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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
32/63

『ちょっと待った』

救護医療課のテレビに釘付けになる迅と御園。

警視総監は言った。延長能力(オーバーアビリティ)は存在すると。

都市伝説を、都市伝説ではないと断言した。

事実、それが正しいのだが、突然そんなことをカミングアウトされても、人々は困り果てるだけである。何を持って「存在する」と判断したのか、説明する必要がある。

迅がそう思っていると、ある記者が質問を投げかけた。


『何を持って延長能力(オーバーアビリティ)の実在を断定したのでしょうか?』


警視総監は「やはり来たか」といった眼差しで記者を一瞥し、その問いに答えた。


『先ほど挙げた三件の事件の被疑者の身体、また、先月に発生した公安局本部襲撃事件から、延長能力(オーバーアビリティ)が存在する、という結論に至りました』


記者たちがどよめき、近隣同士で顔を見合わせている。

迅もまた、液晶パネルから目を離すことができない。まさかここで、公安局の名を出してくるとは思いもしなかったからだ。

迅は、先月の警視庁での取調べを思い出す。

取調べの際、刑事は言っていた。「我々警視庁には、対延長能力(オーバーアビリティ)保持者部隊が存在している、ということだよ」と。まるで、公安局が延長能力(オーバーアビリティ)に関して長けていると確信したような目で。


『先月の襲撃事件。突入こそ車を使った強行なものだったものの、中で起こった戦闘に関しては延長能力(オーバーアビリティ)保持者が強く関わっていると思われます』


公安局本部襲撃事件後の現場の状況が、口頭で説明される。


『目撃者によれば、犯人グループは爆発物やバズーカのような、破壊に特化した兵器は持っていませんでした。しかし、現場には、豪快に破壊された壁が残っていました』


だから、これは延長能力(オーバーアビリティ)保持者の仕業です、と言い切るのは、あまりにも無理やり過ぎるのではないかと、迅は思う。脚力なり腕力なり、パワードスーツを用いれば壁の破壊など容易なことだ。

迅はこの記者会見に、警視庁の真の目的があるのではないか、と危惧してしまう。


『公安局員が自らの拠点で爆発物を使用する可能性は極めて低く、事実使用していません。そうなるとやはり、延長能力(オーバーアビリティ)保持者が関わっているとしか、考えられません』


これまでの説明で、公安局襲撃事件、ここ数週間に起きた事件に、延長能力(オーバーアビリティ)保持者が絡んでいる可能性が高いことは、おそらく一般人でもわかるだろう。

だが、これらは「延長能力(オーバーアビリティ)は存在する」を証明するための証拠にはならない。現存証拠が、まだひとつも示されていないのだ。

警視総監は、その証拠を示さぬまま席を立ち、記者会見を閉じようとしている。四つの事件との関連性を持ち出して、現存証拠がないという事実を有耶無耶にするつもりなのだろう。

迅があの場にいれば、すぐさま問いたいところだ。

だが警視総監は、「あ」と声を漏らすと再度席に座り、改めて口を開いた。


『重要な事を言い忘れていました。我々警視庁は、延長能力(オーバーアビリティ)を持つ者を危険人物と定め、発見し次第確保するという策を取ります。既に対延長能力(オーバーアビリティ)保持者部隊【AOA】も結成済みです。さしあたって、東京に住む皆様には、延長能力(オーバーアビリティ)保持者に関する情報提供をお願いしたいと思っております。有力な情報提供を行ってくれた方には、相応の報酬を用意させていただきます』


警視総監は顔に笑みを浮かべたまま、


延長能力(オーバーアビリティ)保持者は、人類の敵です。もし…延長能力(オーバーアビリティ)保持者を匿うなどの行為が発覚した場合、ペナルティが発生しますので…皆様、我々に是非、協力してくださいますよう、よろしくお願い致します』


こう述べて、警視総監は席を後にした。



記者会見が終わり、急遽、環境管理課の部屋へと向かうことにした迅と御園は、数分歩いて目的地へと到着する。

すると環境管理課の部屋には、既にメンバー全員が集まっていた。


「あれ、来ちゃったんですか?今日、お二人はデートと聞いていたので、気を遣って今回の件は迅さんと御園さん抜きでやろうってなってましたのに」


迅と御園の到着に気づいて開口一番、人をからかう言葉ばかりを並べる輝夜(かぐや)

御園は顔を真っ赤に染めると、カーッと口を開いた。


「今回ばかりはそうはいかないでしょ!!」


「今は冗談を言うべきじゃないだろ、輝夜」


御園は完全に照れ隠しに大声を挙げていたが、迅は真面目なトーンで輝夜を窘める。

輝夜はため息混じりに謝罪すると、真剣な表情に切り替わった。切り替えは良い方のようだ。


「全員揃ったところで、話を始めてもいいかな」


椎名が、メンバー全員が口を閉じたのを見計らい、確認する。拒否する理由もないので、皆が頷いた。


「皆も知っているだろうが、有能者(アダプター)がお尋ね者になった」


有能者(アダプター)とは、公安局の人間が、延長能力(オーバーアビリティ)保持者の事を示す時の呼称である。

先ほどの記者会見で、警視庁は有能者(アダプター)を発見し次第捕らえると言っていた。そして、情報提供者には、それなりの報酬も与えると。

つまり、この街に住む、まだ見ぬ有能者(アダプター)は追われ身となり、逃げ回らなければならない。

だが、東京の外は異常患者(グローバー)の巣窟。事実上、有能者(アダプター)に逃げ場はない。

今回の会見のすべてを、東京のすべての人間が鵜呑みにするかどうかはわからないが、有能者(アダプター)が差別を受ける可能性も、皆無ではない。


「今回の会見を受けて、我々はどう対応するべきか、今から考えよう」


皆に投げかけたこの問いに、迅は即座に返答した。


「警視庁を堕とす」


言ったものの、やはり首を縦に振る者は現れず、これは迅の脳内のボツBOXに詰め込んだ。


「参考までに……そう考えた理由を答えてくれ」


ボツBOXに入りかけた迅の意見はギリギリのところで引き戻され、迅は、案の内容を詳しく話した。


数分後、迅が自らの案を皆に告げ終える。


「種原君の推測が本当なら警視庁…AOAの次の行動は……」


「おそらく」


蒼夜(そうや)の呟きに、簡単に相づちを打つ迅は、顔の向きをくるりと変えて、御園に目を合わせる。


「残念だけど…今日の約束はまた今度ってことで」


顔の前に両手を合わせ、謝る形で迅は御園に言った。御園は慌てて胸の前で手を振ると、


「今回は仕方ないよ。だからそれやめて!」


「…ありがとう。そうだ、一緒に行くなら遊園地とかどうかな?」


「…ふぇ?」


突然の提案に、フリーズ状態になる御園。でも、御園なら仕方ない…かもしれない。

恋愛に奥手な御園には、いきなりデート場所の話をされたら極度にテンパる可能性は大だ。

それに、デートで遊園地は王道。選んで不足はない絶好のデートスポットだ。一緒に観覧車などに乗った日には、御園はいろいろとおかしくなってしまうかもしれない。


「うっ…ううううううん!!」


緊張のあまり、変な声を出してしまった御園は、恥ずかしさのあまり、顔を両手に埋めてしまう。

勿論、迅に正確に伝わっているわけもなく、


「うん?ううん?どっちだ?」


首を傾げてしまっていた。

御園は深呼吸して荒ぶる呼吸を収め、改めて答える。


「うん…遊園地…いこ……?」


御園の上目遣いに、迅は一瞬ドキッとしてしまったが、すぐに冷静さを補填して御園を見る。


「じゃ…じゃあ、決まりだな」


一応、緊急時ではあるはずなのだが、迅と御園から放出されるほんわかな雰囲気は、その場にいるメンバーを密かに癒していた。蒼夜だけは、「爆発しろ爆発しろ」と呪いの念をかけていたが。

そのほんわかムードの中に入り込み、海斗は迅の耳元で囁いた。


「まさか…この期に及んで気づいてないとは言わないだろうね?」


それは勿論、御園が迅に対して恋心を抱いている、ということについてなのだが、迅はその問いに、微笑んでから答えた。


「さぁ……どうだろうね?」


予想だにしなかった、意味深な返答に、海斗は返す言葉を即座に見つけることはできなかった。




もうすぐ陽が完全に沈む午後七時。とあるビルの屋上に、まるでSPのような格好をした五人組が、堂々と君臨していた。彼らの視線の先にあるのは、公安局本部。


「もう公安本部に仕掛けるんですね。今日の緊急記者会見といい、これまた急な」


突撃銃(アサルトライフル)の弾数を確認しながら、二十代前半の男が口を開く。


「会見を受けて、公安が何か手を打つ前に仕留めた方が良いからな。それより井上、自分の役割はわかっているな」


「とりあえずガツガツ撃って敵を牽制する、ですよね犬飼さん」


自信満々に答えた井上将馬(いのうえしょうま)に、犬飼大河(いぬかいたいが)は、小さな笑みを浮かべて近づくと、


「そうだ。お前の役割は牽制だが…俺を苗字で呼ぶなと言ってるだろう。いつになったらわかる」


「えーっ。犬飼さんの方が呼びやすいですよ、大河より」


「文字数が違うだろ」


大河は無茶苦茶言っている将馬を放置し、続いて狙撃銃(スナイパーライフル)を持つ、若い女性に目を向けた。目を合わせられた女性は、おどおどと大河に問いかける。


「えーっと…わ、私は…どうすれば……」


「上条はここで、敵の増援がないかの見張りを頼む。狙撃が必要な場合は、随時指示を出す」


「り…了解っ!」


大河が出した指示に、上条(かみじょう)あひるは素直に頷く。


「私とトラは、ガンガン攻め込んで良いんだよね?」


(よう)ちゃんは小っちゃくてすばしっこいから、誰もついて来れないだろうしね」


「ちっちゃいとか言わないの!!」


トラ-虎田達也(とらたたつや)にからかわれた橘羊(たちばなよう)は、自分より遥かに大きい達也に、なんとか背伸びで背を並べようとする。


「むぎむぎむぎむぎ〜〜!!」


「おい橘。こんなところで背の張り合いするな。勝ち目ないのに」


ムキになり、背伸びする羊の頭を強く押し、強制的に背伸びをやめさせると、大河はあっさりと羊の身長の可能性を否定した。


「大河さんって…結構容赦ないですよね」


「敵に手加減などしない」


「身内相手での話ですよ」


達也が苦笑いする。

そんな達也を横目に置いて、大河は全員に向けて口を開いた。


「全員、準備はいいな」


皆がコクリと頷く。

将馬が突撃銃(アサルトライフル)を構え、羊が腰に携えた双剣に手をかける。あひるが狙撃銃(スナイパーライフル)のスコープの倍率を調整し、達也は片手で小さなナイフを逆手持ちして、もう片方の手で拳銃を握る。

大河は腰の二刀に手をかけて、「突入!」と号令しようとした、その時、


「ちょっと待った」


ある男の横槍が、大河たちの突入を中止させる。


大河たちが、声のした方向に視線を向けた。


公安局本部(あそこ)には私たちのターゲットがいるんだ。今、殺されるのは困るのだが」


四人の仲間を引き連れた一瀬信樹(いちのせのぶき)は、大河と同じように、腰に携えた二刀に手をかけると、その刃を交差させながら鞘から引き抜いた。





To be continued……

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