なんで俺が
初投稿です。
どうぞよろしくお願いします!
「君、さっそくだけど今年から女子バスケ部の顧問お願いね」
「は?」
このハゲ野郎が。なんで俺が、ルールを微塵も知りもしないスポーツの顧問なんざやらなきゃいけないんだ。
第一、俺は教師になって以来、心に決めていたことがあったんだ。それは『部活動の顧問をやらない』こと。ただでさえ仕事量がハンパねーのに、ガキの面倒を見るという残業を増やされ、休日も丸潰れになる。興味のある分野ならまだしも、バスケだぞバスケ。やったこともねーっつーの。
あ、自己紹介が遅れました。俺、滝蓮中学に異動してきた中堅レベルの教師です。まぁ人員問題うんぬんなんとやら?学校職員は異動することは珍しくないから、そこら辺は察しといてくれ。ちなみに担当教科は数学。そして1年3組の担任だ。好きなスポーツは、観戦専門でサッカー。嫌いなスポーツは、たった今バスケに決まりましたとさ。
「今頃、部員のみんなは練習してるところだと思うよ。体育館まで顔を出してやってきてね」
「はい、わかりました!」
ぬゥわぁ〜にが、顔を出してやってねだ!まだ俺が顧問を引き受けるとは言ってねーだろうが!クソが、覚えてろよこのハゲ!バーコードスキャニングハゲンション!お前、俺が初日出勤した時にめっちゃ優しくしてくれた借りが無かったら、こんなもんすぐさま無理やりお断りしてたんだからな!
............あの聖人の具現化とも言える、伊藤先生。通称"ハゲ"。頭髪と引き換えに、仏のような心を手にしてしまった滝蓮中学1年の学年主任だ。突然この中学にやってきた、冴えないオンボロ40代おじさんの俺にも優しく接してくれている。ちらりと聞いた話では、滝蓮中ナンバーワンの人気者教師なのだとか。
でもやっぱり伊藤先生からの頼みとはいえ、部活の顧問はやりたくない。さて、どうしたものか。体育館に着くまでに思いついてくれよ、解決策。こうして俺は、やや年季の入った廊下を渡って外の体育館へ向かった。
「おーおー頑張っていらっしゃる」
窓の外から見える、少年少女の青春物語。夏の大会に向けてグラウンドを駆け回るサッカー、野球、陸上、テニス等々の部員たち。
こんなカンカン照りの中で熱血指導してる先生も、お疲れ様なこった。ん?バスケは室内スポーツだろ?体育館の中なら日差しに怯えることなくダラダラできるんじゃないか?いや、逆に暑さがこもってヤベーんじゃないのか。.........世の中は平等だ。
しかしシンプルな造りをしてんなこの校舎は。迷ってるうちに終わりの時間になりましたー、ってことにはならなさそうだ。
「ああ、着いちまった」
妙に重そうに感じる鋼鉄のスライドドア。確かに中からドリブルの音や叫び声が聞こえてくるな。はあ、テキトーに挨拶したら今日は帰ろう。明日に「やっぱ無理でした」と伝えて終わり。これでいこう。
ガララ.........と見た目通りの重厚感ある開閉音を奏で、体育館の扉が開かれる。うっ、そこらかしこから目線がっ。
コートが2面あるうちの俺が開いた扉側のコートでは、バスケットのTシャツを着て走り回っている女子が............たったの6人。こんだけ?これが女子バスケ部か?何?向こう側のコートじゃ男子バスケ部だと思われる大軍がうじゃうじゃいるってのに?どんだけ過疎部だよ。バスケって1チーム5人だよな?ギリギリじゃねーか。
あ、女子のひとりが俺に気づいたのかこっちに近づいてくるぞ。
「集合ーー!!」
なんだなんだ!?
俺に近づいてきた女子1人が目の前で立ち止まるなり、大声で号令をかけた。その号令に反応して、残りの5人もいっせいに駆け寄ってくる。そして俺の前に横一列に並ぶなり.........
「しゃっす!」「「しゃっす!!」」
「お願いします!」「「お願いします!!」」
出た出た。その体育会系特有の挨拶。リーダーだと思われる1人の放ったセリフを皆が復唱するやつな。
短いおじきをした後に、女子6人の目線が俺へ集中砲火される。そして口を開いたのは、列の真ん中にいる少女。俺にいち早く気づいて駆け寄ってきた、リーダー格の少女だ。
「先生、これから女子バスケの顧問をやってくれるんですよね!よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
希望に輝く皆の目。いろんな意味で眩しいわ。こんな純粋な少女たちを前に、顧問なんてやる気ないぜなんて言ったらどーなんだろうな。