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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
42/63

『無限記帳-エターナルノーツ-』



有能者(アダプター)が立て籠もってる建物って……」


空を見上げ、ただただ感嘆する輝夜(かぐや)

否、見ているのは空ではなく……


「東京マークツリー…だな」


輝夜の兄・蒼夜(そうや)の目の前に聳え立つ、鉄格子の塔。

東京のシンボルマークと言われている、立派な電波塔だ。

高さは621メートル、地上500メートルの高さには展望台があり、東京を一望することができる。

その展望台が今、有能者(アダプター)、つまり能力者によって占拠されている。犯人は案の定、声による衝撃波を得意とするグループ。

観光客数十人が、人質に取られている。


朝陽(あさひ)ちゃん、展望台の様子はどんな感じ?」


本人は真剣なのだろうが、どこか気の抜けているような声で、海斗(かいと)はインカム越しに朝陽に問いかけた。


『客は全員一カ所に纏められてるみたいですね。今のところ死者も怪我人もいないみたいだけど、能力を使った痕跡があります。客の何人かも気絶してますし。今私たちが下手に動くと、人質が()られちゃうかも』


マークツリーから一キロほど離れたところに建っている超高層ビルの屋上に寝そべり、スコープを覗いて展望台の中の様子を垣間見ている朝陽は、状況を正確に伝える。

蒼夜たち公安局からすれば、今の状況は非常に分が悪い。突入するにしても、衝撃波の能力を使われてしまう可能性がある。負傷者を極力減らすためには、能力を使わせずに犯人グループを仕留めなければならない。

何か、良い作戦はあるだろうか。

このままでは、延長能力(オーバーアビリティ)を持つ者・有能者(アダプター)に対する人々の視線の色が変わってしまう。だが、事件を起こした時点で、手遅れかもしれない。


「おい、警視庁が来たぞ」


警視庁の対延長能力(オーバーアビリティ)保持者部隊【AOA】と特攻隊が、東京マークツリーの入口へとやってきた。

蒼夜たちは警視庁の動向を監視することにし、朝陽の報告を待つ。

建物の陰に身を隠し、蒼夜、輝夜、海斗は警視庁の動きを見つめる。

警視庁とAOAは、マークツリー入口前に停止し、突入の号を待つ。

そして数秒後、


「突入!!」


一人の号令と共に、警視庁とAOAの人間がマークツリーのエントランスホールへと雪崩れ込む。


「あいつら、無策に特攻するつもりか?」


「あのまま行かせたら、人質が危ないんじゃ……」


『最悪、私がエレベーターの扉を撃ってエレベーターを止めます』


「まだ階段があるよ。意味ない」


この状況の打開策が浮かばず、人質の解放が絶望的だと、誰もが思い始めたその時、


「絶望的」が、「絶望」へと転換した。


一発の砲弾が、展望台目掛けて一直線に飛んでいく。

朝陽がそれに気づき、狙撃銃型リジェクター〈テルシオ〉を構えた時、既に砲弾は展望台内部の天井に、着弾していた。

秒を待つことなく、展望台が爆炎に包まれる。

爆発で吹き飛ばされた瓦礫が、高度五百メートルから地上に降り注ぐ。

朝陽は慌ててスコープを覗くが、煙で展望台の中の様子は見ることができない。


『茜屋!まさか撃ってないだろうな!?』


蒼夜の動揺した声が、インカムの向こうから朝陽の鼓膜を震わせる。

ちなみに蒼夜は修羅場になると、誰でも呼び捨てにしてしまう。


「そんなワケないでしょ!?何言ってるんですか!!」


『だが今のは明らかに狙撃だ!』


「わかってますよ!今、狙撃手を探して………」


朝陽は途中で言葉を切った。彼女の視線の先には、展望台に銃口を向ける、黒ずくめの少女の姿が。

少女が身にまとう黒ずくめの服は、先ほど見たAOAが着ていた物と同様だ。

これがもし、偶然ではないとしたら………


「撃ったのは……警視庁?」


朝陽の思考に、当然の疑問が芽生えた。

警視庁のAOAはつい昨日、公安局本部を襲撃しようとしていたと、迅が話していた。目的は恐らく、有能者(アダプター)の抹消。

今回も、目的が同じだとしたら…


有能者(アダプター)を殺すために…あの場の全員を……」


朝陽に蓄積する怒りが、急激に増加する。〈テルシオ〉を握る手に力が入る。


『朝陽ちゃん?どうしたの?』


聴こえてきた輝夜の声に、朝陽は小さく、だが怒気の篭った声で返答する。


「狙撃を行ったと思われる女を発見。恐らくAOA。確保に向かいます」


抹消ではなく、確保を選んだのは、警視庁の陰謀について尋問するためだ。


『了解した。無理はするなよ、茜屋』


公安局本部で指示を出す椎名の声が朝陽の耳に届くのよりも先に、朝陽は屋上を飛び出し、階段を駆け下りていた。


「椎名さん、俺たちはどうしますか」


切羽詰まった様子で、蒼夜は椎名に問う。

椎名は慌てる蒼夜たちを宥めるように落ち着いた、だがテキパキとした口調で支持を出す。


『六本木に向かっているモノレールが、同じく声による衝撃波の能力者に占拠されているという情報が入った。公安局員が一名交戦中だが、押されているそうだ。蒼夜、すぐにそのモノレールに向かってくれ。輝夜と海斗はその場の状況をこちらに知らせろ』


『了解』


三人が同時に返答し、蒼夜はすぐさま移動を開始し、輝夜と海斗は現状維持を続ける。

三人の様子について朧げに把握しながら、朝陽は砲撃犯である狙撃手の女を追う。

高層ビルの階段を勢いよく下り、敵の高度よりも少し高い階まで下りた朝陽は、勤務中の社員たちを退けながら、窓ガラスに向かって一直線。


「窓、壊します!ごめんなさい‼」


一応、謝辞を述べ、


「〈ラビット〉!三重(トリプル)‼」


ガラスの破壊音と共に、朝陽の身体は宙を舞う。

強化された朝陽の脚力は、彼女を向かいのビルの屋上に運ぶ。


「こ、こちら上条(かみじょう)!公安に気づかれました!私は逃げるので、後は頼みます‼」


朝陽に気づいた狙撃手の女・上条あひるは、仲間に意志を伝えると逃走を開始。

朝陽も逃がすまいと、あひるの後を追う。

朝陽の目的は、あひるを殺さずに捕らえること。

あひるの目的は、朝陽から逃げ切ること。

あひるは人混みに紛れて逃げることもできるが、狙撃銃を持っているため、一般人の中では目立ってしまう。

朝陽は銃撃するにしても、一般人に流れ弾が当たる可能性がある。

あひるは人のいない方向へ逃げ、朝陽は人のいない方向へ誘導する。密かに、二人の意図しないまま、目的地は一致していた。

二人が向かうのは、もう使われておらず、人のいない廃墟の街・旧お台場。

あひるの目の前が旧お台場となり、二人の第一目的が達成されると同時に、朝陽はあひるを追う足を止めた。あひるはそれに構わず、旧お台場の街を逃走する。


茂袮(もね)、敵の正確な位置と、旧お台場を上空から見た画像を十秒だけ私に見せて。建物の内部構造も一緒に」


『はいはい~ただいま~』


命令された公安局一のハッカー、三枝さえぐさ茂袮は、朝陽に言われた通りに画像データを、十秒だけ朝陽に見せた。


『十秒で足りるの?視界に常時貼っとくこともできるけど・・・・・』


「いちいち見てる暇がない。それに・・・覚えれる」


『まあ、そう言うと思ったけど~。じゃ、がんばって~』


茂袮のあまり心がこもっているとはいえない激励を受けた朝陽は、深く深呼吸をして〈テルシオ〉を構え、命じた。


「〈テルシオ〉‐’’インダクション’’」


直後に、無差別に放たれた数発の光弾は、廃墟の街の交差点で方向を変え、障害物に当たらないよう進む。

朝陽のリジェクター〈テルシオ〉の’’インダクション’’は、使用者が操作する追跡弾だ。弾の操縦に神経を使うため、精神が乱れている状況では扱いきれないが、完璧に扱えば的中率は百パーセントとなる。

ついさっき朝陽が放った弾丸は今、確実にターゲットであるあひるに近づいているのだ。



一方、朝陽の追跡から逃げている最中の上条あひるは、朝陽が見えなくなっていることに気づき、足の速度を緩めた。

念のため、近くのオフィスビルに入り、入り口付近を警戒する。


「ハァ・・・諦めたのかな」


外にヒョコッと顔を出し、人の姿を視界に捉えなかったあさひは、ホッと安堵の息をついた。

 

大河たいがさんに状況を報告しないと・・・・・」


ボロボロのソファに腰を下ろし、耳のインカムに手を置いた、その時、


「弾丸‼?」


驚愕しながら立ち上がり、受け身をとりながら光の弾丸を回避するあひる。

見つかった?いつ?どこに敵はいるの?

いくつもの疑問が、あひるの思考回路を埋め尽くす。

ひとまず、ビルの一階部を細かく曲がりながら逃走を図るあひるは、狙撃銃を持って走り出した。

敵・公安局は、あひるの位置を正確には把握していないはず。

一度は把握したとしても、あひるは移動しているため、それは意味を成さない。できるのは、今のあひるの位置を推測するくらいだ。このような廃墟、マップがない場所では、レーダーは敵味方の方向と距離しか教えてくれないからだ。

このままいけば逃げ切れる。

あひるは二階へ上がり、窓ガラスを割って外へ飛び出した。ビルの外には中二階の高さのベランダがあるので、そこから地面へと降りようという算段だ。

だが、あひるの思い通りにはいかなかった。

中二階のベランダから飛び降りたあひるの右方向から、光の弾丸があひるを襲う。


「くっ・・・・!」


なんとか避けたものの、空中で大きく体制を崩して、地面に激しく身体を打つ。


「AOAの女の子・・・・気の毒だね~」


公安局本部のとある一室で、コンピューターの画面を見つめながら茂袮は呟く。


「ほんの数分前までなかったマップデータが、たった十秒で朝陽ちゃんの頭の中に完璧に、記憶されちゃうんだから」


そう。朝陽はたった十秒で、旧お台場のマップデータと、建物の内部構造を全て脳内に記憶したのだ。

マップデータがあれば、レーダーが敵の方向と距離しか教えてくれなくても、’’インダクション’’を扱うことは可能なのだ。


「膨大記憶領域【無限記帳エターナルノーツ】と’’インダクション’’・・・相性が良すぎだよねぇ~」


棒読みで、あまり本心に感じられない茂袮の独り言だが、それは正真正銘、茂袮の本心だった。





To be continued…..


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