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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
6/63

『望むところです』

迅は今、今までの人生で一番の恐怖を感じている。ポツンと置かれたひとつのイスに座らされた迅は、四人の人間に取り囲まれているのだ。


「…なに、この状況……」


まるで囚人を見張る看守のように、目を尖らせて見つめる四人を前に、迅は逃げ出したくなる。

迅をこの場所に連れて来た張本人である海斗は、少し離れた所から迅に手を振っている。


「貴様、名前は」


右目に傷跡のある中年の男が、迅に警戒心剥き出しで訊ねる。


「…種原迅、ですが」


「種原迅。覚えておくぞ、コソ泥小僧」


「は?コソ泥?」


「貴様が〈デュランダル〉を盗んだのだろう?」


「違います」


「ではなぜ貴様が〈デュランダル〉を持っていた?」


「拾いました」


「ウソつけ」


「ウソじゃねぇよ!!」


どうやら迅は〈デュランダル〉を盗んだ犯人だと思われているらしい。だがよく考えて欲しい。もし迅が犯人なら、ノコノコと返還になど来ない。異常患者(グローバー)と戦うための最先端武装なら尚更だ。

だが迅はそういった類いの発言はせずに、


「今朝、公安局本部(ここ)の受付に連絡入れましたよ。"リジェクター"を拾ったからこれから届けに行くって。聞いてないんですか?」


それを聞き、男は動きをピタリと止める。


「…潟上、今の話は本当か?」


「はい。確かにそのような報告が受付嬢からあったと、椎名さん自身が言ってました」


「……そうだったか…?」


椎名という名の男は自分の発言の過ちに気づき、ゆっくりと迅の方を向く。


「その…すまなかった」


あっさりと解放された。少し拍子抜けだ。


「なんだよ、椎名課長の勘違いかよ」


「私はそんな事だろうと思ってましたけどね」


「本当は盗んだんじゃないの?こいつが」


椎名以外の三人が、おのおの何か口走りながら迅から離れていく。

内二人の男女は髪色や顔立ちなど、似ている部分がある。おそらく兄妹なのだろう。

もう一人は鮮やかな茶髪のツインテールの少女。迅をギロリと睨みつけている。初対面なのに、嫌われてしまったのだろうか。でも、今はそれよりも、


「あのー…イマイチまだ状況を理解できてないんですけど……」


ゆっくりと挙手して、迅が訊ねる。その問いに、ツインテールの少女が即答する。


「理解しなくていいわよ」


「…なんなの?キミ」


「人間よ」


「ああそう。わかった」


迅はイラっとして、一瞬眉間にシワを寄せてツインテールの少女から目を背けた。だが、ツインテールの少女はその態度が気に入らなかったようで、


「なによその態度!アンタが訊いてきたんでしょ!?」


と、怒鳴り散らしてきた。


「そうですね」


「ならもう少しまともな返事をしなさいよ」


めんどくさい。この子はこういう子なのか、と理解した迅は、ため息を吐いて口を開く。


「わかったよ。よろしくな、人間ちゃん」


「ムカーッ!!!」


あとは放置していいや、と、今度こそ完全にツインテールの少女から目を背ける迅。そして、改めて訊ねる。


「この状況について詳しく説明をお願いしたいのですが…」


この問いに、椎名課長が答える。


「ここは公安局本部、環境管理課一係だ。対異常患者(グローバー)用に開発された最先端武装"リジェクター"を用いて戦う精鋭部隊。それが環境管理課だ」


そんな事は知っている。迅が知りたいのは、なぜ自分がこの場所にいるのかという事だ。


「"リジェクター"の使用者を決める時の材料となるのは、候補者たちの適正値だ。その武器の適正値が高い者を、"リジェクター"の使用者に任命する。適正値が低い者は、"リジェクター"を暴走させる上に身体にも影響を及ぼしかねない。それだけ強力な武器なのが、"リジェクター"だ」


「その"リジェクター"のひとつである〈デュランダル〉を、種原は使えていた。つまり、適正値は高いって事なんだよ。おまけに、〈デュランダル〉の適合者は他の"リジェクター"に比べたら少なくてね」


椎名に続いて、海斗が口を開く。

迅は黙って聞いているが、管理課の人たちは、迅の問いにしっかりと答えようとはしない。正直なところ、早く本題に入ってほしい。

なんて思っていると、近くに立つ兄妹二人が挙手をして、迅に視線を向けた。


「種原さん…でしたよね。質問をしてもいいですか?」


先に口を開いたのは妹(だと思う)だ。俺はコクリと頷く。


「〈デュランダル〉は一体どうしたのですか?」


「…えっと……どうした、というと?」


「〈デュランダル〉はこちらの不行き届きで紛失してしまっていたたのですが、紛失して三日後には故障によってオンライン接続が途絶えてしまっているんです」


妹であろう少女が一旦言葉を切ると、兄らしき少年が妹に続く。


「〈デュランダル〉を含む"リジェクター"に組まれているプログラムは、一般の知識だけでは絶対に構築できないものなんだ。プログラムできるのは公安局の技術者だけ。君は〈デュランダル〉をどうやって修理したんだ?」


迅は回答に困ってしまう。一般の知識だけでは絶対に構築できないプログラムをどうやって直したのかと訊かれても、迅は普通に直しただけ。なにも難しいことなどしていない。


「もともとプログラム系の知識はあって、その知識を使ってたら、普通に……」


『…………』


流れる沈黙。迅は目のやり場をなくして下を向く。

その沈黙を破ったのは、課長である椎名の笑い声だった。


「ハハハハハ!面白いな!」


突然の大笑いに、迅は困り果てた表情で椎名を見つめる。


「私は君に興味が湧いた。細かい話は後にして、本題に入ろうか」


興味?細かい話?よくわからないまま、迅は成り行くままに縦に頭を振る。


「種原迅君。環境管理課一係(うち)に入らないか?」


「………」


「どうかな?」


迅は言葉を選べない。というよりは、出てこない。唐突な提案すぎて、まだ俺の高速回転しているはずの脳が処理できていないのだ。


「椎名さん、さすがに飛ばしすぎなんじゃないですかね。種原君、困ってますよ。家の人とも相談する必要もあるでしょうし、何日か考えてもらった方がいいんじゃないですか?」


困っている迅に、兄らしき少年が助け舟を出してくれた。チラッとこちらを見た少年に、迅は小さくお礼をする。


「そうだな。では種原君、三日後をメドに返事を聞きたい。またここに来てもらえるかな」


ニコリと笑って、椎名は課長の席に座る。


「あの」


「ん?」


環境管理課(ここ)は、異常患者(グローバー)から街のみんなを守るのが責務なんですよね?」


「そうだ」


「守るための力も、与えてもらえるんですよね?」


「ああ」


この返事を聞き、迅はフッと微笑んだ。

街を守るという事は、姉である鏡を守るということにもなる。しかも、竹刀なんかよりもずっと強い"リジェクター"で。

その力を、この組織は与えてくれるというのだ。何を考える必要がある?

鏡がなんと言おうと関係ない。これは、鏡を守るためなのだから。


「やります」


迅は力強く言う。


「俺を、環境管理課(ここ)に入れてください」


そう懇願する迅の顔は、笑みで溢れていた。それを見た椎名は、席を立って迅に歩み寄ると、


「勿論、大歓迎だ。君には期待している」


と、迅に握手を求める。迅はその手をガッチリと握った。

だが、その良い雰囲気に、ツインテールの少女が水を刺した。


「私はそいつの仲間入りは反対です」


「お前一人が反対しても、何も変わらん」


「...!それは、そうですけど…」


「種原君のどこが気に入らない?」


「全部です!そもそも、そいつが〈デュランダル〉を使える証拠なんてどこにあるんですか?ただ見ただけなら信用ありませんし、そいつ、異常患者(グローバー)にやられて怪我してるじゃないですか」


不穏な空気が流れる。


「自分で言うのもなんですけど、環境管理課一係(ここ)は候補者の中で最も適正値が高いと判定されたエリートが配属されるところです。まだまともに適性検査すら受けていない者が入っていい場所ではありません」


迅にはよくわからないが、おそらくツインテールの少女が言っている事は正論なのだろう。先ほど聞いた話では、各"リジェクター"に候補者が何人かいて、その中から環境管理課一係に配属される者が決まるという。ということは、ここにいる人たちの他にも、"リジェクター"を使える人はいて、皆、どうせなら一係に配属されたいはずだ。そこに、ぽっと出の迅が配属されれば、反感を買うのは当然だ。

最初は流すつもりだった椎名も、今は真剣な顔をしている。


「確かに…それはそうだな」


椎名も納得してしまった。いや、納得するのが当たり前なのだが、迅は大ピンチである。


「…ならっ‼」


突然壁の陰から現れた少女が、なぜか顔真っ赤っかで声を張り上げている。

迅は、その少女と面識があった。


「お前…篠宮(しのみや)?」


「………!!」


「……?」


「…そ、その……」


言い淀んでいる篠宮に、皆の視線が集まる。


朝陽(あさひ)ちゃんが…た、種原君の一係配属に反対するのなら…テストをしたら、どうでしょうか……」


なんで顔が赤いのかはさて置き、今の篠宮の提案はナイスアイデアだ。椎名は「それだー!」と篠宮を指差す。それに篠宮は肩を少しビクつかせる。


「そうだな。テストをしよう。私も、君の実力を見せてもらいたいと思っていたしね」


「お〜種原、抜き打ちテストだぞ、大丈夫か?」


椎名と海斗が声を掛けて来る。

この状況は迅としても好都合だ。あのままだったら迅の一係配属は白紙に戻されていただろう。

助けてくれた、迅と同じ高校に通う同級生の篠宮は、壁際に立ってモジモジしている。


「わかりました。何をすればいいですか?」


テストを容認し、迅は椎名に訊ねた。椎名は、うーん、と少し悩んでいたが、さして時間が経つまえに答えは返ってきた。


「よし。種原君には、君の仲間入りを認めてくれないあそこのツインテールと勝負してもらおう」


「……へ?」


と、声を漏らしたのはツインテールの少女、篠宮には朝陽(あさひ)と呼ばれていた少女だ。


「お前が毛嫌いする少年の実力、お前が確かめてこい、茜屋(あかねや)


「なんで私が……」


「ん?負けるのが怖いのか?」


そう言われ、茜屋朝陽(あかねやあさひ)は歯軋りをする。


「わかりましたよ。そいつを撃てば良いんですよね?」


「そうだ。それで良いね?種原君」


これはもうやるしかない。拒否を許さない状況になっている。無論、断る気はないのだが。

迅は腰掛けていた椅子から立ち上がると、強気の姿勢で朝陽に鋭い眼光をぶつけた。


「はい。望むところです」





To be continued……

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