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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
57/63

『彼』

「行くぞ…『金剛蛇(キングコブラ)』」


将馬の命令によって、彼の持つ突撃銃(アサルトライフル)の銃口が、黄金色に輝き始めた。

未知の攻撃に備え、警戒態勢をとる御園と恭介。

将馬は、突撃銃(アサルトライフル)を、まるで鈍器を振るうように構えると、危険を察知した恭介が叫んだ。


「伏せて!」


言葉に身体が反応し、御園も恭介と同時に態勢を低くする。その直後、二人の頭上を光線が、扇を描くように疾走する。

光線が触れた壁部は黒く焦げ、ジリジリと黒煙を上げている。


「なに…今の……」


「今のあの銃は、銃じゃないってことです」


将馬が『金剛蛇(キングコブラ)』と呼ぶその銃は、まるで鞭のように光線を放った。無差別に周囲を巻き込むその攻撃をかい潜るのは容易ではない。ほぼ質量がない光の攻撃を感じ取るのも、いくら恭介の【音響世界(サウンドスケープ)】があっても不可能だ。

だが、質量は全く変わらない銃器を振り回すのだ。ただの銃乱射よりは、モーションの大きさによる隙ができる。刀一本の恭介なら、近づくのは簡単。


「作戦を変える必要は、多分ないです。このままいきましょう」


「そう。なら、このままで」


作戦の確認をとった後、恭介は将馬の懐めがけて動き出した。来させまいと、将馬も『金剛蛇(キングコブラ)』で対抗しようとする。が、恭介の背後に控える御園が、『金剛蛇(キングコブラ)』を振るった直後の隙を狙っている。下手に動けなくなった将馬は、銃身で恭介の刃を受けるので精いっぱいになっていた。

完全に、御園・恭介のペース。だが、このままの状態が続くとは、御園も恭介も思ってはいない。この状態が続くのは、『金剛蛇(キングコブラ)』が通常射撃と併用できない場合だけ。


「クソッ…離れろ!」


突撃銃(アサルトライフル)の銃口から光が消え、将馬は二人まとめて始末しようと、辺りに銃乱射を行う。

恭介は能力を使って巧みに受け流し、御園はすぐ横の壁を壊し、そこへ避難して難を逃れた。

やはり、『金剛蛇(キングコブラ)』と通常射撃は併用可能なようだ。


「はあぁぁッ!」


銃乱射がリロードのために止んだ。近接戦闘型の恭介は、ここぞとばかりに将馬へ斬りかかる。将馬は『金剛蛇(キングコブラ)』を使おうとしているのだろう。銃器を振りかざしている。

光線の鞭がくると予想した恭介は、銃身と胸がすれすれで掠らないように攻撃を回避。だが、


「うぐッ…!」


恭介の刃と、将馬の銃器が擦れあい、小さく火花を上げている。恭介は床に押し付けられたような状態になっており、力を緩めれば銃器で殴られてしまう状況だ。恭介の延長能力(オーバーアビリティ)がなければ、確実に頭部を殴られていただろう。


「河辺君!」


御園の放った弾丸を避けたことで、ようやく将馬から恭介は解放された。崩れかけた態勢を整え直し、将馬の方を見やった恭介は、次の瞬間には叫んでいた。


「篠宮先輩!」


将馬の標的となっていたのは、御園。援護という邪魔者を、排除するつもりなのだろう。

だが、動揺する恭介と裏腹に御園は、


「…チェックメイト」


将馬の目を見て、笑った。そして、


ドン!


銃声が鳴り響き、辺りに鮮血が飛び散る。被弾者の持つ銃が、床へ落下する。


「な…ん、だと…?」


自分の背中を摩り、大量の血がついた手を見て、呻いた。


最初(ハナ)から…狙撃…狙…い、だったのか…」


床に伏している将馬は、遠のく意識の中でかすれ声を出した。


「朝陽ちゃん、命中だよ」


『これくらい、余裕です。御園先輩には当たりませんでしたか?貫通弾だったんですけど』


「大丈夫。弾道は予想してたから」


そう。将馬を撃ったのは御園ではなく朝陽。ずっと警視庁庁舎の外から、狙撃のチャンスを窺っていたのだ。

朝陽が放った貫通弾は、文字通り窓ガラスを抜け、防弾スーツをも突き抜け、将馬の身体を貫いた。


「河辺君も、大丈夫?」


「はい。問題ないです」


「なら急ごう。こんなところで時間を取られてる場合じゃないから」


御園と恭介は、上階へと急いだ。



国防庁・応接室。

公安局と警視庁が交戦中の今、この間ではとある密会が行われていた。


「よく来たね博士。さぁ、掛けてくれ」


向かいのソファに、北条恒盛(ほうじょうつねもり)大臣は客人を促す。

博士と呼ばれた一人の老人の訪問客は一礼すると、北条の指すソファに腰を下ろした。


「まさか、君が我々の味方についてくれるとは思っていなかったよ。鳶浦(とびうら)博士」


「状況が変わりましてね、今まで彼についてきましたが、私の正義感はそれを許容できなくなりました」


鳶浦由鐘(よしがね)は微笑んでから言い、北条の秘書に出されたコーヒーを啜る。


「彼の意見には、私も同意していたのだが…残念だ」


「最近は、目的を見失っている節が見受けられますからね」


二人の言う『彼』は、犬飼大河を指す。


「確かに我が国は、軍事技術は他国に勝るとも劣らないが、兵士の戦闘力は、劣るところがある。それを補う策として、延長能力(オーバーアビリティ)に目を付けたのは、評価すべき点なのだろうな」


北条は、大河が述べていた意見を、改めて総評する。

大河の意見は、現在の日本の軍事技術は、他国に劣ることはないが、交戦権を放棄しているため、兵士一人ひとりの戦闘能力は劣っている、というものだ。

国の防衛のためだけに使われる軍事力のため、軍艦や戦闘機で応戦し、兵士の上陸を許さない防衛戦を行っていく、というのが今までの方針だった。そのため、軍艦・戦闘機は、年々性能を上げている。だが、アメリカやヨーロッパ諸国では、兵士が装備する、アームドスーツの開発が進んでいるらしい。もし、アームドスーツの量産化が進めば、戦闘機や軍艦で間に合うレベルではなくなる恐れがある。

日本の科学・医療技術は世界トップレベル。世界の国々が、その技術を欲しないはずはない。

現在の最高政府機関『世界連合』は、全世界の各技術をほぼ同等レベルにまで揃え、そこからの発展は各国が各自行うという方針を取っている。世界各国が同じスタートラインに立ち、そこから進めないのは自己責任、ということだ。技術のグローバル化を禁じられた今、世界では技術を巡る戦争が相次いでいる。

当然、方針を改めろ、という意見が続出するが、世界連合のトップに君臨するのは、ヨーロッパ州に属する数十ヶ国をひとつにまとめた大国『欧州連合国』。高い技術を持つ国々が結集され、負けを知らない軍事国が、世界連合を仕切っている。技術欲しさに攻め入る国々を一蹴してきた欧州連合国は、現在の方針に問題はないと、数多にあった批判を帳消しにした。

そう、現在の世界は、欧州連合国が治めていると言っても過言ではない。

もし、その欧州連合国が、日本が唯一(まさ)っている医療技術を奪いに攻めてきた場合、日本に勝ち目はない。

少しでも勝ち筋を作るために、大河は地上戦・白兵戦での戦力強化を勧めたのだ。まだ日本人しか持つ者がいない、延長能力(オーバーアビリティ)に目を付けたのも、なんらおかしなところはない。だが、


「なぜ、自我のない兵器にこだわるのか。そこが理解しかねる点、だな」


「支配する自信がないからですよ」


北条の抱いていた疑問に、由鐘は即座に断言した。


延長能力(オーバーアビリティ)を持たない自分が、延長能力(オーバーアビリティ)部隊を指揮する自信がないんですよ。そもそも、上に立つ資格すらない」


「…….」


「だから能力者に濡れ衣を着せた事件を起こし、能力者に関する情報を募った。あらゆる能力者を捕まえ、殺し、クローンで量産する。そのクローンをまた殺し、死体を使って『死人形(マリオ)』を量産する。もうこれは、虐殺行為です」


「だが君は、その虐殺行為に協力していた」


「それは、単なる実験だと思っていたからです。『自分に従順な能力者は、本当に戦力になるのか』という」


「後からとってつけた言い訳にしか聞こえないが」


「好きに言って頂いて結構です。今の私は、犬飼大河に協力するつもりは一切ありません。これは本心です。これまでの愚行への刑罰は受けます。私はこれから、日本政府に全力で協力する、という旨を伝えるべく、ここを伺ったのですから」


そう言い切る由鐘の眼差しから、北条はそれは本当に本心なのだろうと悟った。


「いいだろう。君を歓迎する。だがその前に、罰は受けてもらう」


いきなり百パーセント信用するつもりは、北条にはない。AOAでの罪を償うところから、由鐘には行ってもらうつもりだ。


「ありがとうございます、大臣」


北条に、深々と頭を下げる由鐘。北条はそれを数秒見つめた後、秘書に連行を命じた。

しばらくして、誰もいなくなった応接室で、北条は胸ポケットから取り出したインカムを耳に装着し、通話モードを起動する。


「準備はできているな、’’Example(イグザンプル)’’部隊。たかが最新装備をしているだけのAOAに、能力者チームの公安局が負けるということはないと思うが、万が一に備えて待機だ。何か状況に変化があれば、随時報告しろ。私が指示を出す」


公安局と警視庁の闘争に、第三勢力が介入する。





To be continued……

プロット変更が必要な感じなので、更新ペースはかなり遅めです

ごめんなさい

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