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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
27/63

『さんせーい!!』

突然の公安局襲撃事件が終結して、まだ数時間しか経過していない。現時刻は深夜二時。戦場となった出入口付近では、既に修復工事が始まっていた。大工の中でもピカイチの腕を持つ大工がこの工事を担当するらしく、修復は完璧に、あっという間に終了する予定らしい。

同局内の救護医療課。

怪我をした人の応急手当てや治療、医療に関する研究を行っているこの課の部屋に、環境管理課のメンバーがほぼ全員集まっていた。

メンバーは蒼夜(そうや)を除いてケガ人はいない。今は、怪我をした蒼夜の手当が終わるのを待っているところだ。

あともう一人、白雪絵怜奈(しらゆきえれな)も、"投薬(ドラッグ)"の副作用で動けなくなり、救護医療課のベッドで休んでいる。もう少ししたら、動けるようになるらしい。

救護医療課の待合室では、六人がソファーに腰をかけている。

迅、御園、輝夜、海斗、朝陽、椎名の六人だ。


「へぇ〜輝夜(かぐや)延長能力(オーバーアビリティ)って対象を従わせる能力なのか〜。便利だな〜」


「はい。【絶対王冠(アブソリュートクラウン】って言うんです。難点もありますし、あまり使いたくはないんですけど」


他に患者のいない待合室に、彼らの会話が響く。


「もう輝夜が能力使って異常患者(グローバー)を鎮静化させれば万事OKだな」


「ハハハ…そんな便利な能力じゃないんですよ」


苦笑いを浮かべ、輝夜は頬をぽりぽりと掻く。


「私の延長能(オーバーアビリ)…」


「輝夜様ーー!!」


待合室の奥の方から、いかにもおかしな呼び方をした声が聞こえてくる。


「様!!?」


迅は驚きのあまり、大声をあげていた。

先ほどの声の主は、飛ぶ鳥も落とす勢いで廊下を駆け抜けると、輝夜へ思い切りダイブした。

ダイブした人間を見て、迅は再び声をあげる。


「絵怜奈!!?」


困った顔して仰向けに倒れる輝夜のお腹の上に乗っているのは、金髪の剣道少女・白雪絵怜奈だ。数日前から信樹(のぶき)たちに操られ、数時間前に、輝夜の能力によって解放されたのだ。


「輝夜様、助けて頂いてありがとうございました!!」


「私、歳下です!"様"とかやめてください!!」


「では、"姫"と!!」


「昔話みたいにしないでください!」


迅は直ぐに思う。絵怜奈の口調や態度が明らかにおかしいと。

まるで高位の者に仕える下僕のように、輝夜を敬っている。


「…迅さん……」


ため息混じりに、迅を呼ぶ輝夜。


「私の能力は…一度従わせたら、その主従関係をとり消すことができないんです…」


「………そ、そうなのか…」


確かに、あまり使いたくない能力だ。事あるごとに使っていたら、いつしか輝夜教団とかができてしまいそうだ。


「えーっと…白雪さん?私の事を様付けで呼ぶのはやめてもらっていいですか?あと、お腹に座らないでください…」


輝夜の言葉を聞きながら、絵怜奈は輝夜を尊敬しているのか舐めているのか、わからなくなる迅。


「では、輝夜さんと呼ばせて頂きます!」


「"頂きます"とかもやめてください!」


「では、どのようにすれば?」


「…私歳下だし、タメ口で全然良いんですけど……」


言いながら輝夜は絵怜奈の顔を見て、言葉を切ろうと思っていたところに、さらに言葉を続ける。ちなみにこの時の絵怜奈の顔は、「タメ口は無理です!」とアピールしている顔だった。


「ど、どうしても嫌なら…普通の敬語で……」


「はい!わかりました」


どうやら、一件落着のようだ。ところが今度は、絵怜奈が迅と御園の前に立ち、二人の顔を見つめ始めた。


「えっと…何?」


「ごめんなさい」


「「……へ?」」


唐突に謝られ、揃ってポカンと口を開ける迅と御園。


「この前、学校で調子の良いこと言って、ひどい事言って、種原君の事襲って、迷惑かけて…ごめんなさい」


絵怜奈は、深々と頭を下げた。

ずっと、気にしていたのだろうか。五海(いつみ)に操られている間も、戦っている間も、ずっと気にしていたのだろうか。もしそうなら、学校でのアレは、感情に流されて勢いで言ってしまったこと。それに、本人が謝っているのだ。少し嫌な事を言われたことくらい、水に流すべきだろう。


「気にしてないよ。それより頭、上げてくれよ」


「そうだよ。もう大丈夫だから」


迅と御園は、絵怜奈に笑顔でそう声をかけた。

顔を上げた絵怜奈の目には、うっすらと涙があった。


「そう言ってもらえると…助かる」


こちらも一件落着だ。

そしてタイミングよく、治療を終えた蒼夜が治療室から出てきた。

輝夜の苦戦を黙って見ていた椎名が、ここでようやく口を開く。


「全員揃ったな。三枝(さえぐさ)以外は」


「あの子は出てきませんよ」


「知ってる」


全員の視線が、椎名に向けられる。


「ひとまず、全員無事でなによりだ。蒼夜も、大した怪我でなくて良かった」


「ご心配をおかけしました」


「それで、今話したい事は二つ。この白雪絵怜奈くんの今後についてと、敵の狙いについて」


椎名は続ける。


「まず白雪絵怜奈くんの今後についてだが、救護医療課に入ってもらおうと思っている」


「救護医療課に?」


朝陽が、ヘェ〜、と、口を開く。


「丁度、救護医療課も人手が欲しいらしいし、なにより〔フェーズ5〕だからな」


「え!?〔フェーズ5〕?」


驚くのも無理はない。〔フェーズ5〕は、体内にウイルス【GW-01】を保持しても、一定割合までなら暴走しない、少し稀な異常患者(グローバー)のことだ。

だが、驚くのはそこではなく、〔フェーズ5〕は、いつ暴走してもおかしくないため、定期的な体内浸食率検査と、リスト登録が義務付けられている。そして、リスト登録者は、専用のブレスレットを着用しなければならない。それも、外したらブザーが鳴る、絶対に外してはいけないやつ。

絵怜奈はそれを付けていない。本当に〔フェーズ5〕なら、四年前の大感染(パンデミック)後の検査で既にそう判断されるはずだ。

その迅の疑念を読み取ったかのように、椎名がさらに続ける。


「白雪くんがハーフだという話はこの前していたな。実は白雪くんは四年前の大感染(パンデミック)の時、イギリスにいたらしい。日本に来たのは去年の春、白雪くんが高校に入るのに合わせて来たそうだ」


「ああ、なるほど」


これで合点がいった。四年前に海外にいたのなら、検査も受けていないし、大感染(パンデミック)よりも前に日本を離れていたのなら、入国の際の検査も必要ない……


「あれ?」


新たな疑問点が生まれ、迅が小さく声を出す。


「どしたの?種原君」


御園が迅の顔を見つめる。


「絵怜奈は四年前の大感染(パンデミック)を経験していない…日本に来たのは二年前…なのになぜ、絵怜奈は〔フェーズ5〕なんだ?」


それを聞いて、他の皆も考え始めた。

確かに変だ。大感染(パンデミック)を経験していないなら、そもそも感染する機会がない。なのに、絵怜奈は体内にウイルスを保持した〔フェーズ5〕。

皆が黙り込んで、真剣に思考を巡らせていたが、大事な話ではあるが、本題から横ずれているため、椎名が咳払いでそれを止める。


「〔フェーズ5〕はリスト登録対象だ。すでに白雪くんもリストに登録されている。それに、白雪くんほどの戦闘能力があると、暴走した時に止めるのは困難だ。だから、学校以外ではあまり出歩いてほしくないんだ」


椎名は一呼吸置くと、


「というわけで、絵怜奈には公安局(ココ)に住んでもらうことになる。ついでに救護医療課で働いてもらう。安心しろ、給料は出るから」


「まあ、その方が良いですね」


蒼夜が同意する。

絵怜奈は、申し訳なさそうに顔を俯かせている。


「ご両親にも話は通してある。娘をよろしくと言っていたよ」


それを聞いた絵怜奈は、少し顔を明るくして、


「では…お世話になります」


椎名はコクリと頷き、引っ越しやら荷物の準備やらについて絵怜奈に伝え、それが終わると、直ぐさま次の話題に切り替えた。


「次に、敵の狙いについてだ」


この瞬間、迅、御園、輝夜、朝陽の表情が変わった。

どうやら観察力の高い椎名は、その表情の変化に気付き、それを踏まえて話を続けた。


「もう気付いている者もいるかもしれないが、率直に言う。敵の狙いは篠宮だ」


やっぱり、と、輝夜と朝陽が頷く。


「ええぇッッ!?」


「篠宮さんが……!?」


「篠宮さん……」


海斗、蒼夜、絵怜奈が、各々が驚いてみせる。


「あの…御園さん」


輝夜は呼びかけたが、続けるのを少し躊躇った。

数時間前、輝夜が戦った三郷(みさと)という名の少女。たしかに、御園に似ていた。そして、百メートルは離れたところにいた御園のホログラムを、御園と直ぐに認識した。御園の【万里双眼(マイルズスコープ)】に匹敵する視力の持ち主……それに「お姉ちゃん」とも言っていた。

御園との共通点が多すぎる。それにあの発言。もしかしたら、御園の妹かもしれないのだが……


「ん?なに?」


「……いえ…なんでもないです」


御園は、自らを狙っているのが自分の妹とだと知ったら、どう思うのだろうか。


もし、姉妹同士で戦わなければならなくなったら、どうするのだろうか。


今はまだ、この事は言わない方が良い気も……する。


その様子を見ていた朝陽が、輝夜の耳元でボソッと呟いた。


「後で…二人で話したいんだけど」


「………うん…?」


そうとだけ言うと、朝陽は直ぐに輝夜から一歩離れた。

輝夜は、少し首を傾げる。


「続けてもいいかな。篠宮は今後もヤツらに狙われる可能性が大だ。そのため、一人暮らしの御園はとても危険だ」


椎名の話はまだ継続中だ。


「御園、一人暮らしなのか?」


「う…うん。大感染(パンデミック)で家族はみんな死んじゃったから…妹は、生きてると思うんだけど……」


その時、輝夜はあの三郷という少女が御園の妹だと確信を持ったが、まだ言わないと決めていたので、口には出さなかった。


「あ……ごめん」


「ううん。気にしないで」


謝る迅に、御園は慌てて手を振る。


「そこでだ。御園にも公安局(ココ)に……」


「ピーーン!!!私、閃いちゃいました!!」


椎名の言葉を遮り、輝夜は大声を上げた。

ひとまず、御園の妹の事は横に置いておく事にした輝夜は、考え事をしているのを隠すように、楽しそうな笑顔を作った。実際、楽しくなりそうな事を言おうとしているのだが。


「御園さんが一人暮らしだと危ないなら、迅さんの家に居候させてもらえば良いと思います‼」


右手を挙手しながら叫ぶ輝夜の声が、待合室に響き渡る。


「「さんせーい!!」」


と、意気揚々に賛成したのは、海斗と蒼夜。


「居候って……は!?」


まるで自分の事かのように動揺する朝陽。


「…………」


あまり興味がなさそうな絵怜奈。

そして、


「え……」


みるみる内に真っ赤っかになる御園。


「ええぇぇぇぇッッ!!?」


今日一番、まだ日付けが変わったばかりだが、おそらくこの日一番だと思われる大声が、救護医療課の待合室にこだました。





To be continued……

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