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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
9/63

『決着』

夜の街で起こった大爆発。爆心地を中心とした半径五十メートルほどが、荒野と化す。

朝陽の放った砲撃が、この廃墟を生んだのだ。

もはや生存不可能。爆発に呑まれた迅と朝陽の戦闘不能状態は、絶対不可避だった。

この模擬戦は引き分け、つまり相討ちだと、モニター越しに見ていた椎名や御園はそう思った。

だがその時、一人が動き出した。残るHPは、残り僅か。自分の武器を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がる。


「マジかよ……」


モニターを眺めていた海斗が、唖然としている。椎名も兄妹二人も、声にならない声を上げる。

そして御園は、目の端に涙を浮かべ、モニターに映る勝者を見つめた。


「すごい…すごいよ、種原君…!」


そう。生き残ったのは迅、この模擬戦の勝者は、種原迅である。

負けた朝陽のアバターには、【Dead】の文字が浮かんでいる。

一方、迅はというと、HPがごく僅かしか残っていないが、全損はしていない。


「まさか、朝陽に勝つなんてね。こりゃ即戦力だな」


「じゃあ世話役は潟上な」


「賛成です」


「ええっ!!?」


兄妹と海斗が、そんな会話を交わしている。

その横で、椎名がわからなそうに首を傾ける。


「なぜ、種原君は戦闘不能になっていない…?」


その呟きを聞き、兄妹と海斗も真顔で考え始めた。

素朴な疑問である。なぜ、迅はあれほどの爆発に巻き込まれても戦闘不能になっていないのか。

朝陽の砲撃は相討ちを狙ったもの。"ブレイナー"を付けていない状態なので〈ラビット〉も使えない中、あの爆発をどうやって回避したのだろうか。


「あ………」


御園が、声を小さく上げてモニターを指差す。その指の先を、椎名たちの視線が追っていく。


「「「「あ……」」」」


御園以外の四人が、揃って狼狽する。

四人が見つめるその先には、地面に転がる〈デュランダル〉が。

〈デュランダル〉には、刃で貫通させられている鏡が付けられている。


「そうか…反射させたのか…!!」


そう。迅は、朝陽のホログラム作戦を打ち破った際、朝陽が"バズーカ"を使ったのを見て、砲弾が光材質だと気付いた。

"バズーカ"は、通常なら弾を放って大爆発なのだが、〈テルシオ〉の"バズーカ"は違う。

"バズーカ"と呼ばれてはいるが、客観的に見れば強力なレーザービームのようなものだ。砲撃をあらかじめはめておいた鏡で反射させて朝陽に浴びせた。この時点で、朝陽のHPは全損していたのだ。その後、砲弾は朝陽から三十メートルほど後方で爆発した。迅は、爆発そのものには巻き込まれていない。爆風で吹き飛ばされて倒れていただけなのだ。爆風のみでかなりのダメージを負ったのも事実だが。


「"バズーカ"の脅威を既にわかっているからかもしれないが、俺には跳ね返すという発想はなかったな」


蒼夜(そうや)ならどうしてた?」


口を開いた兄妹の兄・蒼夜は、椎名に視線は向けずに返答した。


「俺の"リジェクター"なら、〈ラビット〉で跳んで逃げるしかないですね」


「兄さんなら、〈テルシオ〉の軌道を変えるというのも良い手だと思いますが」


「…お前は簡単に無茶を言うな、輝夜(かぐや)


無茶振り提案をする妹・輝夜に、蒼夜は「敵わない」とため息をつく。


「それより彼、想像以上にやれるみたいですね」


「そうだな。茅場(かやば)本部長にも報告しないとな。だが問題が…」


「誰とペアを組ませるか、ですか」


と、海斗。


「ああ。だがその辺の話は本人が"こっち"に戻ってきてからにしよう」


椎名がここで会話を切る。

その会話に耳を傾けていたのかはわからないが、御園はずっとモニターを見つめていた。

そんな御園を見ていた輝夜は、「はは〜ん?」と、何かを企んでいる時の悪そうな笑みを浮かべた。



「あり得ない‼マグレよマグレ!私がこんな冴えない男に負けるはずないじゃない!!」


仮想現実の世界から戻って来て、最初に朝陽が口にした言葉がこれである。

恥じらいからか、頬を真っ赤に染めてプンスカしている朝陽を、迅は居心地悪そうに見つめていた。

それからほとんど間もなく、椎名が口を開いた。


「見事だったぞ種原君。合格だ」


それは、すごくあっさりとした合格通知だった。

迅はとても嬉しい気分になっていたが、その合格通知に朝陽が不満を抱き、


「私は認めませんよ!」


と、声を荒げた。


「だから、お前一人が反対したところで種原君の採用は変わらない。それに、お前がテストしろと言ったんだ。そのテストに彼は合格した。お前が言い出しっぺなんだから、責任取って彼の合格を認めろ」


「ぅぅ………」


正論を述べられ、完全に論破された朝陽は、小さく唸って黙り込んでしまう。

それを見た後、椎名はコホンと咳払いを一回すると、再び迅に視線を向けた。


「では改めて、種原君、合格だ。これで君も環境管理課一係に仲間入りだ」


「はい!ありがとうございます」


迅は丁重にお辞儀をする。


「よかったな種原!これからよろしく!」


「ああ、よろしく頼む」


迅と海斗が握手を交わす。


猪狩(いかり)蒼夜(そうや)だ。今年で二十歳(はたち)になる。合格、おめでとう」


「猪狩輝夜(かぐや)といいます。猪狩蒼夜の妹です。高校一年生ですから、種原先輩のことは迅さんと呼んでも良いですか?」


兄妹の二人が、にこやかに握手を求める。


「え?ああ、いいよ。好きに呼んでくれていいから」


「では、迅さんと呼ばせてもらいますね」


「ああ。これからよろしく」


「はい!よろしくお願いします」


迅は蒼夜、輝夜と握手を交わすと、まだ頬を膨らませている朝陽の元へ歩み寄る。


「……なによ」


「これからよろしく」


「……は?」


「いや、だから、これからよろしくって」


「………」


朝陽は黙り込んでいる。また怒らせてしまったのだろうか。だが、これから仲間になるというのに、ギスギスした関係ではやりづらい。なるべく良い人間関係を築こうとした事だったのだが……。


「な、慣れ慣れしくしないで」


朝陽がようやく口を開いた。


「…え?」


「だから!気安く話かけるなって言ってるのよ!」


「………」


今度は迅が黙り込む番となってしまった。

初対面の時も思ったが、なぜこんなにも朝陽に嫌われているのだろうか。朝陽が望んだテストにも合格したのだ。少しくらい態度を良くしてくれても良いのではないだろうか。

いや、あれで変えているつもりなのかもしれないが………

仕方ない。朝陽に通用するかわからないが、あまり好きではないやり方を実行してみよう。


「コホン……えー、さっきの模擬戦、良い戦い方だったと思うぞ」


「……へ?」


「ホログラム使った奇襲作戦もすげぇし、最後の相討ち狙いの砲撃も良い判断だと思う」


題して、褒め殺し大作戦である。

こんな褒め言葉で機嫌を直してくれる女子がいるのかわからないが、恋愛ラブコメマンガなどに、たまにそういうキャラがいるので、駄目元でやってみた。

まあ、いるわけないのだが。


「……い、今更褒めても何も出ないわよ……」


前言撤回。いた。目の前に。


「あ…足引っ張らないでよね、新入り君」


朝陽が、そっと迅の手を握る。だが、すぐに手を引っ込めてしまった。

朝陽が、フン、と迅に背を向けると、輝夜がニヤニヤしながら迅に告げる。


「迅さ〜ん、朝陽は私と同い年ですよ〜」


「なっ…⁉ちょ、輝夜⁉余計なこと……」


「…………」


輝夜と同い年。つまり高校一年生。

迅は高校二年生。

イコール朝陽は年下。


「あ、うん。了解」


「輝夜は何余計なこと言ってるのよ⁉」


「だって〜朝陽とっても偉そうにしてたものですから〜」


迅は、朝陽が年下である事を知ると同時に、輝夜を敵に回すと恐ろしいという事も知った。


「それはそうと、御園さんは何してるんですか?そんな端っこで」


ずっと朝陽をからかっていた輝夜のターゲットが、唐突に変わった。恐るべし猪狩輝夜。


「ひぇ⁈」


なんだ今の声は。


「御園さんも自己紹介しないと。ここではクラスメイトではなく、共に戦う仲間なんですから」


「そ、そうだな…」


輝夜の言い分も一理あると思い、迅は御園に向けて自己紹介を始める。


「もう知ってるだろうけど、種原迅です。よろしく」


名乗った瞬間、頭から湯気が上がりそうなくらいの勢いで、御園の顔が朱色に染まった。


「し…ししし篠原、みそ、御園です。よよよろしく……」


「…?」


御園が赤面している意味がわからず、迅は首を傾げる。


「恋する乙女と鈍感少年か…」


輝夜が、誰にも聞こえないような小声で呟く。


「よし、ひと通り自己紹介も済んだところで、次に移ろう」


椎名が話題を変える。椎名にそのつもりはないのだろうが、御園は心からホッとする。あのまま迅との対峙が続いていれば、御園の心臓は保たなかっただろう。

だが、そんな心の休息もつかの間、


「種原君には、明日から御園とペアを組んでもらう」


椎名がなんの躊躇いもなく告げる。


「えぇぇぇ〜〜〜っ!!⁈」


御園は一人で、甲高い声を上げていた。





To be continued.....

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