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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
43/63

『茜屋朝陽vs上条あひる』

未だ止まない茜屋朝陽(あかねやあさひ)の猛攻。完全にフィールドマップを把握した、スキも与えない光弾の追撃。

何とかこの場を切り抜けたい上条(かみじょう)あひるは、逃げながら打開策を練っていた。

自分の狙撃銃を使って廃墟の街を破壊し、地形を崩す。この策は障害物を減らしてしまうため、朝陽はマップ情報がなくてもあひるの姿を捉えることができてしまう。よってボツ。

ある程度、弾との距離を置くことができたら、迫る弾に近距離狙撃を行う。これは命中率に不安がありすぎるため、適策とは言えない。

あひるは考える。見えない敵にどう対応するか。

おそらく朝陽の狙いは誘導。数発の弾丸であひるの逃げ道を制限し、仕留めやすいポイントへと誘導するのが狙い。そうはさせまいと逃げ回れば、あひるの体力が尽きてそれはそれで良し。

ただ逃げ回っているだけでは、あひるに勝ち目はない。勝ち目があるなら、朝陽に誘導され、たどり着いた先だ。

ここは、誘導されるべきだと判断したあひるは、弾丸に導かれるままに進む。

しばらく逃げ回ると、目の前にはあひるの敵・公安局の朝陽の姿があった。朝陽は銃を構え、狙撃の機会を窺っている。

あひるを追っていた弾丸はあひるを追い抜き、一斉にあひるに降り注いだ。あちこちに当てるのではなく、一点に狙いを絞った弾丸を、あひるは砲撃で一蹴する。空中で弾丸と弾丸が衝突し、爆発が起こる。狙撃モーション中を狙った追撃にも対応し、爆煙が晴れるのと同時に、あひると朝陽は再び相対する。


「そう簡単にはやられませんよ?」


狙撃銃を変形させ、突撃銃(アサルトライフル)となった銃を連射し、朝陽を追い込む。寸前のところで回避し続ける朝陽は、苦悶の表情を浮かべている。

あひるの突撃銃(アサルトライフル)は、本来は遠距離狙撃用の銃のため、連射できる弾数が少なめだ。十五発連射したら、リロードの隙ができる。

リロードの隙を使い、うまくあひるの攻撃を避け続ける朝陽だが、徐々に体力が尽きてきている。決着がつくのも時間の問題だ。

あひるの勝利が濃厚となってきたこの時、朝陽はあひるの足元に一発、砲撃を行った。

爆煙による視界不良が目的だろう。あひるはいち早く横へ飛び退き、爆煙から抜け出すと、逃げる朝陽めがけて発砲する。そして、


その弾丸は、朝陽の心臓を貫いた。


すぐさま地面に倒れ、動かなくなる。

動かないことを確認したあひるはホッと息を吐き、銃口を地面に下ろした。

勝った。勝ったのだ。自分は勝ったのだ。

相手は公安局。それに、数秒でマップ情報を暗記していたのだ。きっと、能力者だ。殺してしまっても文句は言われない。


「ハァ…ハァ….本部に連絡を…….」


朝陽の亡骸に歩み寄り、耳にはめたインカムに声を吹きかけようとした、その時、


ドォン!!!!!


激しい銃声とともに、あひるの腹部に激痛が走った。

顔を顰めて腹部を見下ろすあひるは、そこで理解する。


自分は、撃たれたのだ、と。


夥しい量の血が出ている。意識が霞んでくる。

それと同時に、あひるは気付く。

足元に転がっているはずの、朝陽の遺体がなくなっていることに。

震える身体を動かし、あひるは背後に目を向ける。

その視線の先には、銃口をあひるに向けた、死んだはずの朝陽の姿があった。


「…そ、そん…な….ど…うして……」


朦朧とする意識の中で、あひるは目の前にいる朝陽に問う。

あひるの手から、狙撃銃が落ちる。

もう、あひるは戦闘続行は不可能と見た朝陽も、銃を下ろす。

地面に倒れるあひるの横に立ち、彼女の狙撃銃を自分の背後に回しながら、朝陽はあひるの問いに答える。

 

「さっきあなたが戦ってた私はニセモノ。ホログラムよ」


あひるは精一杯驚いているが、表情にはあまり出ていない。ダメージが大きいせいだろう。


「不思議に思わなかった?あの時撃たれた私から、血が出てなかったのに」


そう言われてから思い返し、あひるは納得する。


「ホログラムの私が撃った弾も、私がホログラムの動きに合わせて操作していた弾。あなたの突撃銃(アサルトライフル)は十五発しか連射できないのはすぐにわかったから、ホロの操作も簡単だったわ」


朝陽は解説しながらあひるの応急処置を始める。朝陽の使ったトリックへの驚きと、なぜ敵を治療しているのか解せないあひるの表情は、無表情に近かった。


「あなたのことは殺さないわ。AOAが、警視庁が何を企んでいるのか…..情報が欲しいから」


応急処置を終えた朝陽はインカムに指を置き、


「椎名さん、こちら茜屋。AOAの狙撃手を確保。重傷を負わせてしまいましたので、救護班の旧お台場への出動を要求します」


『そうか。了解した。救護班をそちらに向かわせる。茜屋にケガはないか?』


「はい、問題ありません」


『そうか、無事で何よりだ。ご苦労だった。帰投してくれ』


椎名との通信を終えた朝陽は、倒れているあひるの横に腰を下ろし、廃れた街で救護班の到着を待った。



夕暮れの近い東京。

輝夜(かぐや)たちの計らいで非番になった迅と御園は、二人きりのデートを終え、帰宅するためにモノレールに乗車していた。

迅は細長いバッグを足元に置き、御園は少し大きめのバッグを膝の上に置いた。

二人のバッグの中には、リジェクターが入っている。公安局環境管理課の者は、常時持ち歩かねばならない物だ。ちなみに迅のバッグには刀型リジェクター〈デュランダル〉の他に、御園の脚力増強シューズ〈ラビット〉が入っているのだが、それは御園のバッグに入らなかったからである。

そんな、物騒なものが入っている二人のバッグだが、可愛い柴犬のキーホルダーが両方につけられている。御園はその柴犬を愛でながら、隣に座る迅に微笑み掛けた。


「ありがとね、種原君」


「いや、いいって。せっかく遊園地行ったんだから、記念に何か買わないと損だろ?」


そう答えながら、迅は嬉しそうにしている御園を見て頬を緩ませた。

迅が環境管理課に配属されてから一か月程度が経過した。

迅のクラスメイトである殿町優斗(とのまちゆうと)の死。

一般人を異常患者(グローバー)化させる一瀬信樹(いちのせのぶき)らの狙いは御園。

標的となった御園を護衛すべく、御園が迅の家に住むことになる。

学校では、付き合っているという設定になる。

思い返せばいろいろあった一か月だが、今日のように羽目を外せる日はなかった。

迅の本日の目標は、御園を心底楽しませることだったので、このノルマは達成できただろうと、迅は自己分析(のような事)をした。


「楽しかったね?」


気が付くと、御園は迅にピッタリとくっついて、頬を赤らめながら迅に問いかけていた。

迅は高鳴る心音を抑えながら、平静を装って答える。


「….そうだな。プールなんて、モノレールに乗らないと行けないしな。俺はもうちょっと絶叫系に乗りたかったなと思うけど」


「うぅ…..ごめん」


「冗談だよ。俺も無理に乗せた感あったし。今度は二人とも楽しいやつをメインに回ろうか」


「….うん!!!」


御園が少ししんみりとしてしまったが、直後には笑顔を取り戻していた。

ずっとビルに囲まれたレールの上を走っていたモノレールが、ビル群を抜け出した。

水平線の彼方に沈みかけた夕陽の光が、駆けるモノレールの中の二人を照らす。


「また来年の夏休みも、一緒に行こうね」


夕焼けに照らされた御園の笑顔が、迅の脳に焼き付けられる。


「いや」


御園の期待に反する迅の返答に、御園は内心ガックリと肩を落とした。


「まだ夏休み、始まったばっかりだぞ。今日のこと以外にも、たっくさん思い出作らなきゃダメだろ?」


一度落ちた御園のテンションは息を吹き返し、最高潮に。

ここでモノレールは停車し、数人の乗客を降ろして、再び走り出す。迅たちが降りるのは次の停車駅。そこが終点というわけではないのだが、迅と御園が座る車両には、迅と御園の二人しかいなかった。


夕陽の差すモノレールの中で、二人きり。


あれ….?ちょっとイイ雰囲気かも……..


そう意識し始めた御園の顔が、どんどん熱くなる。

そうだ。絶好の告白チャンスだ。

家には(かがみ)がいるのでほぼ確実に不可能だが、今なら………

指をモジモジしながら、御園は自らの行動を制限する羞恥心と戦いを繰り広げる。


『次の停車駅は…………』


間もなく駅に着くというアナウンスを聞き、覚悟を決めた御園は勢いよく顔を上げた。

そんな御園の目に飛び込んできたのは、レール上で停車する、別のモノレール。車両の窓ガラスは、割れていた。

そして、座席で気を失っている乗客と、手にナイフを握った謎の人間が立っているのを、御園の目は確認していた。


「種原君!!!!」


「ああ。俺も見た。おそらく、有能者(アダプター)


緊急出動の必要性を見出した二人は、それぞれのバッグからリジェクターを取り出し、起動させる。

御園は靴を〈ラビット〉に履き替え、戦闘できる状態を整える。

迅はポケットからインカムを取り出して耳に装着すると、すぐさま本部にいる椎名通話を持ち掛ける。


「椎名さん、こちら種原。御園も一緒です。モノレールに乗車中、何者かにジャックされたと思われるモノレール車両とすれ違いました。次の駅に到着し次第、現場に急行します」


『その件については既に通報が入っている。現在、蒼夜(そうや)が向かっているが、到着にはまだ時間が掛かるだろう。犯人グループは全員、音による衝撃波を起こす有能者(アダプター)だ。種原、篠宮。非番の日に悪いが、現場に向かってくれ』


「「了解」」


椎名との通信が終わると同時にモノレールが減速を開始し、駅のホームで停車する。

モノレールを降りた二人はレールに飛び降り、来た道を逆走する。


「急ごう。早くしないと…ヤツらの思惑通りになっちまう….!!!」


「….ヤツらって?」


遠くに見えるモノレールを目指しながら、御園は前を走る迅に疑問を投げかける。

迅は後ろを振り返ることなく、確信を持った口調で、はっきりと言い切った。


「警視庁…..AOAだ」





To be continued……

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