プロローグ『景色』
1000字前後でかく予定です。
誤字脱字は気づいたら直します。
本文に大きな変更はしないつもり。
世界は単純だ。
目で見たものをそのまま考え判断する。
でもこの中でただ一人、八木天は違った。
夕日が窓から差し込み薄暗い教室の中、誰もが声にならない悲鳴をあげながらその中心に立つ青年を見ている。
あまりにも信じがたい光景にその場に膝から崩れ落ちるものもいれば、もう何が起こっているのかすら判断出来ず目を丸くし立ちすくんでいるものもいる。
その周囲の人々の目には一人の青年が映っている。
でもその青年には何故か周囲の人々が見えていない。
「ぐはぁ」
口から普通では信じられないほどの血を教室の人が囲んでいる中心に吐き出し、その場に倒れた。
周囲は相変わらずの状況…青年には見えていない、ただ朦朧とした意識が微かにあるだけ。
でも自分がどのような窮地に立たされているのかは分かる。
両手がなく腹には大きな何かで切られたような三本の線が刻まれている。
そして次の瞬間、青年が人生最後に見たのはクラスの全員が優しい笑顔こちらを見ている景色だった。
気がつくとそこは、天国…ではなさそうだ。
地獄とやらでもないらしい。
自然と分かった、いや青年の目には何も映っていないわけではなかった。
自分ではわからないが何故か笑っている。
そして目の前、視線の先には、見ているだけでも胸が痛くなるような光景があった。
それを見て思わず涙がこぼれる…もうどうしようもないくらいになってしまったそれは頬を伝っていずれ地面へと流れる。
周囲の中の一人、人に囲まれている中の一人、その真ん中には、どこかで見たことがある姿が無残に血溜まりを作って倒れている。
「……おれ…?………!?」
ここで気がつく。
自分が倒れている、その男はもう動くことはなく死んでいる。
間違いなく自分だ、もう16年も付き合っていた体、忘れるわけがない。
でもなぜ?
相変わらず周りからは悲鳴のひとつ上がらなければ、腰が抜けて立っているものはいないし恐怖を感じているその顔は皆同じで………
ーーー「はっ!!」
ふと感じる視線…はっとその方向の窓を見る。
するとそれはすぐに消えた、でも消える瞬間はっきりと見た、窓ガラスに張り付いた全身黒いマントに覆われ顔だけがこちらをじっと除いてた黒い正体。
それは、鬼のような形相で口を顔ギリギリまで釣り上げて笑っていた。
そして一瞬目が合い、うっすらと消えていった。
ーーー「かーん」
教室の中に何か高い金属音が鳴り響いた。
すると今までまるで何者かに呪いをかけられていたかのように動かず声すら出なかった体は自由を取り戻した。
そしてやっとクラス中のあちこちから様々な悲鳴が聞こえた。
あの事件から数日後、悲鳴を聞き駆けつけた教師らによって警察が呼ばれその場にいた生徒達は全員が事情聴取との事でそのまま警察署に連れていかれた。
中には話すことも出来なくなるくらい心に傷を負ったものも数人…あとは喋れたもののあまりの悲惨な状況のせいか引きこもりになるものも少なくなかったらしい。
その中で一人だけ事情聴取をされないようにすぐにトイレに駆け込み鏡を見たあとすぐに自分の犯されている状況を理解した。
ーーー「………っっ」
女性特有のあるものがあり、髪は腰まである黒髪、女物の制服を着た自分がいた。
それはクラスの人気者であり唯一自分に親しくしてくれていた『白河あい(しらかわあい)』だった。
言葉を失くした、自分が死んだのになぜとかそんなことは思わなかった。
ーーー「じゃあ今あの子はいったい……」
さっき泣いた時の涙の跡を伝っていくように静かに涙がこぼれた。
どんどんとぼやけてくる視界を無視して鏡を見ながらかれるまで涙を流し、気づいた時には見知らぬ部屋のベットに寝かされていた。
隣には知らない女の人が泣きながらこちらを見つめ、隣には知らない男の人がその女性の肩に手を置いて俯いていた。
それからその人達はどうやらこの体の主(白河あい)の両親だということがわかりあれから数日ずっと寝込んでいて、俺はトイレで倒れているところを警察に発見されここ、白河家に連れてこられたらしい。
それ以外は何も聞かされなかったが、一つだけわかっていることがあった…
本当の俺は『死んでいない』。
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