練習試合があるらしい
俺が女子バスケ顧問になっての2日目がやってきた。今回も俺は全くバスケに興味を持たず、コートの外でボケーっと練習を眺めるだけだ。あ、ちなみに俺が今腰掛けているパイプ椅子。これは練習開始前に小春が用意してくれたものだ。
あっ、また小春がミスしたっぽい。6人の中で唯一の初心者らしく、動きもぎこちない。
「ごっごめん刹那ちゃん.............!」
「気にすんなー!次いくぞー!」
2人ペアで交互にパスをしながらコートの端から端まで走り、ゴール前まできたらシュートを打つ。それをコート一往復したら終了。外れたら一周やり直し。
2回に1発はシュートを外す小春とペアを組んでいる刹那は、彼女のミスを全く意に介さず元気に走り回っている。1本でもシュートを外したら走りっぱなしになるというのに。刹那のほうは今のところノーミスでシュートを決めきっていた。
「小春!顔上げて!あと1本だよ!」
「っつ、はいっ!」
外からエールを送るのは、キャプテン副キャプテンペアのアリサと心。彼女ら、特にアリサはキャプテンとしての責任を感じているのか、何かあるごとにチームメンバーとコミュニケーションをとっている。
「ナイッシュウ!!」
...........なんとか小春がレイアップシュートを決め、次にコートに出たのは絵馬、三春コンビ。
「絵馬、行くよっ!」
「OK!」
コート半往復をパス3回で繋げ、絵馬が強く踏み込んでシュート。ゴールのネットに指が引っかかるレベルの高さまで跳んだ。先程の小春の2倍は跳んでいるのではないだろうか。残り半往復もトップスピードで戻ってきて、正確にシュートを決めてフィニッシュ。
「ナイッシュー!」
そしてキャプテンコンビがスタート。
「いいですね、なかなか質が高いツーメンしてるじゃないですか」
「あ?」
テキトーに練習を眺めていた俺に話しかけてきたのは、隣の面で活動している男子バスケ部の顧問。竹岡先生だ。俺の隣で壁にもたれ、コートを走る女子を目で追いながら言った。
「僕たち男バスも負けてられませんよ。今年こそは県大会ベスト4を狙うんです」
竹岡は熱い。なんと言っても熱い。とにかく選手に己の全てをぶつける熱血指導スタイルの教師だ。今年始めに俺と一緒に滝蓮中学に入ってきたのだが、俺と違うのは年齢と経歴。竹岡はイケイケの20代前半、新米教師というわけだ。俺と真逆だな、なにもかも。
「県ベスト4ですか。そりゃーすごいっすね。こいつらなんか全国制覇が目標なんて言ってんですよ」
男子バスケのほうはなかなか現実味のある目標だったために、こっちの全国制覇がさらに恥ずかしいものに見える。
「はは、大きく出ましたね。でもみんなすごい頑張ってるじゃないですか。これは週末の練習試合に誘ったかいがあるかもですね!」
「はあ.....................あ?」
今なんか変な単語が聞こえたような。
「練習試合だって?」
「ええ、今週の土曜日!海清中学が男女揃ってうちに来て練習試合してくれるんですよ」
ああ..............休日に普通の練習ならまだしも、他校との練習試合なんて。午前か午後どっちかは時間空くと思ってたのに、これじゃあ1日丸潰れの恐れがあるじゃないか。しかも今週の土曜て。今日は火曜だし、もうすぐじゃねぇか。
「元々海清の男バスとは仲がよくて、よく練習試合をしてたんです。そこで、滝蓮女バスも最近すごく頑張ってるし向こうの女バスも誘ってみたんですよ」
余計なことしやがって...........!なんだ!?滝蓮の教師はみんな俺の敵なのか?俺の私生活時間を無くしたいのか!?
「あーそうかい、練習試合ね。はいはい」
竹岡は俺のどん底に落ちた表情に気づかず、さらに続けた。
「海清は強いですよ〜。男女ともに県大会上位常連ですからね!チームのステップアップに繋がる試合になりそうです!」
「けっこうな強豪だな.........」
あああ。こいつらがボロ負けして、顧問の俺が恥かくはめになっちまうかもしれねえ可能性大じゃねえか。向こうはとんでもない策略家の監督とかいるんだろうな。サイアクだ。今すぐキャンセルしてぇわ。
「頑張りましょうね、滝蓮バスケの底ヂカラを見せてやりましょう!」
そう言って男子バスケのコートへ戻っていく竹岡。あんの野郎。
強豪校と週末に練習試合、という爆弾情報を得て2日目は終了。当然俺はあれからも全く彼女らに指示等することなく、ボケーっと座っていただけなのだった。