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亡命者と暗殺者(後編)


 少女が目覚めると、隣のベッドには知らない人物が寝ていた。

そこで、ふと思い出す。

自分は亡命する為に、この人物に連れて来られたのだと。


 亡命とは、もっと危険なものだと考えていた。

少なくとも、誰も見張りがいない状態で、ぐっすり寝れるものだとは思わなかった。


「あ、あの……」


 起こすものどうかと思ったが、少女は意を決して、隣に寝ていた女性に声を掛けた。

あまりにも寝息が静かで、呼吸で肩がゆれるような変化も見出せず、もしかしたら……と一瞬だけ最悪の事態が頭を過ぎったから。


「何?」


 すると、女性は以外にも素早く反応した。

寝ているように思ったが、そうではなかったのかもしれない。

もしかしたら、休む時間を邪魔してしまったのか、少しだけ申し訳なく思った。


「あの……えっと……、お名前を教えて頂けませんか?」


 問われて、必死に頭を捻って出てきたのは、そんなつまらない一言だった。

だが、女性は特に表情を変える事なく、考えるように沈黙した。

そして、同時に私は自分が名乗っていないことを思い出した。


「私の名前は、て……っ!」


 名乗ろうとした所で、少女の口は、女性の指によって遮られた。


「私はメリー。でも、貴女の名前を聞く訳にいかないの。どうか理解して」


 そして少女は、言われた意味を吟味しながら、はっとして改めて少女の顔を見る。

だから、それ以上は口にしなかった。




----


 私は少女に起こされた。

別に、眠ってた訳ではないけれど、疲れない体勢でベッドに横になっていた。

休まなければ、魔力は回復しないし、眠らなくとも誰かが近づいてくれば、起きるような『保険』もあった。


 昨晩、買っておいた軽食、それを少女に差し出すと、少女は受け取ってそれを食べていた。


「美味しいです」


 そう言って、硬い雰囲気ではあるものの、笑って話しかけてくる少女。

私も、同じ食事を取ると、まずは空腹だけは満たされた。

水筒はひとつしかなく、昨夜の内に手に入れた水を少女に差出すと、少女が飲んだ後に私も口に含む。


「ちょっと待ってて」


 私は、宿のチェックアウトに向かう。

扉には内側から鍵をするしかなく、少女に内側から鍵をかけてもらった。

その際、特定のリズムを伝え、それ以外で鍵を開けないように言っておく。


 コン、コンコン、コンコン。

 軽くリズムを刻みながらノックすると、中から鍵を開ける音が聞こえた。


「チェックアウトは済ませた。もう出発する」


 少女には申し訳ないが、昨夜は寝巻きに着替える余裕はなかった。

体を手ぬぐいで拭うこともなく、年頃の少女が気にするような、マナーの類も全て省略させてもらった。

少女は外に出ると聞いて、少し自分の身なりを気にするような素振りを見せが、私は構わず少女を外に連れて行く。


 高貴な身分の者であれば、一日と同じ衣服で過ごした経験など無いだろう。

しかし、逃亡生活であれば、そんな事に構っている余裕はない。


 昨日と同じように、一枚の新しいハンカチを取り出し、同じように噛んでもらう。

すると、少女は顔を青くし、何をするかを理解したようだった。


「が、頑張ります……」


 少女は気丈に呟くと、そして少女も軽く私の方へ身を寄せてきた。

そして、その腰の辺りを抱くように手を回し、そして姿を透明化すると一気に跳躍した。

少女の意識は、その数分後に『落ちて』いたのは、言うまでも無いことだった。




 時は過ぎ、私は何事もなく国に帰還を果たした。

亡命を求める少女を連れて、まずは私の所属する『第二特室』専用室のドアを開けた。


「室長、ただいま戻りました」


 部屋の中央には、出発前と変わらぬ風体の室長が居る。


「ご苦労、そちらの人物が?」


「ええ、例の亡命希望者です」


 まず、室長へと面会したのは理由がある。

それは、情報部を差し置いて、私だけ帰還した為であり、少女をどのように扱うか、本当はミシェルしか知らないからである。


 少女は、室長を前にし、少し緊張したような素振りを見せるが、特に何も言わない。

事前に、少女は名乗らなくて良いと言ってあり、対応に困ったように目礼だけしていた。


「スケジュールがあまりにも、遅々としていました。妨害の気配もあったので、私だけ先行して帰省しました」


「まあ……、情報部といえど、君の速さを理解してない事を、攻められはしないがね」


「で、彼女はどうしましょう。ミシェル少尉を待ちますか?」


「後、一週間は帰ってこないんだろう?だったら、こっちで問い合わせてみる」


「承知致しました」


 私は素早く敬礼して、承知の意を室長に伝える。


「その間、護衛を兼ねて、君もこの部屋に待機しておくこと」


「はっ」


 だるそうに、室長は部屋から出て、どこかへ向かっていく。

入れ替わるように、一人の少年が部屋に入ってきた。


「室長は不在ですか?」


 それは、同僚の一人で、同じ部隊に所属する少年だった。

何かの任務の帰りなのか、少年は私の姿を認め、次いで場違いな少女を見る。


「今は来客中。室長はしばらく席をはずしてるけど、戻ってくる。悪いけど、この子にお茶を入れてくれない?」


 少年は後輩であり、私が教官を務めたりした。

そのせいか、少年は私に対して敬語を使ってくる。

私の方が、年下であるにも関わらず。


 少女は、窓から一番遠くにある、来客スペースに座ってもらった。

来客スペースが、窓から最も遠くにあるのは、万一、窓の外からの狙撃や攻撃を警戒してである。

最初は窓際にあるが、私がそれを指摘すると、少し暗いが端の方へ移動してくれた。


「ありがとうございます……」


 ティーカップを前に差し出され、カップを紅茶の液体が満たす。

それを、上品なしぐさで飲む少女は、やはり高貴さを感じさせてくれる。


 室長が出て行ってから、およそ一時間が経過した頃、室長が戻ってくる。

そして、先日の会議室へ行くように言われた。


 その後は、ミシェルの上司に、少女の身柄を渡すことになった。

そして、一人の少女が亡命を受理され、私は晴れて、任務から開放されるのだった。





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