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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
49/63

『不安の正体』

迅と別れて数分、御園はクラスメイトとの待ち合わせ場所に到着していた。


「御園~~」


「待たせちゃった~?」


開祭式は今、実行委員長の長々とした挨拶の最中、続々と人が増え、人ひとり探すのも困難になってきた頃だ。そんな中、御園を見つけ出した二人は、ある意味すごい。


「ううん。私も今着いたとこ」


「そっか。ならよかった」


浴衣姿で走ってきた女子二人は、御園と合流するなり、膝に両手をついて息を荒げる。


亜美(あみ)ちゃんも彩夏(さいか)も、浴衣なんだから走らなくてもよかったのに」


目の前で息を切らす二人に御園がそう言うと、茶髪のショートカットヘア、いかにもスポーツ万能そうな彩夏が、


「だって、亜美が待ち合わせ場所間違えて覚えててさ~。合流したの予定より十五分も遅かったんだよ」


と、隣でまだ呼吸を整えている最中の亜美を売る。

亜美は驚愕の目で彩夏を見つめ、自分は悪くないと言いたげに首を横に振る。


「ちょっと彩夏ちゃん!待ち合わせ『RailWay』って、この辺にいっぱいあるからどの『RailWay』かわからないに決まってるじゃん!」


亜美が必死に無罪を主張する。ちなみに『RailWay』とは、ファストフードの大手チェーン店だ。東京に何か所もあるので、どこの店舗か指定しないと、確かに待ち合わせは厳しい。


「まぁまぁ二人とも。私、怒ってないから揉めるのはやめよ?」


御園がそう言ってようやく、二人の口論は静まった。

開祭式が終わったのは口論が終わって数分後、開祭式を近くで観覧していた人々が移動を始める中、開祭式に全く興味のなかった三人は、焼きそば屋さんで焼きそばを買い、土手に座って味わっている最中だった。


「あぁ~焼きそばうめぇ~~」


「行儀悪いよ彩夏ちゃん。せっかく浴衣着て可愛くなってるのに、もったいないよ」


「仕方ないだろ。今日もソフト部の練習午後まであったんだから。てか、私はいつも可愛くないみたいな言い方しただろ?」


「そ、そんなことないと思うよ?ね、ねぇ?亜美ちゃん」


二人のプチ口論を仲裁しながら、「本当に仲が良いんだなぁ」と思う御園。彩夏と亜美は同じ中学で、中学一年生から高校二年生の今まで同じクラスらしいので、仲が良いのも頷ける。


「もうすぐ花火が始まるね」


御園が小さく呟く。


「そうだな…」


途端に、彩夏と亜美の顔が暗くなる。二人の表情を見て、家にいた時の迅の顔を思い出す。


「…どうしたの?」


どうしても気になったので、御園は二人に問いかけた。二人は顔を見合わせ、少し間を置いてから、最初に彩夏が口を開いた。


「なぁ、御園。御園、花火は種原と見るんだよな?」


「う、うん…任務もあるし….」


「その…大丈夫、なのか?」


御園は彩夏の問いの意味が理解できず、首を傾げた。すると、亜美が声を発した。


「種原君…延長能力(オーバーアビリティ)持ってるんでしょ?公安に入ってるとはいえ、危ないんじゃ….」


彩夏と亜美の抱いていた不安は、一般的に考えれば至極当然なものだった。

迅は以前から、先読みの延長能力(オーバーアビリティ)を持っていると評判になっていた。だがそれは、まだ延長能力(オーバーアビリティ)が都市伝説程度にしか浸透していなかった時の話。夏休み初日に、警視庁が延長能力(オーバーアビリティ)の存在を公にしたことで、迅の通う東京第三高校の生徒の間で、迅の特技は延長能力(オーバーアビリティ)であると精通していた。

そして先日、大勢の命を奪った事件を、有能者(アダプター)が起こしたばかり。今や市民のほとんどが、有能者(アダプター)を危険視している。

だがそれは、真犯人が警視庁であることを知らないからだ。だからと言って今、ここで真実を伝えたところで、二人が信じてくれる保証はない。


「だ、大丈夫だよ。種原くんのことは私が視てるし、そんなことしないって信じてるから」


そう言うと、彩夏と亜美は違う違うとばかりに首を振った。


「私たちだって、種原君のことは信じてるよ。何度か話したこともあるし、いい人なのは十分わかってる」


「アタシもだ。種原のことは信じてる。でも、みんながみんな、そうとは限らないだろ?」


そう。彩夏と亜美が按じていたのは、迅と一緒にいることで御園に危険が及ぶのではないか、ということではなく、迅本人のこと。

亜美は、空間をスワイプし、検索エンジンを起動すると、第三高校の裏サイトを開く。そこには、いろんな生徒に対する誹謗中傷が書き連ねられていた。


『種原迅は能力者。即刻排除すべき』


『もうアイツの机ねぇよ?俺らで教室から出しておいたから』


『おお!ナイス!』


『はやく篠宮さんを開放しないと!あんなきれいな子がバケモノに汚される!』


御園の拳が、強く握りしめられる。そして次に見た投稿で、御園の堪忍袋の緒が切れた。


『このブサ男見かけたら110番!!こいつ捕まえたら、篠宮ちゃんとお近づきになれるよ!』


迅の顔写真を載せて、迅を指名手配犯のように侮辱したこの投稿は、御園の逆鱗に触れた。

御園は思い出す。鳴りやまなかった迅のブレイナーを。あれはきっと、嫌がらせの着信だったのだ。御園に心配をかけまいと、迅は誤魔化していたのだ。


「…ごめん、二人とも」


食べかけの焼きそばを土手に置いて、御園は立ち上がる。「どうしたの?」と問いかけようとして、彩夏と亜美はそれをやめた。御園が発する怒りに、威圧されてしまったからだ。


「種原くんのところに行ってくる」


御園はそう言うと、二人の返事を待たずに駆けだした。



開祭式が終わり、花火大会の開始を、会場を監視しながら待っていた迅は、飲み物を買うためにコンビニへ行こうと立ち上がった。屋台を利用すれば、学校の生徒に鉢合わせする可能性があるからだ。

最寄りのコンビニは少し遠いが、会場の巡回も兼ねることができるので、一石二鳥だ。

土手の上を歩き始めてわずか数十秒後、迅の周りにたくさんの男子高校生であろう男たちが集まってきた。ほとんどが、学校で見かけたことがある生徒。つまりは第三高校の生徒。


「何しに来たの?種原君。虐殺?」


迅を囲う生徒たちの一人が、挑発混じりに問う。


「コンビニに行こうとしただけだけど」


「ハッ、お前みたいなバケモノが行ってもいいコンビニなんてねェよ」


「トイレの水でも飲めばァ?」


ゲラゲラと、生徒たちは迅をあざ笑う。

迅の想定していた通りだった。これだけ大勢の人が集まる観月祭、第三高校の生徒が誰ひとり来ないはずはなかった。


「こいつらみんなお前のこと大好きだからさぁ、めっちゃ電話したらしいぜ?いいなぁ種原君、人気者で」


嫌味ったらしく、一人の生徒が言う。


「で、どうスか?篠宮ちゃんとはうまくいってるんスか?」


「いいッスよね~バケモノなのにあんな可愛いコと付き合えて」


「まぁ、どうせ金でも渡してんだろ。得意の頭脳で金なんかいくらでも手に入るだろうしなぁ」


迅を直接侮辱し続ける彼ら。

正直言って、バカだろう。バケモノだと思っている相手を怒らせようとしているのだから。

迅がため息をつきかけたその時、また別の生徒が口を開いた。


「こんなヤツ、俺らでボコってもいいけど、今日も物騒なモン持ってるみたいだし、やめとくか。そのかわり」


迅を囲んでいた連中がはけていき、目の前に現れたのは武装した集団。

腕の紋章には、AOAの文字。


「君たち、よくやってくれた。あとは我々に任せなさい。あとでお礼もするから、ちょっと待っててくれ」


AOA隊長・犬飼大河(いぬかいたいが)が、男子生徒たちを称える。


「こんばんは公安局の青年。お祭りを楽しんでいるところ済まないね。ウチの者がそちらの世話になっていると聞いてね」


「アンタらの差し金か….目的は俺の身柄拘束か。そして上条あひるとの交換」


「察しが良くて助かるよ。そこまでわかっているなら、大人しく我々と来い」


迅がチッ、と舌打ちをし、大河が得意げに笑む。


「もし…断ったら?」


「君のお友達が、危ない目に遭うだけだ」


大河の背後に陣取るAOAの連中が、先ほどまで迅を囲っていた生徒たちに銃口を向ける。


「お、おおおおい‼聞いてねぇぞそんな話‼」


身の危険を察した生徒たちが、騒ぎ始める。彼らは、利用されただけだったようだ。おそらく、報酬に目がくらんだのだろう。


「チッ….卑怯な…..!」


迅が再び舌打ちをする。大河が再び得意げに笑む。


「なんとでも言うがいい。我々は君たち能力者を排除するためなら手段を問わない。さぁ、どうする?」


未だ、男子生徒たちには銃口が向けられている。迅の回答次第で、彼らはハチの巣になる。


「種原くん‼」


背後から、御園の声が聴こえてくる。それと同時に、銃口が生徒たちに更に近づけられる。


「来るな!御園」


近づいてくる御園に、迅がストップをかける。御園も、状況は把握している。立ち止まる他はなかった。


「わかった。大人しくアンタらに従う。だからこいつらを解放しろ」


「そんな!種原君‼」


迅は背負ったギターケースを地面に落とし、両手を挙げる。御園の声も聴こえていたが、振り返りはしなかった。


「AOA….‼こんなことして、許されると思ってるんですか⁉」


「許されるも何も、我々は彼らからの通報を受けて、出動した次第だが?」


大河は悪びれた様子も見せず、淡々と言ってのける。


「このことをネットにでも口外すれば、アンタらはおしまいだ!恩を仇で返しやがって!」


「こんなところで堂々と、見られてもおかしくないぞ」


生徒の中の二人が叫ぶ。


「心配無用。この周辺はホログラムで偽装してあるし、バリケードでこの近くには来れないようにしてある。それに、もしこのことを貴様らが口外した場合、明日の観月祭は血祭りになるだろう」


用意周到なAOAの作戦に、御園も男子生徒たちも歯軋りをする。今の発言は、言ってしまえば祭り会場にいている人々を人質に取っていると認めたようなものだ。


「俺が大人しく従えば、誰にも危害は加えないな」


「あぁ。約束しよう」


まるで犯罪組織のように、大河は言う。もはや犯罪組織なのだが。


「御園。今は(・・)手を出すな。そいつらを頼む」


迅は御園たちに背を向ける。


「種原君…..」


御園が名を呼ぶ中、迅はAOAに連行され、遠ざかっていく。

やがてその場に残ったのは、迅が落とした、〈デュランダル〉が入ったギターケースと、呆然と立ち尽くす男子生徒たち。

そして、多重の怒りに震える御園だった….。





To be continued……

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