプテンに主導権を渡し、俺の目の前に留まった。他5人はウォーミングアップのためコートへ入っていったのに。
「なんだキャプテン。お前はやらないのか?」
「いいえ、少し話があるんです」
なんだよ、その真剣な表情は。そんな顔で前に立たれたらダラダラできねーじゃねーか。
「先生、私たちにちゃんと指導をしてください。みんな、本気で全国制覇を目指してるんです。土曜日の練習試合だって、絶対勝ってチームに自信をつけたいんです。だから」
「俺に名采配を求めてるってか?悪いが俺は全くの素人。バスケのバの字も知らないんだぜ」
「だからってそんな態度............!」
キャプテンの声と顔に感情が込み上げてきているのがわかる。でも関係ないね。
「何々がしたい、何々を目指してる。ガキがどんなに叶わない大きな夢を持とうが見ようが、お前らの勝手だ。だがそれを無関係な俺に押し付けんじゃねーよ。言ったろ?俺は顧問を嫌々やらされてんの。全国制覇なんて夢のまた夢の雲を掴むような目標を達成してーなら、自分たちでなんとかしろ」
「.................」
言い負かしたった。
「でも!授業ではすごいみんなのことを思って教えてあげてるじゃないですか!基礎の基礎もわからない子だって、見捨てないでイチから教えてなんとかしてあげてるって........」
なんでこいつが俺の授業の様子を知ってんだ?俺が数学の授業で受け持ったクラスの生徒は、2年1年を合わせても小春だけだったハズだが。あっ、まさかあいつが。
「それは俺が数学の教師としてこの学校に出勤してるからだ。バスケの顧問をやるために来てるからじゃねえ」
「.................わかりました、失礼します」
食いしばるように顔を強張らせ、その場を後にするキャプテン。
「ったくよぉ」
ギシシ、と軋むパイプ椅子。そこに居るだけでもラクじゃないぜ、部活の顧問ってのは。
昔、たしか漫画だか小説ドラマか忘れたが、なんかで見たことがある。真摯に打ち込む者のプレイは観客の心を動かす。たぶんどっかのスポ根だったかな。全国制覇目指してんなら、俺のひねくれた心だって動かせるハズだろ?俺の考えが始めから変わってないのなら、そういうことだろ。
練習の雰囲気は最悪も最悪。キャプテンがなんとか盛り上げ、まわりもそれについて行こうとしているが。顧問と選手の間の亀裂が、メリメリと広がっていっているのだった。
そして最悪の状況のまま。練習試合当日を迎えることとなった。