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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
35/63

『レベルと昇格戦』

VR(バーチャルリアリティ)運転室。

アバターを使った、仮想現実(バーチャルリアリティ)世界を舞台にした模擬戦を行う為の機器が置かれたこの部屋に、迅と御園は二人きりで入っていた。

迅はベッドに横たわり、頭に装着するヘルメット型の機器を持ったまま、御園に訊ねた。


「なぁ…"レベル"って、なに?」


成り行きと勢いでこうなったものの、ここに至るまでの御園と恭介の会話には、迅にとって意味不明なワードがいくつか登場していた。

まずはそのひとつである、"レベル"について、迅は訊ねたのだった。


「んーと…少し長くなるけど、いい?」


御園が考慮しているのは、これから恭介とやる模擬戦(という名の喧嘩)だろう。


「喧嘩をふっかけてきたのは向こうだ。少しくらい待たせても良いだろ」


「そ、そう。なら」


御園はコホンと気を取り直して、人差し指を立てた。


「"レベル"っていうのは、各リジェクター適性値を度数ごとに分けて、ランク付けしたものなんだ」


迅が、ふむふむと頷く。


「最低レベルは1、最高で5。最初はみんな、初めての適性値測定で出た適性値をもとに、レベルが判別されるの」


説明はまだ続く。


「でもね、適性値測定は、公安局に入って直後の測定をやった後は絶対にやらないの」


ここで初めて、迅に疑問が芽生えた。

それもそうだ。御園の言う事を要約すると、公安局入り直後の測定で出た適性値をもとにレベル判別されて、その後は絶対にやらない。つまり、最高のレベル5以下の者には、上のレベルに上がるチャンスがないということだ。そもそもの目的が街の防衛とはいえ、目指すなら上を目指したいのが人情だろう。


「それで、上のレベルに上がりたい人の為にあるのが、昇格戦」


「昇格戦……」


「そう。昇格戦」


また新しいワードが出てきたが、迅は御園の次の言葉を待った。


「正式名称も覚えやすくて、適性レベル昇格トーナメント。各リジェクターのレベル5以外の人が参加して、トーナメントで優勝したら、レベル5の人に挑戦する権利が与えられるんだよ」


「それで勝てば、レベル5昇格ってわけか」


「そういうこと」


競わせて個人のモチベーションと戦闘力を上げていくシステム、というわけで、中々うまいやり方をするな、と、迅は思う。


「それで、各レベルで人数が決まっててね、レベル1は何人でもいいんだけど、レベル2はトーナメント一回戦を突破した人。レベル3はトーナメントでベスト8に入った人。レベル4はベスト4入りした人だけなんだ」


「レベル5は?」


「各リジェクターに一人だよ」


「一人!?」


「そんなに驚くほどじゃないよ。種原君だってレベル5だし」


室内に、沈黙が走った。少し経ってから、迅が小さく声を上げる。


「え…?俺、レベル5なの?」


困惑気味の迅の問いに、御園はコクリと頷いて軽く答える。


「そうだよ。環境管理課一係に配属されるのは、レベル5の人間だけって決まってるんだもん」


なんじゃそりゃあ。

迅の思考がゴチャゴチャに回転して、わけがわからなくなる。

レベル5だけが一係に配属されるということは………


「御園も……レベル5?」


「うん」


朝陽(あさひ)も?」


「うん」


輝夜(かぐや)も?」


「うん」


潟上(かたがみ)も?」


「うん。みんなレベル5」


なるほど。つまり環境管理課一係のメンバーは、皆エリートというわけだ。


「御園は、そのレベル5昇格戦で挑戦されたこと、あるのか?」


「あるよ。勝ったけど」


だろうな、と、迅は苦笑い。負けていたら、今、一係にはいないだろう。

他のメンバーも、レベル5の座を守ってきたのだろう。


「輝夜ちゃんは延長能力(オーバーアビリティ)がアレだから、特別枠で一係に配属されてるんだけどね。その代わり、定期的な適性値測定をやってるんだ。〈シャムロック〉の適性値はダントツトップなんだよ?」


例外もあるよ!みたいな感じで話す御園を見ながら、それはそうだろ、と納得する。

輝夜の能力は絶対服従だ。彼女の声を聴いてしまえば、もう昇格戦どころの話ではない。規格外(イレギュラー)な存在だろう。

昇格戦参加ができないとはいえ、適性値がダントツトップというのは見事なものだ。


「じゃあ、茂袮(もね)は?」


迅はふと浮かんだ、引きこもり少女の名前を出した。

三枝茂袮(さえぐさもね)は、リジェクターを持っていない(多分)。なのになぜ、一係にいるのだろうか。顔は見たことないけど。


「茂袮ちゃんはね、公安局一のプログラマーだから。椎名さんが『お前使える!』って一係に勧誘したんだよ。電脳女王なんて呼ばれたりしてる」


「引きこもり女王様か……ハハ」


「種原君…そんなこと言っちゃダメ」


御園も苦笑する。だが、茂袮にはぴったりの別称だと、二人は思ってしまったのも、また事実。


「レベルについてはこんなところかな。理解した?」


「ああ。あ、もう一ついいか?」


「なに?」


「お前と恭介って、なんで仲悪いんだ?」


訊いた途端、御園の表情が激変し、先ほど恭介を罵倒しまくっていた時の顔になった。

迅はそんな御園に少しばかり怖気づくも、御園から視線は逸らさない。


「仲悪いんじゃなくて、私が一方的に嫌ってるの」


先ほどの御園と恭介のやり取りを見るに、確かに恭介が御園のことを嫌っているようには思えない。迅のことは散々言っていたが、御園のことはなに一つ言っていなかった。


「ちなみに、なんで?答えた…」


答えたくないなら答えなくてもいい、と言いかけたところで、御園が迅の台詞を割って答える。


「性格が嫌いなんだ。自分が勝てないのを能力のせいにして、自分自身の能力を磨こうとしない。それで負けたら、誰かに八つ当たり」


「うわぁ……」


恭介は、典型的な嫌われる性格をしているようだ。こういうヤツは大体、強くなったらなったで嫌味ったらしく自慢してくるのだ。要は、救いようのない性格の持ち主だということだ。


「いや待て。性格も腐ってるとは思うけど…能力?」


恭介は、延長能力(オーバーアビリティ)を持っているということなのだろうか。


「恭介も延長能力(オーバーアビリティ)を持ってるの。その能力に頼りきりのせいで勝てないのに、それを能力のせいしてる。別の人が使えたら、恭介なんか瞬殺されるよ」


今の御園の言葉から、分かったことが二つ。

一つ、恭介はなんらかの便利な延長能力(オーバーアビリティ)をもっている。

二つ、御園は嫌いなヤツを、呼び捨てにする。それも、本人のいないところで。


「ついでにもう一個。恭介のリジェクターは?」


「刀型リジェクター〈キテン〉」


刀。恭介は、迅と同系統の武器を使うようだ。なら尚更、負けるわけにはいかない。


「ん…あれ?〈キテン〉って…見たことないな……」


そんなリジェクター、初耳だ。

環境管理課一係のメンバーで、使っている人は見たことがない。

茂袮のように、〈キテン〉のレベル5の人は稀にしか姿を見せないのだろうか。いや、茂袮のような内側の役割の人ならともかく、外に出て戦う人間が、そんな気まぐれでは使いものにならない。


では、誰なのだろうか。


迅の脳内での疑問を察したかのように、御園はゆっくりと口を開いた。


「〈キテン〉のレベル5は…椎名さんだよ」





To be continued……

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