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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
39/63

『ドキドキするね』

目的地である遊園地『東京シャイニングリゾート』の最寄り駅、ネーミングそのままの『東京シャイニングリゾート駅』に着いた電車から降りた迅と御園は、バス停でバスに乗り、遊園地へと向かう。『東京シャイニングリゾート駅』と名乗っておきながら、駅から遊園地まではバスで十五分ほどかかるくらい離れているのだ。駅の改名を要求したい。

極力、仕事の話はしたくないと思っていた御園だが、気になって仕方なかったことを、彼女は迅に訊ねた。


「みんなって…延長能力(オーバーアビリティ)のこと、どこまで信じてるのかな」


「…え?」


当然、仕事の話をされるとは思っていない迅は、少し裏返った声を出す。が、喉の調子を整えてから、迅はおもむろに口を開く。


「あの記者会見の内容を全部鵜呑みにする人もいれば、信じない人もいるし、半信半疑の人もいるだろう。結果的に、あの会見は人々に混乱しか齎してないからね」


迅の顔は、一層真剣になる。


「きっと…真の目的があるんだろう」


「…真の目的……?」


迅の言葉をリピートし、御園は首を傾げて、迅に解説を求めた。迅はそんな御園を見て微笑みかけると、首を横に振る。


「そこまではまだわからないよ。それに、今日は楽しむんだろ?考え事は明日にしよう。せっかく御園もオシャレしてくれてるんだし、楽しまなきゃ勿体ないぞ」


有耶無耶にされた気がしたが、迅のいう通りでもあった。今日は迅と遊園地で思い切り遊ぶのだ。考え事をしていたのでは、楽しい時間が台無しになる。背中にリジェクターを常備していなくてはならないのは、仕事柄、仕方のないことではあるが。


「うん。そうだね」


まるで二人に合わせているかのように、バスは遊園地『シャイニングリゾート』へと到着する。

二人はバスを降り、隣同士に並んで入場ゲートへと向かう。

その途中、迅が御園の全身を上から見る。その視線に気づき、御園は頬を赤らめて恥ずかしがる。


「な…なにかな?」


「いや…御園、可愛いなって。大人っぽくて、似合ってるよ」


照れくさそうに、迅は鼻の頭をぽりぽりと掻きながら言った。

御園の格好は、水色の、胸元にリボンが付けられたブラウスに黒のプリーツスカートだ。スカートの裾から覗く脚は、見事としか言いようのないほど綺麗だ。履いているサンダルも黒を基調としたハイヒール。今の御園は大人びていて、道行く人もチラチラと御園を見ている。肩から掛けているショルダーバッグも、その大人びた御園の外見を損ねるという足引っ張りなことはしていない。中にリジェクター〈シムナ〉が入っているのは…まぁ仕方のないことだ。


ボッ!


御園の体温が、急激に上昇する。顔が一気にトマト色になり、足がガタガタと震え始めた。


「あ…ああありがとう…いい行こっか!!」


足の震えをなんとか自制し、御園が入場ゲートを指さした。


「そ…そうだな!!よし!行くぞ御園!!」


「うん!!……ふぇっ!!?」


元気良く返事した御園だったが、迅に左手を握られ、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


どうしようどうしようどうしよう!!


御園はテンパりまくっていた。

それもそうだ。自分の好きな人が、向こうから自分の手を握ってくれているのだから。

とても嬉しいのだが、周りの視線が気にならなくもなかった。大衆の面前で堂々と、手を握っているというのは、御園にとって恥ずかしいこと…というよりは、ハードルが高いことだったのである。



「えーっと…どこから回ろうか」


『東京シャイニングリゾート』の園内マップを広げ、迅と御園はルートを模索中だ。

『東京シャイニングリゾート』は、ジェットコースターやメリーゴーラウンドなどのアトラクションが楽しめる【エリアランド】と、エリアのほとんどがプールになっていて、ウォータースライダーや流れるプールなどが楽しめる【エリアシー】に分かれている。

どちらのエリアも繋がっているので、両方のエリアを楽しむことももちろん可能だが、夏休み中の人気テーマパークとあって、親子連れや友達同士で訪れている人が多く、人気アトラクションは長蛇の列ができると予想される。


「いきなり目玉のジェットコースターとか大丈夫?最初は穏やかなやつからにしようか?」


「ううん、私は大丈夫だけど…種原君は絶叫系無理だったりする?」


「いや?むしろ好きだよ」


二人はまず、【エリアランド】から回ることを決め、今は【エリアランド】内をどういう順に回るかを話し合っている。

東京シャイニングリゾート【エリアランド】の目玉アトラクションは、傾斜七十度、ほぼ垂直にレールが敷かれたジェットコースター『ウィンドラッシュコースター』だ。通常の、進行方向を向いて乗るパターンと、座席が個々でクルクル回転しながら進むパターンと2パターン存在し、どちらも絶叫必須の大人気アトラクションだ。

開園直後に入場できたこともあり、今ならそれほど長く並ぶ必要もない。大人気アトラクションに乗るなら、今がチャンスだ。


「なら…この『ウィンドラッシュコースター』ってやつ、行ってみるか」


「…うん」


二人はゴクリと唾を飲み込み、それほど長くない列の最後尾に並んだ。選んだのは、通常パターン。

迅も御園も絶叫系が苦手ではないとはいえ、傾斜七十度というワードに、ビビらないはずはなかった。

十数分後、迅と御園が乗る番がやってきた。係員に促されるまま、二人は一列二人のコースターに乗り込む。

二人が乗ったのは、前から二列目。先頭列には敵わないが、そこそこ怖い座席だ。


「カチッという音がするまでバーを下げて下さ〜い」


係員の言われるまま、二人は安全バーをカチッというまで下ろす。

係員が発進前の安全確認をし、笑顔でコースターに乗る客に手を振り始める。


「では、発進します‼いってらっしゃい!!」


発車担当の係員の号令と共に、迅と御園が乗り込んだコースターが前進を始めた。

空に伸びるレールの上を、コースターが走る。

上昇するコースターは、ゆっくりと最高高度へと向かっていく。


「ドキドキするね」


「そうだな」


なんとか笑ってはいるが、顔が強張っている御園。迅は、御園側のひじ掛けに手を置いた。それも、掌を上にして。

これと同時に、コースターが最高高度へと達し、数十メートル、水平に敷かれたレールを走る。その直後に控えるのは、傾斜七十度の急降下。

御園は、ほんのり頬を朱色に染めながら、差し出された手に自分の手をそっと置く。触れあった手は、互いの指を絡ませながらギュッと握られる。


そして−−−−−


「……くるぞ」


「いつでもOKッ!!!」


ゴオオォォォッッ


数多の悲鳴や絶叫と共に、コースターは最高高度から、重力に従って落ちていった。



『ウィンドラッシュコースター』に乗り、想定以上の衝撃を受けた迅と御園。

迅はなんとか立っていられるが、御園は腰を抜かしてベンチにへたれこんでいる。

迅は思う。無理もない、と。


「あれ…ヤバいね……もうっ…落ちてた……」


御園、ノックダウン。青ざめた顔で、立っている迅を見上げる。


「だな…落ちてる時の感覚がまだ残ってるし」


迅も、やられたとばかりに苦笑する。

傾斜七十度。あれは嘘だ。九十度、垂直、直角だったと、二人は思いたい。


「で…次はどうする?もう少し休んでからでいいけど」


未だ立ち上がれない様子の御園に、迅は気を遣う。


「そうだね……次はコースター系はやめておきたいかな…」


落下の恐怖が身体に染み付いている御園が、絶叫マシンに逃げ腰になる。持参したハンカチで、冷や汗を拭う。

迅は、園内マップを開きながら、次のアトラクションはどうするか考える。

とりあえず、いくつかある絶叫マシン系のアトラクションは次の候補から外す。

メリーゴーラウンドやコーヒーカップは穏やかで良いが、ただ馬に乗って回るのも、コーヒーカップに乗って回るのも、迅的にあまり面白くないので、とりあえず却下。

となると………

迅が目をつけたアトラクションは、『ウィンドラッシュコースター』のホント真向かいにあった。


「御園、次はアレにしよう」


御園は、迅の指さす方を見て、


「え」


と、声を漏らす。

迅が指さしていたのは、お化け屋敷だ。存在を示す大きな看板には、絶叫必須!なんてでかでかと書かれている。

遊園地と言ったらお化け屋敷。定番中の定番だ。せっかく来たのだし、迅自身もお化け屋敷は初体験なので、行ってみたいという気持ちが、迅にはあった。そして、


「お化け屋敷は…やめておこうよ」


お化けが怖い女の子が、お化け屋敷に入る前に言いそうな台詞を、御園は申し訳なさそうに小さく紡いだ。


「大丈夫だよ。俺もいるし」


「ううん…そういうことじゃなくて……」


御園は、自分の太ももの上で、指をモジモジさせながら、迅には目を合わせないように顔を上げた。


「暗くても…見えちゃうから。能力で」


「あ………」


盲点であった。御園の延長能力(オーバーアビリティ)は、暗視能力まで備わっているのを、迅はすっかり忘れていた。確かに、暗視できてしまえば、お化け屋敷も面白くなくなる。


「…ごめんね」


「いや、こっちこそ……」


結局、次どうするかについては、ふりだしに戻ってしまった。





To be continued……

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