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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
52/63

『私は、』

「面白い展開になりそうだね」


ブラックコーヒーを一口啜った後、一瀬信樹(いちのせのぶき)はそう呟いた。その言葉に、コーラのペットボトルを握った荒浜鉄二(あらはまてつじ)が、呆れ顔で反応する。


「呑気なモンだな。他人ごとになると楽しみ始めるところあるよな、お前」


信樹イチオシの喫茶店で、二人はのんびりと時を過ごしていた。ちなみに、鉄二が店内にコーラを持ち込めるのは、常連である信樹の友人だから特別、なんだそうだ。


「私の予知だと、そろそろ公安の新人君がAOAの捕虜にされた頃だ。そして近いうちに、公安とAOAはぶつかる」


「お前の予知が外れたの、今のところは見たことないからな。多分、そうなるんだろ」


そう言って、鉄二は再度コーラを口に含む。


「まぁ普通なら、どっちかが捕虜交換を要求して平和的解決、だろうが、記者会見の日に公安本部を落とそうとした連中だ。なんとしてでも公安と交戦する状況を作るんだろうな」


「そうだな…私の予知でも、そう出ているしな」


「さっき聞いたよ」


喫茶店の窓から見えるのは満天の星空。何か良くないことが起きる直前とは思えないほど、麗らかな星々。

信樹はコーヒーのおかわりを注文すると、再び鉄二の方へと顔の向きを直した。


「AOAは…とことんやられるぞ。正義の皮を被った悪党には相応しい顛末だろう」


コーラをグビグビと飲む鉄二に、彼は語った。


「だが、AOAによって、公安だけでは手に負えない状況にもなる。公安は、どうしようもない状況にな」


「それじゃあお前の予知と矛盾するぞ。とうとうおかしくなったか?」


「失敬な。そんなことはない。そうなれば、我々が動く。だから矛盾は発生しない」


「俺らが動く?公安のためにか?」


とても乗り気じゃない、とても嫌そうな表情で、鉄二は口を曲げた。


「一応、公安には借りがあるしな」


「借り?」


鉄二はそう問い返してから、鉄二は先日のAOAとの小競り合いを思い出す。小競り合いとは言わないかもしれないが。


「あんなのを借りっていうのか?公安は仲裁しただけだろう?」


「公安にとって、我々もAOAも敵でしかない。その敵が勝手に戦おうとしていたら、普通は仲裁なんかせず、消耗したところを一網打尽にするだろう?それをされなかっただけでも、十分借りといえると思うが」


「ただ単に新人君がバカだった、という可能性は?」


「ないな。まぁ公安としては、あまり騒ぎが大きくならないうちに収めたかったんだろうが」


「俺たちはともかく、あの時点でAOAと敵対すれば、公安は自ら延長能力(オーバーアビリティ)に関わりを持っていると世間に公表することになるから、か?」


「そうだ」


夜の喫茶店の中は客が少ない。信樹と鉄二は話の内容が周囲に漏れないよう、小声で会話する。


「まぁ…借り、か。で、具体的にはどうするんだ?」


コーラを飲みほしたところで、鉄二は追及する。


「それは皆がいるところで話す。二回同じことを話すのはあまり好きじゃない」


そう言って、信樹も二杯目のコーヒーを飲みほした。



公安局環境管理課一係のオフィス。

今このオフィスでは、メンバー全員を集めて作戦会議を行っていた。囚われてしまった、迅を除いて。


「作戦は今話した通りだ。私は取り引き場所へと向かう。お前たちは全員、指定した場所で待機だ。三枝(さえぐさ)はモニタリングと状況報告をしっかりと頼む」


椎名の指示に、その場にいる全員が強く頷き、スピーカーから、『了解しましたぁ』と茂袮(もね)が返事をする。


「それにしても、上条あひるの延長能力(オーバーアビリティ)はそんなにすごいんですか?もし知ってたら、どんな能力か教えてください」


輝夜(かぐや)が、興味津々で椎名に回答を求める。他のみんなも、知りたそうに椎名の言葉を待つ。


「まだ未確認の、新種の能力らしい。能力は、強化免疫力」


「強化免疫力…風邪を引かないとか、インフルエンザにならないとか、ですか?」


「まぁ、そんなところだ。外界から体内に侵入したウイルスを停滞させない、絶対無敵の抗体、とでも言えばいいのか」


海斗の問いに、椎名はそう答える。


「彼女が研究に協力してくれれば、今後、人間が異常患者(グローバー)化することはなくなるかもしれない。それこそ、インフルエンザの予防接種のように薬を投与すれば、な」


それが可能ならば、彼女の協力はもはや必須とまで言ってもいいだろう。四年前に突如日本を襲った未知のウイルス【GW-01】。それに人類が打ち勝つための、とても重要なカギとなるのだから。


「だから今回のような作戦を立てた。我々一係の任務は、上条あひるの死守だ」


皆が「了解」と、作戦に異議を唱えずに容認していく中、ただ一人、御園は浮かない顔をしていた。

今回の任務は上条あひるの死守。つまり、迅を救いに行く、というものではない。椎名曰く、AOAとの戦いに勝利すれば、迅を取り返せるそうだ。今回の作戦の究極的な目的は、迅の救出。だがそれは、AOAに勝利した際の副産物に過ぎない。

正直な話、御園は上条あひるなどどうでも良かった。御園が今したいことは、迅を救出に向かうこと。それができないのなら、作戦に参加する理由がない。


「あの、椎名さん」


御園は、直談判することにした。


「私は、種原くんを助けに行きたいです」


その言葉により、椎名を含む皆の視線が、御園に集められる。


「さっきも言っただろう。AOAとの戦いに勝てば…」


「種原くんが今も生きてるなんて保証はどこにもないじゃないですか」


正論を言われ、椎名は言葉を失ってしまう。


「正直に言います。私は上条あひるの死守なんてどうでもいいです。ついこの間まで敵だった人を守るより、大事なパートナーを助ける方が優先です」


今の御園は、本気だった。今、御園がしているのは、上官が決めた作戦への不服申し立て。作戦メンバーから外されてもおかしくない行為だ。


御園もそれは分かっている。だが、だからと言って黙って従うわけにもいかなかったのだ。


「今回の作戦は、私だけ別行動をとらせてください。お願いします」


御園は、深々と頭を下げた。

椎名は小さく息を吐くと、下げられたままの御園の頭に、そっと手を乗せた。


「まったく…お前の相棒はわがままになってしまったぞ、種原」


そう言う椎名の顔には、笑顔があった。


「わかった。篠宮は種原救出に向かえ。だが、一人で向かわせるわけにはいかない。よし、潟上(かたがみ)…」


椎名が海斗を指名しかけた時、オフィスの入り口方向から別の声が聴こえてきた。


「俺に、行かせてください」


一係のオフィスの入り口に立ち、そう請願したのは、河辺恭介(かわべきょうすけ)だった。

まだケガは完治していないはずの彼が今、この場に立っている。その右手には、彼のリジェクターである〈キテン〉が握られている。


「河辺…お前、ケガは…」


「椎名さん。俺を篠宮先輩と同行させてください」


椎名の心配を無視し、恭介は再度請願する。

真剣に許可を求める恭介に気圧されながら、椎名は思う。


篠宮だけじゃなく、河辺まで変えたのか…と。


「…わかった。河辺は篠宮と共に種原救出に向かえ。他のメンバーは作戦通り、上条あひるの死守だ」


『了解!』


この場にいる全員の声が、このオフィスにこだました。


「河辺くん」


恭介をそう呼んだのは、御園だった。

いつも御園に冷たい態度をとられている恭介は、また文句を言われると思い、御園よりも先に口を開いていた。


「す、すみません…勝手なことして。やっぱり、邪魔ですか?」


「どうして、種原くんを助ける、なんて言い出したの?」


恭介の問いかけを無視し、御園は訊ねた。その表情は、いつものように不満に満ちたものではなかった。


「成長した姿を見せろ、とか言ったくせに、見る前に死ぬなんて、許せませんから」


恭介がそう言うと、御園はクスクスと笑って、


「河辺くんのクセに生意気」


御園は、腰に携えたリジェクター〈シムナ〉に手を触れさせる。先ほどまで笑っていた彼女の顔は、戦闘に向かう、真剣なものへと変わっていた。


「足引っ張らないでね。もしそれで種原くん助けられなかったら、君のせいだからね?」


「はい!頑張ります!」


戦いの幕が上がる瞬間まで、残りわずか。



同刻、警視庁AOA。

隊長である犬飼大河のもとに、一通のメールが届いた。

まるで友人からのメールを見るかのように、気だるげにウィンドウを操作する大河。

だが、そんな彼の動きは、数秒後には停止していた。


「こ…これは…..」


そのメールの内容に、大河は驚愕し、更に呟く。


「やられた…」


と。


【例年にも増し、暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

警視庁AOA隊員の皆様、並びにその他警視庁職員の皆様、日々のお勤め、ご苦労様でございます。

この度は、我々公安局が身柄を確保している上条あひる氏と、そちらが身柄を確保している種原迅の身柄交換を検討していただけないかと、文通を送らせていただいた次第でございます。

交換の日時は明日、午前十時に、下記の場所にて行いたいと考えております。

では、良いお返事をお待ちしております。】


大河のもとに届いたのは、公安局からの捕虜交換を要求する内容のメールだった。





To be continued…

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