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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
59/63

『覚悟しろよ』

恭介が、五つの銃型浮遊デバイスを使うレイジとの戦闘を始めた頃、御園は警視庁庁舎十二階へとつながる階段を上り、とうとう目的の階へとたどり着いた。

目的の階へ着いたと言っても、迅がいるのはこの階のどこか。これでひと安心というわけにはいかない。


「今行くよ、種原くん」


背中に背負ったギターケース、迅のリジェクターである〈デュランダル〉と、迅の新しいブレイナーが入ったケースに軽く触れ、御園は小さく呟いた。


鷹城(たかじょう)で敵はすべて出払ったと思ったか?」


十二階へ来て数分、敵を警戒しながらしばらく進んでいた御園の背後から、聞き覚えのない男の声が聴こえてくる。


「悪いが、彼のところへは行かせられない」


片手剣を握った男・虎田達也(とらだたつや)は、御園の身体を一突きしようと、切っ先を御園に向けている。


「AOA…」


達也が着ている隊服は、先ほどのレイジや将馬と同じもの。つまり、防弾スーツということだ。御園の〈シムナ〉の撃つ弾丸はレーザー弾のため、あまり関係はないが、もしかしたらそれも阻むスーツという可能性もある。あまり時間を取られている場合ではない。狙うなら、見えている素肌の部分。


「すぐに終わらせる…!」


〈シムナ〉の銃口を達也に向け、狙いを定めようとしたその時、下階から、ドドドドドという地鳴りが、警視庁庁舎に響きわたる。その振動は、だんだん御園のいる十二階へ近づいてくる。


「悪いけど、アンタに勝ち目はない」


そう言う達也の背後に現れたのは、みな同じ顔をした人間数十人。否、


「『死人形(マリオ)』…?」


達也の背後に陣取ったのは、死体で作られた操り人形『死人形(マリオ)』の大群だった。



御園を襲った地鳴りは当然、レイジと交戦中の恭介も感じ取ることができた。レイジの弾幕を受け流しながら、恭介は目の端で、人の大群をしっかりととらえていた。その大群の行き先は上階。このままでは、御園と遭遇してしまう。


「篠宮先……」


弾幕の隙を見て、大群を追いかけようとする恭介。だが、


「お前の相手は俺だろうが!」


レイジの放つ弾丸が、恭介の行く手を阻む。恭介は小さくジャンプし、壁面に立つ。重力に従って落下する前に、強く壁を蹴る。そして、レイジの腕を狙って〈キテン〉を振り下ろす。


「ハッ!甘ェよ!」


だが、レイジは恭介を嘲笑しながら、その攻撃を容易く躱す。そして、


「ハチの巣にしてやるぜェ!」


五つの銃型浮遊デバイスから、弾丸が乱射される。恭介は自らの持つ延長能力(オーバーアビリティ)音響世界(サウンドスケープ)】を利用して、弾道上に身体のある弾を凌いでいく。だが、攻撃を躱された直後で、態勢は不十分。すべての弾を凌ぎ切れるはずはなかった。


「グッ…!」


恭介の〈キテン〉を逃れた弾丸が、恭介を襲った。



一対一の状況から一転、一対幾十の不利な状況に落ちた御園。敵は片手剣使いの達也と、数十人の『死人形(マリオ)』。おそらく、能力者の死体から作られていると想定して間違いないだろう。将馬を撃破してから、下階からの増援がなかったのは、隊員たちが『死人形(マリオ)』を動かす準備をしていたのだ。

御園の〈シムナ〉は中距離戦闘に向いているが、サイズ的には拳銃(ハンドガン)と同じ程度。近距離で使うことも可能だ。だが、近距離戦闘は相棒(パートナー)である迅がこなしていたため、御園に近接戦闘の技術はない。


達也の言う通り、勝ち目はない。


「残念だったな…お前はここまでだ」


片手剣を持ち、こちらへ向かってくる達也。後続に、『死人形(マリオ)』の大群。

圧倒的不利な状況下とはいえ、この階に迅はいる。目と鼻の先だ。


「もし崩れたらゴメンね、河辺君」


御園は小声で、下階で戦う恭介に謝罪を入れると、


「〈シムナ〉-『デストロイ』。通常火力」


御園はリジェクターに命じ、向かってくる達也の背後、『死人形(マリオ)』の大群の足元を狙って弾を発射する。

着弾した弾丸は、直ちに爆発音を上げ、崩落する地面に、次々と『死人形(マリオ)』が落下していく。爆発による土埃のせいで、それを御園が確認できたのはほんの一瞬ではあったが。


「今のうちに」


御園は迅のいる監禁室を目指して走り出す。

落下していったとは言っても、相手は『死人形(マリオ)』。痛覚がない兵器だ。『死人形(マリオ)』と使用者との接続を断たない限り、彼らは動き続ける。接続を断つには、死体に電気信号を送る、人工の脳と身体を切り離さなければならない。要は、首を切らなければならない。あれだけの大群に、御園一人でそれを行うのは不可能。御園は、戦わずに迅を救出する手を選んだ。だが、


「爆発で足止めか。良い手だ」


爆発に巻き込まれたと思っていた達也が、御園のすぐ後ろに迫っていた。完全に、達也の間合い。

危険だと悟った御園は、反射的に回避する。だが一歩遅かった。


「痛ッ…!」


御園の脇腹を、達也の刃が斬り下ろした。回避している途中だったため傷は浅いが、それでも結構な量の血が、御園の服を染める。


「こんな…ところで…止まってられな、いの…」


痛みを堪えて立ち上がり、御園は足に力を入れて先を急ぐ。


「俺を無視するつもりか...させるはずないだろう」


患部を抑えながら走る御園の背中を見つめながら、達也は呆れてため息を吐く。


「〈如月(きさらぎ)〉⁻’’鎖裏刃(さりば)’’」


達也が片手剣〈如月〉にそう命じると、〈如月〉の柄と刃も部分が分離し、御園めがけて伸びていく。柄と刃を繋ぐのは、強靭な鎖。

御園の広い視野の端で、伸びる刃を捉えた御園は、少し横にズレて回避する。狙いを外した刃は、鎖を巻き戻して本体まで戻っていく。この巻き戻している時間が、相手にとっての「狙われる数秒」だ。御園が撃った弾丸は、ヒラリと回避されてしまった。


「……」


達也から逃げながら、迅のもとへ急ぐ御園は、ある心配をしていた。

先ほどの達也の攻撃は、鎖で刃の届く距離を長くし、遠くにいる敵にも攻撃を当てられる、というもの。かなり有効的ではあるが、正直に言って、古典的な技術しか使われていないようにも思える。

将馬が持っていた突撃銃(アサルトライフル)は、光の刃を生成する機能がついていた。それに比べたら、達也の持つ片手剣の追加機能は、あまり脅威的ではない。

御園が恐れているのは、さらなる機能だ。あの片手剣には、何か別に追加機能があるはずで…


「ヴッッ…!」


突如御園の背中に、激痛が走る。その直後、何もないはずの場所で何かに躓き、御園は転倒してしまう。自分の足ではない、別の何かに。


「ハァ…ハァ…」


徐々に減っていく御園の体力。背中に走った激痛の正体は、当然達也の片手剣〈如月〉によるものだ。だが、転倒した理由だけが、いまだに分からずにいた。


「脱走用警備システムのひとつ〈ネスト〉だ。普通はあの勢いでワイヤーに引っかかれば、脚が切れてもおかしくないんだが、運がいいな」


気付けば目の前にいる達也が、淡々と解説する。

そうだ。この階は監禁室が並ぶフロア。脱走者を捕らえるための警備システムがあってもおかしくはない。


「終わりだ」


〈如月〉の鎖で、御園を縛ろうとする達也。その達也の左足の(すね)を狙い、御園は咄嗟に〈シムナ〉の引き金を引いた。発射されたレーザー弾は達也の脛を直撃し、達也は痛みに苦悶の表情を浮かべる。

御園は立ち上がり、再び走り出す。脇腹と背中の傷が、一歩進むたびに悲鳴を上げる。


「待て!」


御園と同じように、痛みに耐えながら追いかけようとする達也。御園との距離、約二十メートル。

御園を追う達也は、横の壁がミシミシと音を立て、だんだんヒビ割れていくのを目視する。その僅かコンマ数秒後、まるで何かが建物を突き抜けて通過していくように、警視庁庁舎十二階の壁に穴が開いた。


『御園先輩!援護します!先に進んでください!』


御園のインカムから、外で待機している朝陽の声が聴こえてくる。先ほどの壁の崩壊も、朝陽によるものだ。簡単に言えば、空気砲を放ったのだ。


「ありがとう!今のうちに行くよ!」


朝陽の空気砲のおかげで、達也から距離を取ることができた。走る御園は、突き当たりにある看守室を目指す。そこで、迅を縛る鎖や錠を解く鍵を入手するのだ。迅の囚われている部屋の番号は、【万里双眼(マイルズスコープ)】の透視能力で確認済み。

御園は看守室に飛び込み、すぐさま鍵を探す。ここでもたついてしまえば、達也に追いつかれるどころか、逃げ道を失ってしまう。


「あった!」


万里双眼(マイルズスコープ)】があってこそ、なのだろう。一分もかからないうちに、迅を解放するための鍵を入手した御園は、看守室を飛び出て、迅のいる監禁室へと急ぐ。

迅を解放するための鍵はカードキーだ。迅のもとへたどり着きさえすれば、御園の勝ちだ。


「貴様、公安局だな?止まれ!」


迅の監禁室の前には、看守たちが集まっていた。御園に銃を向け、「止まれ」とけん制する。


「どいて!!」


御園は看守たちに容赦なく、銃口を向けてトリガーを引く。レーザー弾ではなく、実弾を撃たれた看守たちは、痛みに悶え倒れる。


「止まれ公安!」


後ろから、達也が追いついてきている。

御園は大急ぎで監禁室の扉を開け、中へ飛び込んだ。


「種原くん!!」


「御園!?」


御園が涙目で、迅が驚いた表情で、お互いの名を呼ぶ。

迅の足元にしゃがみこんだ御園は、背負っていたギターケースを降ろし、迅の座るイスの背もたれ部にある鍵の部分に、先ほどのカードキーをスキャンしようと、手を伸ばす。


「ゥアッ!」


御園の背中に再び、達也の刃が突き刺さる。


「二人とも、逃がさない。まずは女からだ」


達也は再度、御園をめがけて〈如月〉を振り下ろす。


ギィイイン!!


振り下ろされた刃は、〈シムナ〉の銃身と衝突し、停止する。


「ありがとな、御園。助かったよ」


その〈シムナ〉を握っているのは御園ではなく、御園を抱きながら微笑む、迅だった。

達也は発砲を恐れてか、数歩後退する。

迅は、御園に〈シムナ〉を返すと、ギターケースから〈デュランダル〉とブレイナーを取り出す。


「無理させて、心配かけて、ゴメンな。」


迅は、傷だらけの御園を見て、心底申し訳なさそうに言った。


「ううん…種原くんをたすけるためだもん。どうってことないよ」


痛みを堪え、御園は笑顔を浮かべる。

迅は左腕で御園を抱きかかえ、右腕に〈デュランダル〉を握る。


「帰ろう」


「うん」


そう言葉を交わした二人が見据えるのは、目の前に立つ敵・達也。


「よくも、俺の大事なヤツをこんな目に遭わせてくれたな。覚悟しろよ」


迅は達也に刃の切っ先と、鋭い怒りの眼差しを向ける。そして、もう一つの相棒(パートナー)に、覚醒を命じる。


「〈デュランダル〉-起動」





To be continued……

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