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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
50/63

『らしくないです』

観花祭の開祭式が終わり、皆がまだまだかと待ちわびていた花火大会が始まって十五分ほど経過した頃、彩夏と亜美は花火がよく見える位置に陣取り、夜空に舞う花を観賞していた。

亜美の右隣には彩華、反対側には、御園の座る位置として、彼女が置いていった焼きそばが置いてある。


「大丈夫かなぁ…..」


亜美が空を見上げながら呟く。


「どうだろうなぁ….御園、ああ見えて怒ったら超怖いからな。男子はほとんど知らないし」


「うん…それに御園可愛いから、そんな子を怒らせたら未来ないよね」


「そこまでか?それはちょっと大袈裟だろ」


確かに亜美が言ってることは大袈裟だが、御園は東京第三高校のマドンナ的存在であるのは事実であり、その御園を怒らせるということは、学校中の女子の評価が下がる、ということを意味するのかもしれない。大袈裟な話ではあるが。


「まぁ相手は種原君だし、心配する必要はないと思うけど」


「そうだろうな」


二人は、「考えすぎだね」と、笑っていたが、直後に二人の視界に入り込んだ光景に、その笑顔は消えた。


「ねぇ…あれって第三高校(ウチ)の男子たちじゃない?」


「ああ…しかも心なしか、顔色悪くないか?」


「うん…どうしたんだろう?種原君にボコられたのかな?口で」


「…あり得るけど…そんなんでああまでなる奴らじゃないだろ」


不審に思った二人は、貴重品の入ったカバンはしっかりと持ち、買った物で場所取りをすると、青ざめた顔で歩いてくる男子生徒たちのもとへと向かう。


「ちょっとお前らどうした?顔真っ青だぞ」


「何かあったの?」


二人の問いに、男子生徒の一人が重く口を開いた。


「種原が…警視庁に捕まった」


その返答に、彩夏と亜美は驚愕の目をむく。

あの種原迅が、警視庁に捕まった?

普通に考えれば、そんなことはあり得ないはずだ。

公安局に配属されるまでは、剣術のエースとして活躍してきた、先読み術の使い手である迅が、そんな簡単に捕まるわけがない。そもそも、戦闘が起きていたのなら、辺りは騒然としていたはず。それがなかったということは、迅は戦わずして捕まった、ということになる。

それが起き得るのは、背後からの確保か、もしくは…….


「まさかお前ら、種原にちょっかい出してないだろうな?」


彩夏が、焦りの表情を浮かべながら問う。

そして、問われた直後の彼らの表情から、彩夏と亜美は確信する。


「やっぱり,,,裏サイトに種原の書き込みをしてたのはお前らだったか」


「でもなんでそこに警視庁が?偶然?」


相変わらず黙りこくる男子生徒たち。その様子から、二人は察してしまう。


「まさか….男子たちが呼んだの….?」


そう言う亜美の表情は、どんな気持ちなのか読み取れない、いろんな気持ちが入り混じったものだった。

簡単に仲間を売った男子たちへの失望感。

彼氏を売られたと知る御園へのダメージの心配。

そして何より、そんなことをしてもまだ、この祭り会場を歩いているという、男子たちへの怒り。


「…で?お前らがAOAを呼んだ。それだけで種原は大人しく連行されたのか?」


それはあり得ない。自分でもわかってはいたが、彩夏はあえて訊ねた。もしそうなら、男子生徒たちはもっと楽しそうに、罪悪感や恐怖に満ちた顔はしていないだろう。


「…い、言えない。他言したら…明日の祭り会場を襲撃するって…..」


男子生徒たちの返答に、彩夏は大きくため息をつく。


「あのさぁ..もうここまで喋っちまってるし、脅されてること自体、他言したらダメだから」


ともかく、事態はとても深刻なようだ。事実を知った彩夏や亜美に、できることは何もない。下手に拡散すれば、本当にAOAが明日の観月祭を襲撃する可能性がある。


「何が『能力者は人間じゃない』だ。人じゃないのは警視庁(おまえら)だろ」


ぶつけようのない怒りで、彩夏の拳は強く握られる。


「ねぇ、このことを、御園ちゃんは知ってるの?」


いずれは知ることになるだろうが、やはり心配である。その一心で、亜美は訊ねる。


「…種原が連れていかれる直前に、走ってきた」


「….で、御園は?」


「….わからない…..『私の前からいなくなって』って言われて、そのまま…」


聞いていた彩夏と亜美に、花火の音は届かなくなっていた。

今、二人の胸に秘めている思いは、御園と迅を按ずる気持ちと、目の前の卑劣でひ弱な男子たちへの怒りと失望感。


「御園…..」


「御園ちゃん…..」


公安局本部の方向を見つめ、二人は彼女の名を小さく呼んだ。



花火が花開く夜空の下、人気のない土手の上に、御園は座り込んでいた。彼女の目の前に落ちているのは、迅のリジェクターである〈デュランダル〉が入ったギターケース。

そのギターケースに手を優しく置き、御園はその上に涙をこぼした。


「ごめんね….種原くん…ごめんね…」


御園は何度も何度も、涙の雫をギターケースに落としながら、謝り続けた。


「気づいてあげられなくて….ごめんね…」


御園は謝り続けた。ただひたすらに、泣き続けた。謝り続けた。でもその声は、花火が散る音でかき消されてしまう。

迅のことを、いつも見ていたつもりだったのに、迅の気持ちに気づいてあげられなかった。

何か変だとは気付いていたが、本人の「大丈夫」で安心してしまっていた。なにもないんだと、思い込んでいた。


自分はまだ、迅のことを全然わかっていない。


こんなに、好きなのに。


御園はそんな自分に、失望していた。そして、危惧してしまう。

自分は迅のパートナーに向いていないのではないか、と。


「御園さん!!」


誰かがそう呼ぶ声を聞き、御園が涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。

目の前には、輝夜(かぐや)蒼夜(そうや)、海斗に朝陽が立っていた。恐らく、御園の名前を呼んだのは輝夜だろう。


「御園先輩、ケガはないですか?」


「…..ケガ?ないよ…戦ってないもん……..」


今にも消えそうな声で、御園は答えた。同時に、皆が思った。御園は重傷である、と。


「御園ちゃん。これから本部で緊急会議だから、戻ろう?」


蒼夜が優しく手を差し伸べる。だが、御園はその手を取らない。


「御園さん….?」


輝夜が心配そうに問いかける。御園は俯いて、小さく口を開いた。


「私….種原くんのパートナーに相応しくないのかな….」


『……….』


輝夜たちは、どんな言葉をかけてあげれば良いのかわからず、黙り込んでしまう。その沈黙を御園は、違う風に解釈してしまい、


「だよね…..向いてないよね….私、種原くんのこと、何も知らないし…」


更に落ち込んでしまった。なんとかしなければと、海斗が口を開く。


「そ、そんなことないだろ?ほら、誰よりもずっと長く種原と一緒にいるわけだし」


「…学校の裏サイトで悪口書き込まれてることも、いたずら電話に遭ってることも、知らなかった。様子がおかしいとは思ってたけど、種原くんが『大丈夫』って言うから、何もないんだと思ってた….」


どんどん自分を自分で追い込んでいく御園。このままでは、事態は悪化していくばかりだ。

そんな中、朝陽が座り込む御園の正面にしゃがみ、


パァン!!


御園の頬をビンタした。


「ちょ…朝陽ちゃん?」


朝陽の突然の行動に驚愕する輝夜。そんな輝夜を無視し、朝陽は言う。


「らしくないですよ」


「…朝陽ちゃん….?」


叩かれた頬を抑えながら、スッと立ち上がった朝陽を見上げる御園。


「ビンタしてすみませんでした。でも、らしくないです」


謝罪を挟んだ朝陽の言葉は、今の御園にとってはとても重いものだった。


「いつもの御園先輩は、こんなんじゃないです。いつも明るくて、優しくて、一途だけど好きな人の前だと恥ずかしがって….」


朝陽は御園から目を離さず、御園に語り続ける。


「最近、恥ずかしがらなくなったと思ったのに、今度はネガティブ発言ですか?まったくもってらしくないです」


朝陽の言葉に輝夜も蒼夜も、海斗も同調し、うんうんと頷く。


「御園先輩が種原先輩のパートナーに向いてないわけないじゃないですか。あんなに仲良しで」


「朝陽ちゃん。今、正直羨ましいとか思ったでしょ?」


「は?思うわけないじゃない!」


真っ赤になりながら、朝陽が輝夜に怒鳴る。


「でも…仲が良いのとパートナーの相性は関係ない…..」


「種原先輩と組むの、嫌になったんですか?好きなのに」


御園の言葉を遮り、朝陽は言った。


「え…えぇ⁉すす好きって…..何言ってるの朝陽ちゃん⁉」


手をブンブン振りながら、顔を真っ赤に染める御園。そんな彼女を見て、朝陽は深くため息をついた。


「気づいてないとでも思ってたんですか?種原先輩が初めて一係のオフィスに来た時から気づいてましたよ?みんな」


「え,,,,みんな?」


御園がそう言うと、皆がうんうんと頷く。

より一層恥ずかしくなった御園が、両手で顔を覆い隠す。


「好きな人のこと、助けたくないんですか?」


「助けたい。でも….」


「パートナーとして相応しいかそうでないかは、種原先輩を助けてから考えてもいいんじゃないですか?」


朝陽が、優しく、御園に笑いかける。


そうだ。その通りだ。

御園は自分を嗤った。なんて馬鹿なんだろう、私は、と。

ずっと、迅に相応しいか否かしか考えてなかった。

そうだ。パートナーに相応しくなくったって、迅には会える。

でも、このままでは、会えなくなる。


なら、今すべきなのは、思い悩むことじゃない。


「助けよう」


御園は立ち上がる。


「私の大好きな、種原くんを助けに行こう!」


それを聞いた四人は笑みを浮かべ、


「そうこなくっちゃな」


「なら、早く本部に戻るぞ」


「元気になって良かったです」


「それでこそ、御園先輩です」


御園は迅のギターケースを背負い、改めて朝陽を見る。


「ありがとう。朝陽ちゃん」


正面からお礼を言われ、少し照れてしまった朝陽は、顔を少し赤くして目を逸らす。


「....どういたしまして、です」





To be continued......


8日ぶりの更新です。

遅くなってすいません。

今、多忙な上に話のストックが尽きてしまっているので、毎日更新は厳しいです。また更新が遅れるかもしれませんが、ご了承ください。

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