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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
54/63

『真の目的』

公安局本部の爆発によって幕を開けた、公安局vs警視庁【AOA】。

大きな爆発音とともに、建物内にたくさんのAOA隊員がなだれ込んでくる。銃を持った者、剣を握る者、公安局本部のエントランスホールは、あっという間に人で埋め尽くされる。

こういった事態を想定し、今日は一般客の入場を禁止していたこともあり、建物内にいるのは公安局員かAOA隊員のみ、となっている。

他の支部から応援に駆けつけてくれた環境管理課の局員たちが、AOA隊員と激しい武器の衝突を繰り広げる。


「クソッ…何人連れてきてんだよ…‼」


装備型のリジェクター〈アテナ〉で迫る敵を打ち倒しながら、蒼夜(そうや)はそう嘆いた。


「さすがにこの人数は…厳しいですね…」


棍型リジェクター〈シャムロック〉を振り回し、輝夜(かぐや)も弱音を吐く。本部防衛組が殺伐とした空間で戦う中、あひる防衛組であり、取引場所を遠くから見張っていた朝陽の、不安に満ちた声がインカムから聴こえてくる。


『それより種原先輩は⁉警視庁は種原先輩が乗った車を爆破しました!もしかしたら…』


その不安の声が、それを耳にした者全員を不安へと導く。


『車の焼け跡に死体らしきものはなかった。少なくとも、種原はこの場には連れてこられていない。やはりAOAは、取引に応じるつもりはなかったということか。先に取引を持ちかければ確実だと思っていたが…先手後手は関係なかったな』


現場の状況から、迅は取引場所(このば)には連れてこられていない、そう判断し椎名は、その旨を皆に伝える。


『篠宮、河辺。種原はおそらく警視庁庁舎だ。一般人に被害を出さない程度に暴れて構わん。種原を救い出せ。俺はこれから公安局本部へと向かう』


既に移動を開始している椎名が、警視庁庁舎にいる御園と恭介に命じる。そして、


『篠宮。お前の”眼”なら視えるはずだ。隈なく探せ』 


『了解』


蒼夜と輝夜に聴こえていた通信はそこで途切れる。


「さて、こっちも気合い入れていくぞ」


「了解。まずは目の前の敵を……」


蒼夜が拳を強く握り、輝夜が〈シャムロック〉を大きく振りかぶる。

そして、2人が繰り出した一撃は、一度に大勢のAOA隊員を吹き飛ばす。


「「ぶっ倒す‼」」



同刻。椎名と御園の通信が終了し、本格的に戦闘が始まった。

海斗が陣取っていた、東口エントランスホールでも、公安局員とAOA隊員の激しい戦闘が巻き起こっている。

ハンマー型のリジェクター〈ウコンバサラ〉を巧みに操り、次々と敵を殴り倒していく海斗は、(クラスメイト)の安否がとても気になっていた。

椎名は、迅は取引場所に連れてこられていない、と言っていた。つまり、車の爆発で死んでしまった可能性は潰えた。

だが、まだ生きていると決まったわけではない。あくまで爆発では死んでいないだけ。もうすでに、殺されている可能性も十分にある。言い換えれば、迅がまだ生きている可能性は低い。

そう考えるのは自然なことだ。なぜなら、最初から取引に応じるつもりがなかったAOAに、迅を生かしておくメリットがない。まだ生きているというのなら、それこそ不可解なのだ。


「くそッ…はっきり言って、こいつらと遊んでるヒマはねェ…‼」


早く、迅を助けに行きたい。それが海斗の心情だった。御園には敵わなくとも、迅を助けたいという気持ちは、一係の「助けたい」の中では大きい方だ。

海斗は剣を振りかざし迫ってくるAOA隊員の顔面を〈ウコンバサラ〉でとらえ、フロアに叩きつける。大きな血塊を噴き出し、そのAOA隊員は動かなくなる。


「うあぁぁぁッ‼」


誰かの悲鳴を聞き、海斗は声がする方向を向く。するとその方向から、沢山の公安局員をなぎ倒す謎の二人組の姿があった。

一人の方からは何故か機械音が、もう一人の方からは刃が空を斬る音と、上がる血飛沫が見える。

そしてあっという間に、その二人は海斗の前に現れた。


「なんだ、このエリアはあと一人か…公安も大したことないな…」


その発言から感じられる余裕。まるで公安局など、眼中にないといった感じ。間違いない。先日、公安局を襲おうとしていたAOAの五人の内の一人だ。


「アンタ…AOAの中でもエリート、って感じか…?」


海斗のその問いに、その男は鼻で嗤って答える。


「なかなか見る目はあるな。いかにも、俺はAOA隊長を務めている」


「へェ…始める前に訊いときたいんだけど、ウチの局員は無事なんだろうな?」


「フフ…俺とやり合うつもりでいるのか…まぁ、公安を壊滅させるつもりできたわけだから、いずれ貴様も消すことになる、か。で、貴様らのバケモノ仲間なら、まだ生きているよ。少し面倒な取引をさせられてしまってな、殺すに殺せない状況にある」


「…そうか。なら良い」


もちろん、信用しているわけではない。だが、今目の前にいるのはAOA隊長。つまり、(キング)だ。(キング)を討てば、勝利は決まる。一刻も早くAOAを倒し、迅を救出に行く。

海斗は〈ウコンバサラ〉を構え、戦闘態勢を整える。


「やる気満々なところ申し訳ないが、貴様の相手はコイツがやる」


男の横にずっと立っていた、多くの公安局員を倒した謎の存在。その正体はロボット。戦闘のみに特化した、アンドロイドのようだ。


「ま、待て!」 


海斗の相手をアンドロイドに任せ、奥部へと進む男を、海斗は追う。


「舐めやがって…!!」


脚力増強シューズ〈ラビット〉を使って、男を追いかける海斗の前に、アンドロイドが立ちはだかる。


『”ブレイナー”カイセキ。コウアンキョクノ、ニンゲン、カクニン。ショリヲ、カイシ、スル』


今どき珍しい、片言で話すアンドロイドの首元に、機体番号と、『FAILURE』の文字。


FAILURE……つまり、失敗作。



時は少し遡り、昨日の夜。

警視庁【AOA】に捕虜として囚われている迅の監禁部屋に、犬飼大河が入ってきた。

表情は…決して機嫌が宜しいといった様子ではない。さらに、彼の手には一本の剣が握られている。穏やかな様子でも、百パーセントなかった。


「なんの用だ。俺から何も情報が得られないから、抹殺指令でも下ったか?」


自分は縛られて身動きが取れない状況。大河は凶器を持っているにも関わらず、迅は屈せずにそう問いかけた。


「理由は違うが、抹殺指令が出たのは正解だ。今から、お前の首を刎ねる」


「…そうか。理由を聞いてもいいのか?」


さすがに命を危機を感じている迅は、少々焦った顔を浮かべた。


「公安局から、捕虜交換の申請に関する文書が届いた。我々の目的は能力者の排除。みすみす目の前の能力者を逃がすわけなかろう」


「なるほど…応じるつもりはない、と」


「そうだ。よって貴様を生かしておく理由もなくなった。悪いが、死んでもらう」


「そりゃ…参ったな…」


死の淵に追いやられると、笑みが零れるものなのだろうか。迅は自分の未来に絶望を感じ取ると、苦笑を浮かべた。


「なぁ、ひとつ聞かせてくれ」


「…なんだ」


AOA(あんたら)の…いや、アンタの真の目的って、なんだ?」


迅からの予想外な質問に、大河は小さくため息をついた。


「今死ぬお前が、なぜそんなことを訊く?」


「いや?ただ単純に知りたいだけだけど」


まもなく死ぬ人間の表情ではない、迅の顔を見て、大河はそう思う。

大河は、出していた剣を鞘に収めると、口を開いた。


「日本は、他国に比べて軍事力が劣っている。昔から、交戦権を保持していない日本には、防衛に必要な軍事力しか存在しない」


大河が語り始めたのは、古来から続く、日本の姿について。交戦権を保持しておらず、戦争を放棄している日本は、こちらから他国に攻撃することはできない。そのため、今の日本には、防衛目的のみの戦力のみ。


「そのおかげで、日本は平和だ。人々は皆、他国では戦争や紛争が起きていることなど、一切気にかけずに生活しているだろう」


迅は、確かにそうだ、と納得しながら、大河の話に耳を傾けていた。


「だが、今の日本は違う。医療と科学の技術は世界でダントツトップの実力がある。世界がこの先数十年かけて到達する域に、今の日本はいる」


大河の言う通り、現在の日本は医療と科学技術においては、世界トップの実力がある。それも、二位にかなり差をつける形で。


「そんな技術を、世界が欲しないと思うか?日本をここまで導いた技術を、人材を、欲しないと思うか?」


大河の言いたいことが、理解できてきた気がする、迅はそう思いながら話を聞く。


「世界の国々はいずれ、必ず攻めてくる。その時、今の日本の軍事力では太刀打ちできない。兵器による軍事力も、白兵戦での軍事力も、今の日本では他国に敵わない」


「…だったら、どうする?」


「兵器は問題ない。今の技術を使えば、十分に世界に通用するものが作れる。だが、『人間』は今すぐどうこうできるものではない」


確かに、平和な生活に酔っている一般人に、突然戦えと言っても無理な話だ。戦争において白兵戦は不可避、それが弱いのであれば、話にならない。


「そこで今の日本には、能力者が必要なのだ。これは世界で保持しているのが日本だけ、日本の最大の武器になる」


「…なら、むしろ能力者を歓迎した方が良いんじゃないのか?」


「何を言っている。自我のある能力者など必要ない。我々が欲しているのは、人間兵器だ」


「なッ…」


信じられない発言に、迅は声を漏らした。


「我々に従順な人間兵器部隊。これが我々AOAの目的だ。これの達成には、沢山の能力者の死体が必要。だから市民から、能力者に関する情報を募ったのさ」


能力を持った人間兵器部隊。確かに白兵戦で活躍するだろうが、実現にはたくさんの犠牲が発生する。迅も能力者⁻有能者(アダプター)である以上、止めなくてはならない。

だが、AOAの目的が、「有能者(アダプター)で作られた人間兵器部隊の結成」であるということ自体、今の迅にとっては都合が良かった。


「…なら、今は俺を殺さない方が良い」


その発言に、大河は少しだけ、戸惑いの面を見せる。


「…なに?」


「もし、AOAが公安局に勝てたら、俺が能力者に関することを洗いざらい話してやる」


「公安局に勝てば、研究資料は閲覧できる。必要ない」


「公安局のデータベースには載ってない情報さ」


拒否しようとしていた大河だが、それを少し躊躇った。


「公安局が知らない情報、だと?」


「正確に言えば、隠ぺいするためにデータ化していない情報、かな」


迅が持ち掛けた話は大河にとって、AOAにとってスルーはできない話だった。

迅は不敵な笑みを浮かべ、更に続けた。


「『Project(プロジェクト) Aegis(イージス)』。忘れたくても忘れられない、禍々しい実験の記憶について、だ」





To be continued……

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