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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
60/63

『絶体絶命』

双剣〈双月(そうげつ)〉を扱う(よう)と交戦中の輝夜。延長能力(オーバーアビリティ)である【絶対王冠(アブソリュートクラウン)】は、羊がノイズキャンセラー機能を搭載したインカムを装着していることにより使えず、棍型リジェクター〈シャムロック〉を使っての真剣勝負となった。

輝夜は棍、羊は双剣。リーチが長い棍か、手数とスピードの双剣か。

勝負は、両者の戦闘技術にかけられた。


「……」


蹴られた脇腹を摩り、滅多にしない舌打ちをした輝夜は、身長のことで馬鹿にされ、少々ムキになっている羊の双眸を見つめる。視線の動きが、攻撃の合図。


「行くよ!」


丁寧にも、予告つきの羊の攻撃が輝夜に迫る。とりあえず斬れれば良い、とでも言いたげな、無差別に振り回される二つの刃。本当に戦闘のプロなのか、と疑問を抱きたくなるような攻撃だが、凌ぐのは容易ではない。無差別ゆえに予想が困難。狙いを定めていない攻撃は、どこに来るかがわかりにくい。無差別のため、視線で先読みも同じく困難。最初のうちは〈シャムロック〉で受けていた輝夜だったが、このままでは押されると判断し、羊の間合いから脱出しようと試みたその時、


「よっ」


軽快な声と共に、羊の更に一歩踏み込んだクロスアタックが、輝夜を襲う。辛うじて受け止めはしたが、勢いは殺せていない。後方によろめいた輝夜は、格好の餌食。


「うああぁぁッ!」


羊の二本の刃が、輝夜の腹部に深々と突き刺さる。痛みのあまり、手から〈シャムロック〉が落下する。傷口から滲み出る、赤い鮮血。呼吸をするたびに、彼女の傷口は痛む。


「…ッ!」


小さくそう漏らしたのは、輝夜ではなく羊。刺されたままの輝夜が、羊の頭部を素手で殴ったのだ。だが、苦痛に耐えながらの殴打。大したダメージになることもなく、


「全然痛くないよ~?」


と、輝夜を嘲笑する羊。そして、手に握る、輝夜に刺したままの刃をグリグリと、上下左右に動かす。


「うああああああぁぁぁッッッ!!!」


「痛い?痛い?痛いよね?」


この羊という少女、見た目によらずドSなようだ。苦痛に悶える輝夜を見て、楽しそうに笑っている。

やがて、刃は抜かれ輝夜は倒れる。〈双月〉から赤い血を滴らせ、とてもご満悦な表情の羊は、輝夜を見下している。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


「そろそろトドメ、刺しちゃおうか♪」


徐々に意識を失っていく輝夜にトドメを刺そうと、羊は〈双月〉の刃を逆手持ちにして、振りかざす。


「…ハァ…片方、だけで…十分…だよ、ね…」


「片方?何言ってるのかわからないけど、終わらせるよ!」


〈双月〉が、輝夜の首めがけて振り下ろされる。このままでは輝夜の命はない。絶体絶命である。だが次の瞬間、


『やめなさい』


羊の脳内に、声が響き渡る。まるで、逆らうことを許さない、王の威厳を纏いし命令。

反抗する精神そのものをなくすその声に抗うことのできるはずのない羊は、命令通りに刃を止めた。

そう、羊が警戒していた、輝夜の延長能力(オーバーアビリティ)絶対王冠(アブソリュートクラウン)】による、強制服従だ。


『武器を…捨てなさい』


意識が遠のく中、輝夜は命令を続ける。彼女の目の前にはインカムが一つ、転がっている。

それは羊のインカムだ。先ほど輝夜が殴ったときに、落ちたのだ。否、初めから、輝夜はインカムを落とすことが狙いで、羊の頭部を殴ったのだ。

輝夜の延長能力(オーバーアビリティ)は、一度服従させた相手から服従精神を取り消せないのが難点だ。安易に使ってしまえば、それこそ国盗りも可能となる。輝夜としては使いたくなかったが、生命の危機に陥ってしまったのだ。仕方がない。


「やば…ちょっと、これはヤバい、かも…」


自分の血の海の上で横たわり、輝夜は意識を失った。



公安局・研究室前。

ここでは、絵怜奈(えれな)に代わって、公安局環境管理課のリーダー、椎名伸明(しいなのぶあき)が、犬飼大河(いぬかいたいが)と交戦中だ。

戦況はひとことで言えば、椎名が圧倒的優勢。

刀二本、更には『爪牙螺旋(そうがらせん)』、まるでドリルのような機能まで備わった大河を相手に苦戦することなく、苦しそうに顔を強張らせることもなく、椎名は大河の攻撃を、難なく受け流す。

半ばムキになりながら、『爪牙螺旋』を振り回す大河。それを椎名は、まるでどこに刃を当てれば、弾かれずに済むかを心得ているかのように、的確に処理していく。


「バケモノが…!」


息を荒げて苛立ちながら、大河が苦し紛れに罵倒する。


「すごい…」


そばで見ていた絵怜奈が、胸の前に手を組んでそう呟く。


延長能力(オーバーアビリティ)を…完璧に使いこなしてる…」


椎名の延長能力(オーバーアビリティ)は、恭介と同じ【音響世界(サウンドスケープ)】。空気の流れの変化にすら敏感なその能力によって、敵の攻撃が身体のどこに当たるかがわかるのは勿論、音の違いでどの部位が固いのか脆いのか、その他あらゆる違いを把握することができる。

椎名と恭介の決定的な差は、能力の使い方だったのだ。


「どうする?まだやるか?」


刀型リジェクター〈キテン〉を大河に向け、椎名は問う。


「勝った気でいるのか…おめでたいヤツだ」


「実力差は歴然だろう。逆に、勝てる気でいる貴様も、相当な身の程知らずだと思うが」


会話が進むごとに、大河の怒りは高騰していく。プルプルと震える、握りしめられた拳が、それを物語っていた。


「さぁ…我々の人形になってもらうぞォ!」


『爪牙螺旋』状態の〈武蔵(むさし)〉を構え、大河が突撃してくる。


白雪(しらゆき)!」


「ハイっ!」


絵怜奈は椎名に、自分が使っていた刀を放る。刀一本で十分戦えていた椎名が、二本目を要求したということは、決着をつけるつもりだということ。


「〈キテン〉-‘’オロチ’’」


椎名に命じられた〈キテン〉は、(しな)る刃へと変化し、大河の『爪牙螺旋』、勢いよく回転する刃と刃の間に’’オロチ’’を巻きつかせ、回転を止める。もう一本の刀、絵怜奈に借りた刀で、もう一方の『爪牙螺旋』をはじき返し、大河にスキを作る。そして、


「終わりだ」


大河の身体に大きな斬り傷ができると同時に、椎名に返り血が降りかかる。

AOAが着ているのは防弾スーツ。中途半端な力加減では、傷を負わせることはできないと考えた椎名は、少し強めに力を込めていた。それが少し強すぎたのか、大河は深い傷を負い、地面に倒れる。


「ありがとう。助かった」


「いえ」


刀を絵怜奈に返し、自分の〈キテン〉も鞘に収め、椎名は安堵の息をつく。


「…このまま…負けるなら…滅べ…」


血反吐を吐きながら、大河が言う。


「どの道、この国は滅ぶ…我々の敗北を晒すくらいなら…今、滅べ」


「何を言っている?」


「勝ったつもりだろうが、残念だったな、公安…貴様らはこれから…国ごと滅ぶんだ…」


「だから何を…」


椎名の問いを無視し、大河が叫ぶ。


「起爆しろォ!」


それは恐らく、インカムの向こう側、どこかにいる仲間に向けられた命令だろう。その命令が下った数秒後、


激しい爆音が、椎名と絵怜奈の鼓膜を震わせた。


爆音の発生源は公安局本部ではない。椎名の延長能力(オーバーアビリティ)は、それがどこからかを感知していた。


「モノリスを…爆破したのか…?」


嘲笑の笑みを浮かべて目を閉じる大河を、椎名は睨む。

椎名が感知したのは、この国の滅亡の危機だ。





To be continued……

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