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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
8/63

『みっけ』

茜屋朝陽(あかねやあさひ)が使う"リジェクター"は、〈テルシオ〉と名付けられた狙撃銃だ。

射程距離は二千メートルを超え、少し重い事と速射性の低さを除けば、威力も弾速も文句無しの代物だ。

変化形態は通常形態を含めて三つ存在し、どんな材質の物も突き抜ける貫通弾を放つ形態、さらには砲撃を可能とする形態まである。

本来なら、敵に位置を知られないまま狙い撃ちするのが〈テルシオ〉使用者の戦闘スタイル。重量系の武器である〈テルシオ〉を抱えながらの移動は、必ずしも動きに隙を生む。

だが、朝陽は堂々と敵前に姿を現して戦う。

何も「戦うなら正々堂々真っ向勝負」とか言うポリシーを抱いているわけではない。

むしろ逆、朝陽の場合、敵を騙して討ち取るのが、朝陽流。

その戦略に朝陽が使用するのが、オプションツールである〈ホログラム〉だ。

本物そっくりな自分の姿を空気中に投影し、敵が惑わされたところを死角からドン。

しかもそのホログラムはレーダーに表示されるため、異常患者(グローバー)と戦う際はあまり関係ないが、今やっているような対人戦では、大いに役に立つ。実際、異常患者(グローバー)との戦いでもホログラムで敵を惑わして討ち取ってきた。


「さあ探しなさい、私を」


数体のホログラムと同じような動きをしながら、朝陽がつぶやく。だが、決してレーダーから目を離さない。

朝陽の戦略の難点はここにある。

ホログラムで敵を惑わす手立てでも、そのホログラムが敵を目の前にしてもプログラム通りに、敵を無視しているように動いてしまえば、すぐにニセモノとバレてしまう。

そのため、朝陽はレーダーから目を離さず、もしニセモノが敵と遭遇した際、それがニセモノと見破られないように操作しなければならないのだ。"ブレイナー"によって、意志だけでホログラムの操作は可能だが、かなりの労力を強いられてしまう。この戦略は、言ってしまえば短期決戦型だ。

朝陽はホログラム操作に神経を削りつつ、迅の動きの変化に着目して、レーダーを見つめていた。



急に増えた朝陽の反応。当然ひとつ以外の反応はニセモノだと直ぐに分かったが、初見では対処法がわからない。アドリブで策を練らなくてはならない。まあ、突然テストという時点で、始めからアドリブのようなものだったのだが。


「さて、どれが本物かな……」


ニセモノの中から本物を見分ける。頭を使うのは、迅の得意分野だ。

都市伝説として知られる延長能力(オーバーアビリティ)に分類されそうなほどに速い迅の思考速度は、五桁以上の掛け算を瞬間的に暗算してしまうほど。ニセモノの動きの規則性を見出し、少しでも規則性のない動きをした反応を見つけ出す事に、さほど時間は掛からない。

迅はなるべく階数の多いビルに姿を隠し、レーダーで朝陽たちの動きを観察しながら、既にひとつ先の事を考えていた。


「あいつに一太刀浴びせてぇんだけどな…どうするかな…」


迅は、朝陽にトドメを刺す作戦を考えていた。

迅の装備は〈デュランダル〉、脚力増強シューズ〈ラビット〉にハンドガンのみ。

一方、朝陽は凡ゆる装備を用いてこちらを仕留めに来る。装備的には、こちらは明らかに不利だ。


「仕方ない…店の物、少し使わせてもらうか」


フィールドである【市街地〈夜〉】は、市街地なので当然店が並んでいる。人気(ひとけ)は全くないが品物はズラリを並んでいる。持ち物に困っている迅に、これを利用しない手はない。

迅はそう決めると、本格的に朝陽探しに入る。そして僅か数秒後、


「みっけ」


と、頬を緩めた。

迅は腰に携えた〈デュランダル〉に手を当てながら、身を隠していたビルを後にした。



ホログラムに合わせて動きながら、朝陽は迅のレーダー反応から目を逸らさない。

迅は、しばらくの間ビルの中に留まり、動きがなかった。おそらく、本物の朝陽を見つけ出そうとしていたのだろう。そして遂に見つけたのか、先ほど迅は動き出した。

迅は間違いなく本物の朝陽に近づいているが、本物の朝陽の近くには、ホログラムの朝陽が一人。

二人の朝陽に、迅はどんどん接近する。

迅の次の一手までの数秒間、朝陽は気が抜けなかった。もし迅がニセモノに襲いかかったら、ホログラムの動きを操作しなければならない上、死角から迅を狙撃しなければならない。

相手が自我をなくした異常患者(グローバー)なら、ホログラムの操作なしでも問題はない。だが、相手が普通の人間となれば、襲ったのがニセモノとわかった瞬間、もう一方を襲う。今回の場合、本物の朝陽が直ぐに狙われてしまうのだ。

敵が接近しているのに無反応では、流石に敵もニセモノだと気づいてしまう。そうなっては、狙いを定める時間などない。さらに、いきなり本物を襲ってきた場合にも備えなくてはならない。

朝陽にとって、緊張の数秒だ。

そして、その数秒間は迅の大きな一歩によって終わりを告げる。

迅は、ニセモノの朝陽に斬りかかる。朝陽はホログラムを操作し、本物のような動きをさせる。

あとは迅を撃つのみ。狙いを定める時間も、十分ある。


--もらった……!!!


と、心の中で勝利を確信する朝陽。だが、それは一瞬にして潰える。


「〈ラビット〉!二重(ダブル)!」


迅はそう叫び後方へ、則ち朝陽の方へと跳躍する。空中で朝陽の方へと身体の向きを変え、もの凄い速さで朝陽に接近する。


「〈デュランダル〉-"エクスカリバー"!!!」


迅の握る剣が、最強の(つるぎ)へと変貌を遂げる。


「〈テルシオ〉-"バズーカ"!!」


もはや迷っている暇はない。朝陽は〈テルシオ〉最強の砲弾を、迅に向けて放つ。

しかし迅は、いとも簡単にそれを回避する。

だが、"バズーカ"を回避するために横に飛びのいた事で、朝陽は迅と距離を取ることができた。





「〈ラビット〉!三重(トリプル)!」


朝陽は跳躍し、再び"バズーカ"を放つ。今度は迅ではなく、路面を目掛けて。道路に直撃した砲弾は、直ちに大爆発を起こし、辺り一面を煙が覆う。

それによって視界が悪くなった隙に、朝陽はさらに距離を取る。


「…逃がすか!!」


迅は逃がさないように後を追おうとする。視界が悪くても、レーダーを見れば大体の方向はわかる。

だが、敵の動きまではわからない。煙の中に入ったところに先ほどの砲弾を一発、というものあり得る。

迅は、この場での追跡は諦めることにした。そして迅も朝陽と同じように、敵からさらに距離を取るように移動を開始した。



所変わって、ここはモニタールーム。迅と朝陽の模擬戦を、海斗と椎名、兄妹の二人、そして篠宮がモニター越しに観戦している。


「へぇ…朝陽本体を見つけ出したのか。やるなぁ種原」


海斗がふむふむと感心する。


「ホログラムと本体の動きの違いに気付いたんだろう」


続くように椎名。


「いずれかのホログラム一人と本体は、必ずどこかで合流する。いや、しなければならない。ホログラムを囮にして獲物を仕留めるわけだからな」


モニターでは、二人が新たな策を練りながら移動をしている。迅は、店内を見物しながら、店を転々としている。


「種原さん、何か企んでる」


兄妹の妹が、独り言を呟く。


「なんで"さん"付け?」


「多分、年上なんで。多分」


そんなやり取りを他所に、篠宮御園(しのみやみその)は、胸の内で両手を合わせていた。


--頑張って、種原君!



もぬけの殻のとあるビルの二階に、朝陽は身を潜めていた。

視界のレーダーでは、迅の反応は朝陽の反応とほぼ同じ位置にある。だが、だからと言って全く同じ場所にいるというわけではない。

レーダーが教えてくれるのは、あくまで位置のみ。高さは教えてくれない。

つまり、迅は朝陽よりも上にいるか下にいるかのどちらかである。


だが、上にいる可能性はほぼないだろう。剣士が高い位置にいても仕方がない。

でも下なら、上に敵がいると分かれば〈ラビット〉で跳ぶことができる。


ズバリ!迅は下にいる。


朝陽は、大通りに面した二階の窓から、〈テルシオ〉の銃口を出して狙撃体制を整える。

迅の反応は、大通りに向けて進んでいく。


そして、迅は大通りへと出る……


引き鉄を引こうとして、朝陽は引けなかった。なぜなら、迅は現れなかったからだ。


「まさか、上?」


よりにもよって二択の判断を誤るとは…朝陽は慌てて上を見る。だが、そこにも迅はいない。


レーダーで確認しようと、朝陽が視線を正面に戻した、その時、


「はぁ!?」

朝陽は驚愕のあまり、声を張り上げた。

朝陽の視界に、向かい側のビルの三階から跳んできた迅の姿が映る。


迅の右手には〈デュランダル〉。

迅の左手には……


「"ブレイナー"……?」


そう。迅の左手には、本来使用者の首元にあるべき"ブレイナー"だった。"ブレイナー"は、ロープでしっかりと結び付けられており、そのロープの先端を、迅の左手が握りしめている。

朝陽は後方へ飛び退く。迅は朝陽がさっきまで居た場所に着地する。

それを見た朝陽は、全てを理解した。

レーダーに表示される反応は、使用者本人ではなく、この"ブレイナー"の位置なのだ。それを、迅は、この短い戦闘時間の間に理解したのだ。つまり、動いていたレーダー反応は迅の身体ではなく、ロープで繋がれ、迅に引っ張られて動いていた"ブレイナー"のみだったのだ。

それだけではない。脚力増強シューズ〈ラビット〉についても、ある程度理解したようだ。

"ブレイナー"と連携して動く〈ラビット〉は、当然"ブレイナー"がないと機能を果たさない。だが、一度増強してから"ブレイナー"との接続が切れたりしても、一度跳躍し終えるまでは、その強化の効果は消えないのだ。それまでをも、迅はこのわずかな時間内に理解したのだ。

完全に、朝陽の作戦負けだ。その上、一気に近距離まで接近された。

迅は、朝陽に〈デュランダル〉の切っ先を向けている。


--負けた………


負けを悟る朝陽。でも、迅にはどうしても負けたくない。でも、この状況からの形成逆転はほぼ不可能。なら…


「〈テルシオ〉-"バズーカ"!!!」


道連れにすれば良い。

これが朝陽の最終手段。負けが決まったら、敵の至近距離で砲撃する。そうすれば、敵も爆発に巻き込まれて相討ちだ。


「終わりだ」


そう言いながら、迅は朝陽に突撃してくる。

もう、迷っている暇はない。


ズドン!!!


朝陽はトリガーを引いた。


目映い閃光の砲弾が、〈テルシオ〉から放たれた。


それから間も無く、大爆発が起きた。





To be continued……

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