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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
4/63

『Durandal-デュランダル-』

ネットワークサーバーから伸びるケーブルに、拾った剣を接続する。パソコンで行った接続作業の際、壊れて動かないこの剣を、ネットワークサーバーは感知し、自動接続を行ったのだ。

もともとコンピュータプログラム関連の知識に富んでいた迅は、拾いものの刃のない剣を、公安局に返す前に修理に取り掛かった。善人ぶった行動の目的は、ただの謝礼金なのだが。

ネットワークサーバーに臨時接続された剣は、刃部分の縁を青く点灯させ、試行音声をスピーカーから発した。


【臨時起動完了。プログラムの破損を検知したため、セッティングモードを用いての起動中です。そのため、ネットワークへの接続はできません。当機のプログラムを設定する場合は、コンピュータを介して行ってください】


どうやら、ネットワークサーバーに接続はできたが、ネットワーク回線への接続はできないようだ。サーバーを通じて充電が開始されたことで、臨時起動が可能になったらしい。

迅はパソコンを操作し、刃のない剣のプログラムファイルを見つける。


Durandal(デュランダル)…神話に出てくる剣の事か……?」


迅はそのファイルをクリックし、様々な文字が羅列した画面を凝視する。そして、故障の原因となっている部分を、自分の持つ知識を使って直す。

迅の特技である、先読みに近い思考能力は、ただ脳の回転速度が他の人間よりも速いだけで、どんなに頭の回転が良くても、答えに繋がる情報がなければ答えは導き出されない。

もともとコンピュータに関してのある程度の知識は持ち合わせていた迅は、脅威的スピードでプログラムの修繕を行っている。

プログラミングの素人が見れば、ちんぷんかんぷんな文字の羅列が、画面に猛スピードで繰り広げられていく。

迅がキーボードを叩き続ける事、約20分。プログラムの修繕が完了し、刃のない剣の修理は終了した。

あとは、しっかりと動くかをチェックするだけなのだが……

迅は、再び刃のない剣のオンライン接続を試みる。


【接続先を検索中…オンライン接続に成功しました】



どうやらうまくいったようだ。迅はホッと息をつく。このまま完璧に起動してくれれば……


【ユーザー音声認証…ユーザーデータがありません。新規登録を行います】


「……は?」


頭上にハテナマークをいくつも浮かべながら、迅は音声の続きを待つ。


【当機の起動時音声を登録します。これにより、音声のみでの起動が可能となります。電子音の後に、起動時音声を宣言してください】


起動時音声?ナニソレキイテナイ。

とにかく何か言えば良いのか?

単純に「起動!!」だけで良いのだろうか。

いや、せめてこの剣の名前くらい言った方が良い気がする。

だが、剣の名前を知らない。

やはり、「起動!!」しかない……

諦めて、起動時音声を録音しようとした時、迅はある事を思い出す。


「そういえばあのファイル名…」



日曜日。

この日、迅は生まれて一度も行ったことがないという場所に行くのだ。

いつも竹刀を入れているバッグには、今日は竹刀ではないものが入っている。

別によからぬものではないのだが、見つかればよからぬものと判断されるかもしれないので、事は早急に済ませてしまいたいというのが、今の迅の心境だ。


「いってきまーす」


「あら迅、どこ行くの?」


玄関に出てきた姉の(かがみ)が、少しニヤニヤして迅に訊ねる。


「…なに、その顔」


「ん〜?ガールフレンドと遊びに行くのかな〜と思って。もー、迅ちゃんったら!」


両方の頬に手を当てて、顔を赤らめながら鏡は嬉しそうに言った。


迅は軽くため息をつき、


「違ぇよ。もの届けに行くだけだって」


「ん?都庁に婚姻届でも出しに行くの?」


「なんでそうなる!?」


「だって、バッグ背負ってるから」


「こんなデカいバッグに入ってるのが婚姻届だと思う姉ちゃんの思考回路を覗いてみたいわ」


「覗いてみたい、だなんて…」


「ホント一部分だけピックアップするな!俺が覗き魔みてぇじゃねぇか!」


ガックリと肩を落とす迅。

これが、種原鏡(たねはらかがみ)の本性である。どうも、成績優秀な生徒だった人には見えない。


「落し物を届けてくんの。OK?」


「落し物?」


「そ、公安の異常患者(グローバー)相手に使う武器が道端に落ちててさ、今から届けてくんの」


「ぶ、武器?」


「ああ。物騒だし、面倒に巻き込まれる前に返しちまった方がいいだろ?」


ここまで聞いて、ようやく鏡も納得したようで、うんうんと頷いた。


「そうね…気をつけて行ってらっしゃい」


「じゃ、行ってきます」


そう言って、俺は敷居を跨いで家から出た。

目的地である公安局本部は、家から出たところからでも見えるほどの高層ビルで、建物内には宿泊設備まであると聞く。

刑事課やら鑑識課やら、様々な課がある中、今日迅が訪問する環境課は、正式名称:環境管理課だ。

地球温暖化やらなんやらの環境問題に真剣に向き合うような課ではなく、異常発達ウイルス【GW-01】に感染した人間や動物の鎮圧・抹消するのが責務。

その環境管理課の戦闘員たちが使うのが、対異常患者(グローバー)用最先端武装"リジェクター"だ。

迅は、そのリジェクターを拾ってしまったのだ。


「案外遠いな…公安」


家の最寄り駅から公安局の最寄り駅まで電車で移動した迅は、駅からの道のりの最中にボソッと呟く。

季節は夏、炎天下の中の徒歩移動は運動部でもきついものがある。


「…暑い……」


公安局本部が目と鼻の先という所まで来て、迅は信号待ちをしていた。

早く青に変われ、と心底願いながら垂れる汗を拭っていると、迅は近くで迅と同じように信号待ちをしている男が、不審な動きをしている事に気付いた。

男は、ジーパンのポケットを漁っているのだ。その行動自体にはあまり不審点はないのだが、男性が取り出したのは、注射器だ。細かく言うと、針がないタイプの。

交差点で注射器なんて、絶対におかしい。迅は、男の動きを横目で確認する。

注射器の中身は危険ドラッグか何かだと推測できる。よって、男のこれからの行動として考えられるのは、この場で堂々と自分にドラッグを打つか、誰かと取引をするかのどちらかだろう。

だが、男がとった行動は、迅の推測とは違うものだった。


「ぐ…あぁ…っ……!!?」


男は危険ドラッグを、近くにいた営業マンらしき男性の首に打ったのだ。男性はすぐに呻き声を上げて苦しみ始めた。

しばらくして、呻き声は止んだ。

男性のまわりには、当然ながら人集りができている。突然呻き出したのだ、人が集まってきても仕方がない。

男性はゆっくりと顔を上げる。そして次の瞬間、


無差別に人を襲い始めた。


殴られた人が、文字通り吹っ飛ばされていく。軽く10メートルは飛ばされているだろう。

常人にそんなパワーが出せるはずがない、そう思いながら男性の目を見た瞬間、迅の背筋に悪寒が走った。

男性の目は、白目と黒目の色が逆転し、充血していた。普通の人間の白目部分が黒になり、黒目部分が白になっているのだ。

これは異常患者(グローバー)の特徴であり、健常か否かを見分ける一番簡単な方法でもある。

【GW-01】の体内浸食率が高くなってしまった者の目は、白目と黒目の色が逆転している。はっきりと逆転していればいるほど、異常患者(グローバー)の危険度も高い。そして、男性のようにここまで逆転してしまった人間には特効薬も効かず、殺害する以外に対処法がない。

つまりこの男性は、もう助からない。男性にウイルスを打った男も、騒ぎに紛れて消えている。

被害者である男性は、自我を失い今も人々を襲っている。

迅は、逃げようとした。殺される、生への欲求が勝り、この場を去りたいと思った。


その時、背負ったバッグが重く感じた。


迅は考える。


なんのために剣道を辞めたのか。


なんのために剣術を習っているのか。


そう、姉ちゃんを守るためだ。


今ここで人を守れないのに、姉ちゃんを守れるはずがない…!!


迅はバッグを下ろし、中から刃のない剣のリジェクターを取り出した。戦闘の構えを取り、大きく息を吸い込んで、大きな声を発した。


「〈デュランダル〉起動!!!!」


迅が起動音声を宣言した瞬間、刃のない剣に青く光るラインが入り、機械音声が鼓膜を震わす。


【ユーザー音声認証。種原迅(たねはらじん)の音声データと一致。種原迅を確認しました。〈デュランダル〉起動完了】


その機械音声と共に、姿を隠していた鋭い刃が、姿を現した。


【〈デュランダル〉-『アタッカーモード』スタンバイ】


今もなお人々を襲う悲劇の男性に、迅は〈デュランダル〉の刃を向けた。




To be continued……

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