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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
55/63

『揺れる警視庁』

警視庁庁舎内。公安局本部での戦闘が始まって数分、この場所でも戦闘が始まっていた。二人の公安局員と、AOA隊員による戦闘が。


「ここは六階だぞ?どうやってここまで来やがった?」


「公安での戦闘が始まった直後から全出入り口は封鎖してたはずだ!」


そんな声が飛び交う中、御園と恭介は迅のいる十二階を目指す。行く手を阻むAOA隊員を蹴散らしながら、二人は上階へと進んでいく。


「一般人に紛れて庁舎内に潜んでやがったんだ!なんとしてでも十二階へは行かせるな!」


御園と恭介の後を、AOA隊員が追いかける。七階への階段を目の前にしたところで、御園は立ち止まった。


「…しつこい」


〈シムナ〉を握り、銃口を上に向ける。


「〈シムナ〉-『デストロイ』。最小火力」


【〈シムナ〉-『デストロイ』モードへ移行。対象を破壊します。爆発にご注意ください】


機械音声と共に、御園によって放たれた破壊の弾丸は天井を破壊し、瓦礫と粉塵でAOA隊員の行く手を塞いだ。

「待て!」という声が聴こえるのを無視し、二人は七階へと上がる。警視庁の構造は意味不明で、七階から八階に上がる階段は別の場所にある。そのため、御園たちは七階を通過しなくてはならない。

御園の前を進んでいた恭介が踊り場から出た直後、銃声と、延長能力(オーバーアビリティ)による危険察知で再び踊り場に恭介は戻ってきた。


「敵です。突撃銃(アサルトライフル)使い」


突撃銃(アサルトライフル)…近づきにくいね」


「でも、ここで止まってたら下から来ますよ」


恭介の懸念通り、ぼやぼやしていれば下の階からAOA隊員が上がってくる。そうなれば、逃げ場はなくなる。


「さっきのを使うから、その隙に行くよ」


「了解」


御園が〈シムナ〉の『デストロイ』で天井を砲撃し、粉塵が上がった隙に二人は踊り場を出て、突撃銃(アサルトライフル)使いのいない方向へと走る。面倒な敵とは戦わないようにルートをとるのだ。

こちらの突撃に備えて銃乱射していたが、来ないと分かった相手も、こちらの作戦を察しているだろう。だが、戦闘になるとしても、先ほどよりは近い距離での戦闘になるだろう。近接戦闘に持ち込むことができれば、恭介に分がある。


「なんとかして窓際に誘導するよ。作戦があるの」


が、御園が提案したのは、恭介を軸に戦う作戦ではなかった。


「河辺君は相手に接近して誘導、私は援護射撃するから」


「りょ、了解」


御園の意図を汲み取れないまま、恭介はそれを了承する。


鷹城(たかじょう)、こちら井上。敵二名を目視した。直ちに殲滅を開始する。お前は万が一に備えて十一階で待機だ」


『俺に命令すんなアホ。お前が負けることを祈ってるが、せいぜい頑張れや』


突撃銃(アサルトライフル)使い・井上将馬(しょうま)は、鷹城レイジへの通信を終えると、再び戦闘に意識を集中させる。

レイジの口の悪さはいつものこと。いちいち目くじら立てている暇はないのだ。


「上階へは、行かせない」


敵は上階を目指している。できることなら戦闘は避けたいはず。敵に遭わずに進めるのなら、誰だってそうしたいだろう。

将馬は、約二十メートル先に敵を目視する。敵と将馬の間には、上階へと向かう階段がある。

御園は、今度は床を狙って砲撃する。立ち昇った土埃によって、御園・恭介と将馬、お互いがお互いを視認することはできなくなった。

将馬は分かっている。この隙に上階へ上がろうとしていることくらい。


「そうはさせない!」


突撃銃(アサルトライフル)を構え、御園と恭介をハチの巣にしようと、引き金に指をかけた時、


「〈ラビット〉-二重(ダブル)


脚力増強シューズ〈ラビット〉で床を蹴る力を強化し、もの凄い勢いで飛び込んできた恭介のタックルをもろに食らい、将馬は後方へ大きく吹き飛ばされた。


「くッ…!」


油断した。将馬はそう痛感する。敵は上階を目指すことしか考えていないとしか思っていなかったため、「戦闘」という選択肢を無意識のうちに切り捨てていた。

恭介は既に、将馬に近い場所に立っている。その背後には、御園が援護の用意を整える。

中距離戦闘を得意とする突撃銃(アサルトライフル)使いにとって、不利な状況下にある。


「仕方ない…アレを使うしかないな」


そうため息を吐き、突撃銃(アサルトライフル)に将馬は命じた。


「行くぞ…『金剛蛇(キングコブラ)』」



公安局本部・研究室前。

この研究室の最奥部では、異常患者(グローバー)に関する研究が行われているはずと踏んだ犬飼大河は今、研究室の入り口前に立っていた。

だが当然、ドアにはロックが掛かっている。スキャンキーと指紋認証による開錠以外では開かない、厳重なロックだ。

仕方ない、そう思った大河は、両腰に携えた二本の刀を手に取り、命じた。


「〈武蔵〉⁻『爪牙螺旋(そうがらせん)』」


命じられた二刀〈武蔵〉は、既にある刃に巻きつくように、柄の部分から新たに刃が現れた。そしてその刃は、勢いよく回転を始めた。まるで、岩を削るドリルのように。

大河が文字通り、ドリルのように研究室のドアをこじ開けようとした時、大河の手はとある声によって止められた。


「研究室へは、入れさせないわよ」


女の声だった。大河は声がした方向を向き、声の主を視認した。

視線の先にいたのは、ナース姿の金髪少女。右手には、鞘に収まったままの刀が一本、握られている。

公安局医療課の人間だろう、と、大河は判断する。仕事中に抜けてきたのだろう。胸には『白雪絵怜奈(しらゆきえれな)』と書かれた名札がついたままだ。


「なんだ、公安は医療課の女まで戦場に出すほど、人材不足なのか?」


大河が、挑発混じりに嘲笑する。


「その逆ね…環境管理課は精鋭揃いだから、私なんかが入る枠はないってことよ」


絵怜奈はその挑発を、難なく受け流す。鞘から刀を抜き、戦闘態勢をとる。


「さっきその精鋭たち何人かと戦ってきたが、大したことなかったが…お前はそれ以下というわけか」


「…そう言われたからって、引き下がるわけにも行かないのよね」


「ほう…感心だな。勝機のない戦闘から逃げぬとは」


大河は刃に巻きつく刃を収め、〈武蔵〉を通常仕様に戻す。


「お前のその強い精神に敬意を表して、少しだけ相手になってやる」


「それはどうも。真剣勝負、ってことかしら?」


大河はその問いに、小さく笑みを浮かべて見せる。そして、


キイィイン!!


激しい交錯音と共に、絵怜奈と大河の戦いは幕を開けた。

絵怜奈は手数の多い大河の攻撃を、一本の刀で凌いでいる。それどころか、反撃の隙を窺う余裕すらあった。

大河の、二刀をクロスさせた攻撃を一刀で止め、二人の動きも共に止まった。


「…ただの剣士、というわけでもなさそうだな…」


「あなたたちが捕らえてる男に教えてもらったことがあるだけよ」


ギリギリと、擦れ合う刃が音を立てる。絵怜奈も剣の手練れではあるが、相手は男、絵怜奈は女。生まれながら生じている力の差により、絵怜奈は押され始めていた。

この状態が続くのは危険と判断した絵怜奈は、後ろへ退いた。


「ハァ…ハァ…」


両手で持つ一本の刀。これが今ある絵怜奈の武器だ。相手は二本の刀。それに何やら特殊な機能まで持ち合わせている様子。


「今だけ、感謝してあげるわよ。種原君」


迅からの教えを、思い出す。空いた時間に少しだけ付き合ってもらう、たったそれだけの訓練だったが、内容はとても濃いモノだった。


「戦況を深く、読む」


絵怜奈は、目に入る情報から、戦闘を通して得た情報、あらゆる情報を、可能な限り速く分析する。延長能力(オーバーアビリティ)を持つ迅は、戦闘中に分析を終えているのだろうが、常人の絵怜奈には困難だ。動きを止められている今しか、分析はできない。


戦場の廊下は、幅は七メートルほど。広めのため動きやすいのは助かるが、それは相手も同じ。

AOAの男は刀を二本使った連撃と、まともに喰らえばダメージの大きい、二本で一撃を繰り出す攻撃のどちらか。だが、特殊な機能には警戒が必要。特殊機能を使っていない今のうちに決着を着けなければならない。

当然、力勝負では勝てない。

自分が相手より少しでも上回っている要素は……


「はあぁッ‼」


足に力を入れ、絵怜奈は勢いよく突撃する。隙を見せないよう、刀は小さく振りかぶる。

振りぬいた刃は、大河の一本の〈武蔵〉に止められてしまった。もう一本の〈武蔵〉が、絵怜奈を斬ろうと迫ってくる。

絵怜奈は素早く回転し、大河の背後に回り込み、再度斬りかかる。


「くッ…‼」


なんとか受け止める大河だったが、大きくよろめいてしまっている。

この隙を絵怜奈が逃すはずもなく、追撃する。手ごたえは、あった。

確実に、斬った。


「終わりよ」


地面に倒れそうな大河に、絵怜奈は言う。

絵怜奈が大河より(まさ)っている要素、それはスピードだ。体格差によるスピードの差と、刀一本と二本の差。大の大人でも男でも、なかなか重い刀二本を持って素早い動きに対応するのは難しい。絵怜奈は、スピード差によって生じる隙をうまく突いたのだ。

だが、絵怜奈はその時に気づく。致命傷になりかねないほどに、手ごたえのあった一撃。

それを喰らったにしては、出血が少ない。


「フフフ…残念だったな、お嬢さん」


背後で混乱する絵怜奈を、そう嘲笑する大河。

絵怜奈の方を向いた大河の胸には、大きな斬り傷がある。だが、浅い。


「この隊服は防弾チョッキの役割も果たしていてね、斬撃にはさほど強くないが、ダメージは和らげてくれるのさ」


得意げに話す大河と、悔しそうに舌打ちをする絵怜奈。

大河は二本の〈武蔵〉を掲げ、不敵な笑みを浮かべた。まるで、自分の勝利を確信したかのように。


「〈武蔵〉⁻『爪牙螺旋』」


二本の刃に巻きついた刃が、高速で回転する。

大河が近づいてくるのに従って、絵怜奈も後退していく。


「あんなので斬られたら…たまったもんじゃないわ!」


今の〈武蔵〉は、刀ではなくドリル。体に触れれば、鉱石のように、内臓まで抉り取られてしまうだろう。


「終わりなのはお前だ、お嬢さん」


加速し、至近距離に迫ってきた大河は、絵怜奈に〈武蔵〉を振り下ろす。


「く…クゥッ‼」


刀を盾にして防いだものの、刃は思い切り弾かれ、絵怜奈の手から離れてしまった。目の前に、もう一本の、ドリルと化した〈武蔵〉が迫る。

凄まじい痛みを恐れ、目を強く瞑る絵怜奈。コンマ数秒後には、死が訪れる。


だが、


絵怜奈を痛みが襲うことはなかった。彼女が恐る恐る目を開けると、〈武蔵〉は目の前で止まっていた。


「よくやった白雪。ケガはないか?」


「椎名…さん…?」


絵怜奈を救ったのは、公安局環境管理課一係のトップ、椎名伸明(のぶあき)だった。


「貴様…‼」


大河が歯軋りをして、椎名を睨む。彼の握る〈武蔵〉は、大人しくなっていた。

そう。

椎名は文字通り『爪牙螺旋』を、あのドリルを止めたのだ。





To be continued……

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