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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
AOA編
30/63

『AOA』

太陽がジリジリと東京を照らし、温度計が軽く三十五度を超える猛暑日が続くある日、クーラーで快適な空間を生み出している警視庁に、ある一報が入る。

通報を受けた刑事たちは、事件が起きたとされる、とある一般企業の本社へと赴いた。

刑事たちは、拳銃や防弾チョッキを装備し、本社入口を塞ぐように陣取る。

盾を並べて長い壁を作った刑事たちの前に、一人の男が立つ。

男は、戦闘に備える刑事たちを向き、冷たげな視線を送りつける。


「…足を引っ張るようなことは絶対にするな。いいか」


忠告を受けた刑事たちは、陣形を崩さぬまま、「ハッ!」と口を揃える。


しばらくして、男から突入の号令が掛けられ、同時に刑事たちが建物内へと突入していく。

途端、男や刑事たちの耳に飛び込んできたのは、何者かが荒れ狂い、発狂する声。

かなり上階から聴こえてくるその雄叫びは、吹き抜けの建物に嫌というほど響き渡る。

男は、陣取る刑事たちに待てと指示し、単独で上階へと向かった。

階段を一段とばしで駆け上がること十数秒、男は狂った人間がいる階へとたどり着いた。

軽くあたりを見渡すと、周囲の人々は壁際に逃げ、怯えて腰を抜かしている。おかげで、フロアの真ん中部分はガラ空きだ。ソファなどがいくつか置かれているが、さして問題はない。

男は前進して、発狂する人間に近づいた。髪を伸ばしていたので、男女の識別が困難だったが、どうやら男ようだ。

男は腰から特殊な形態をした銃を取り出し、銃口を発狂する男に向ける。


「業務妨害、及び監禁の罪で現行犯逮捕する。おとなしく投降しろ。さもなくば撃つ」


男の警告など聞く耳を持たない発狂男は、投降するどころか男に迫っていく。

男は軽くため息を吐き、トリガーに人差し指を掛けると、躊躇なくそれを引いた。

銃撃音と共に、見えない弾丸が発射され、発狂男の左肩に命中する。被弾部から、鮮血が溢れ出てくる。だが怯むことなく、発狂男は男へと近づいていく。

次の瞬間、発狂男は能力を発動させる。


「……くッ……」


男が発生させたのは、音の大津波。


発狂男の声帯が起こした空気の津波が、建物内を震撼させる。

周囲の人々は耳を塞ぐが、津波は簡単に防げるものではない。頭に響く空気の振動に耐え兼ねた人々が、床をのたうち回る。

男は、片耳だけ片手で守りながら、片方の手で再度、銃を構える。即座に、銃の形態が淡い光と共に変化する。


「〈死か生か(デッド・オア・アライブ)〉」


男が小声で唱えると、コンマ数秒後に、銃の後面に付けられた小型ディスプレイに【Delete Accept】と表示され、銃が周辺の大気を吸収し始める。


「皆さん!特に過激なものに弱い方は目を背けて下さい!」


男の忠告で、ほとんどの人々が壁側に目を向けたり、物陰に隠れたりと、精神の安全を保つ行動を取った。

それを確認した男は、発狂男に向けて、今度は見えない大砲を放った。すぐに、音の津波は鎮静化する。

放たれた大砲は発狂男を原型が留まらなくなるまで押し潰し、落ちようとする血は空で(いびつ)な線を描く。あたりに残ったのは、発狂男の肉片と、飛び散った血液のみ。

肉体の破壊音だけで気分を害した者がいたらしく、嘔吐する音があちこちから聴こえてくる。

下階から刑事たちが上がってきて、直ちに現場の後処理を始める。

凄惨な殺害現場に遭遇してしまった人々は、刑事たちに導かれて、下階へと移動する。刑事たちも横に並んで列を作り、極力、発狂男の死体が人々に見えないように心がけたが、あまり意味をなさなかったようで、今にも吐きそうな人が多数、見受けられた。

その光景を視界の端で確認しながら、男は銃を格納し、腰のホルスターに戻す。

すぐさまインカムから聴こえてきたのは、とある狂科学者(マッドサイエンティスト)の老いぼれた声。


『ご苦労じゃったな犬神(いぬがみ)。いや、AOA隊長さん、と言った方が良かったかな?』


「どっちもやめろ。MS(マッドサイエンティスト)鳶浦(とびうら)


嫌いな苗字で呼ばれた男・犬神大河(いぬがみたいが)は、科学者たる者、一生呼ばれたくないであろう科学者の呼称をイニシャルで、鳶浦由鐘(とびうらよしがね)を呼びつける。


『そうじゃな。ワシは少々、頭の中がおかしいかもしれんな』


少々どころではないのだが、自覚しているらしい。科学者って恐ろしい。

敵わない、とばかりに頭を掻く大河は、洗浄されているフロアーを見やりながら、由鐘に告げる。


「今のところ、公安が絡んでくる感じはないな」


報告を受けた由鐘は、ふーむ、と唸りをあげてから、次の手を考える。


『やはり、公安がいるところでやるしかなさそうじゃな?』


「そうだな。それで鳶浦さん、『死人形(マリオ)』は残り何体残ってる?」


かき集められる肉片を見ながら、大河は訊ねる。


『今回ので残り六体じゃな。だが大河君、そんなに焦らんでも良いじゃろう?』


「まぁ…そうなんだが」


大河は階段を下り、事件のあったビルを後にする。

外は蒸し暑く、少しでも油断すれば熱中症も十分にあり得る状況。

日差しを日傘などで遮り、暑い暑いと唸りながら行き交う人々の中、大河は突然立ち止まる。


延長能力(オーバーアビリティ)に詳しいのは…公安だけではないだろう?」


不敵な笑みをおもむろに浮かべる大河。

そう、延長能力(オーバーアビリティ)に詳しい…いや、延長能力(オーバーアビリティ)を持つ集団は、公安局だけではない。

ひと月前、公安局を襲撃した謎の集団。報道では強盗団とされていたが、そんなのは真っ赤な嘘だ。大河は確信を持っている。


あの事件には、百パーセント能力者が絡んでいる、と。


大河は再度、不敵な笑みを浮かべる。

その目は、恐ろしいほどの殺気と、復讐心で満ち溢れていた。





To be continued……

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