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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
26/63

『何があっても』

迅の握る剣が、神光の如く、眩い輝きを放ち始める。

御園の握る銃の奥では、身体を貫通させる凶弾が、弾頭を輝かせている。

公安局出入口付近を埋め尽くしていた粉の煙幕も、徐々に晴れ始めている。

煙中で戦いを続けていた海斗と鉄二、出入口付近で交戦していた輝夜(かぐや)三郷(みさと)は、予想外と作戦通り、各々の感情を抱いて迅と御園の方に目を向ける。

鉄二の攻撃をもろに受け、しばらく倒れたままだった蒼夜(そうや)も、ようやく立ち上がり、鉄二との戦いに回帰する。

三郷を除く相手には、こちらが二対一と、数では優勢だ。ここで三郷に対しても二対一の状況にすれば、敵の勝つ可能性は限りなく低くなる。見ていればわかる。皆、とても強いから。

そう思った絵怜奈(えれな)は、瓦礫の中から立ち上がろうと力を入れる。だが、全身にまったくと言っていいほどに力が入らず、すぐに尻もちをついてしまう絵怜奈。


「どうして……どうしてよ!!?」


どうしてと叫びながらも、絵怜奈は力が入らない理由に心当たりがあった。

五海に操られていた時、絵怜奈は"投薬(ドラッグ)"によるドーピングが施されていた。おそらく、その薬の効果が切れたための副作用によるものだろう。

絵怜奈は悔しそうに、力の入らない拳をありったけ握りしめた。



迅&御園vs雷杜(らいと)は、迅によって開始のゴングが鳴らされた。

迅の最初の攻撃を、二本のナイフをクロスさせながら受け止めた雷杜は、"投薬(ドラッグ)"によってドーピングされた筋力で、思い切り押し返す。


「〈デュランダル〉-"エクスカリバー"」


二本のナイフと共に、ジリジリと刃と刃がこすれ合う音を出しながら、〈デュランダル〉は最強の姿へと変形する。

刀身に帯びた曙光の如く輝くその光は、こちらを押しかけていた雷杜を逆に押し返し、


「〈ラビット〉-二重(ダブル)


〈ラビット〉によって増強された脚力で、迅は雷杜の腹を蹴り飛ばした。

壁に叩きつけられ、背中を強く打った雷杜は、大きく咳き込む。頭に着けていた騒音除去装置も、そのはずみで外れてしまっている。


「今のは"さっき"のお返しだ」


雷杜を見下しながら、鬼の形相で睨む迅。"エクスカリバー"の光が、怒る迅を顔を一部分だけ照らす。


「お前らは…俺の癇に障ることばかりしてくれるな...」


「はて…なんのことかな…?」


悪びれる様子もなく、雷杜は怖気づかずに鼻で笑ってみせる。


「殿町を殺した事、絵怜奈に手を出した事、そして」


聖剣の刃を雷杜に突きつけ、迅は続けた。


「御園に…手を出そうとしてる事」


その言葉を聞いた御園が、ほんわかと頬を赤くしたが、後ろにいる御園を、迅が見ているはずもなかった。


「俺はもう…目の前で誰かを失いたくない。死なせたくない。奪われたくない。たとえ死なないとわかっていても、敵に奪われるのだけは、絶対に嫌だ」


迅の言葉を聞きながら、雷杜がまだ少し苦しそうに立ち上がり、ナイフを持って身構えながら迅に問う。


「なら…どうするの〜?」


人を舐めたような、語尾を伸ばす雷杜の話し方に苛立ちを覚えながら、迅は〈デュランダル〉を振り下ろした。

雷杜のナイフとの衝突音が、威風をあたり払って、公安局内に響き渡る。


「守るさ…何があっても、御園は俺が守る。ピンチなら助けに行く。絶対に…御園を死なせたり、奪われたりしない…!!!」


雷杜のナイフを(はじ)き、迅は後方に少し跳ぶ。


「〈ラビット〉-三重(トリプル)


壁面に着地し、増強された脚力で壁を蹴った迅は、勢いを殺さずに〈デュランダル〉を振るう。

雷杜がギリギリナイフで防ぐが、相殺できなかった速度に押され、壁を破壊して瓦礫の中に転がる。

完璧に相手ペースとなり、この場の打開策を練る雷杜だが、彼の着けたインカムから、一瀬信樹(いちのせのぶき)の声が雷杜の耳に届く。


『全員、直ちに撤退しろ』


「なッ……?」


『君達が今いるのは敵陣だぞ。長引けば長引くほど脱出は困難になる。そうなる前に撤退しろ。三郷の姉(・・・・)は、今回は諦める』


直後、再び公安局入口付近で、破壊音が轟く。

破壊音と共に入ってきたのは、異常患者(グローバー)と化して凶暴な化け物となったカラス。大きさは、よく見るカラスの十五倍ほどになり、爪や(くちばし)はさらに鋭利になっている。

カラスは、羽音をたてながら公安局内を飛び、交戦中の輝夜と三郷、海斗&蒼夜と鉄二の間を分かち、両者の間に距離を生む。尚もカラスは、迅たちの方へと向かってくる。


『そのカラスが囮になる。その隙に撤退しろ』


「五海ちゃんか!!」


迅がカラスに気を取られた隙に、雷杜はカラスとすれ違い、出入口へとダッシュする。


「五海…【傀儡創主(ドールマスター)】の使い手か!」


雷杜の後を追う迅と御園を阻んだカラスを見て、迅は気づく。

五海の使う、催眠系統の延長能力(オーバーアビリティ)傀儡創主(ドールマスター)】は、人間以外の動物にも効果があるようだ。その辺にいたカラスを異常患者(グローバー)化させて、能力で従わせているのだろう。


「皆さん!!騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)をしてください‼」


大声で輝夜が叫ぶ。自らの延長能力【絶対王冠(アブソリュートクラウン)】を使って、カラスの支配権を上書きするつもりなのだ。

だが、それよりも早く…いや、速く、迅と御園が動いていた。

御園は〈シムナ〉の銃口をカラスに向け、何発か光の弾丸を放った。全てがカラスの身体に命中したが、あまりダメージは与えられなかった。

通常の光の弾丸では、ダメージが足りないようだ。だが、〈シムナ〉の必殺技である『フォトンシェル』を室内で使うことはできない。なら………

御園は集中して狙いを定め、銃を僅かに横にずらしながら二発、連射した。

放たれた二発の弾丸は、カラスの両眼に命中し、数少ない急所を突かれたカラスは痛みのあまり、大きな隙を作ってしまう。


「種原君!!」


御園は、刀身が異彩の光を放つ剣を構えた少年の名を叫ぶ。


「グッジョブだ御園。あとは任せろ!…〈ラビット〉-二重(ダブル)


迅は斜め四十五度方向に跳躍、空中を暴れるカラスとのすれ違いざまに、斬る。

カラスは傷口から血を吹き出しながら地面に落ち、そのまま動かなくなった。

能力を使おうとしていたが、それをせずに済んだ輝夜は、直ぐに出入口を振り返る。だが、そこにはもう、雷杜や三郷、鉄二の姿はなかった。



迅と御園がカラスと交戦している頃、上階にある環境管理課の部屋には、椎名と朝陽がいた。

朝陽は部屋の窓を開け、窓枠に足をかけて、狙撃銃型リジェクター〈テルシオ〉の狙いを定める。

朝陽がスコープで覗く先には、公安局出入口がある。

敵は異常患者(グローバー)化したカラスを使って迅たちを足留めする間に、脱出しようという算段だ。出てきて少し気が緩んだところを、撃つ。


「いつでもいいわよ…早く出てきなさい」


狙いを、公安局出入口から一歩目の位置に固定し、朝陽は敵が出てくるのを待つ。

それから僅か数秒後、銃槍を持った少女が飛び出してきた。


今!!!


朝陽はトリガーを引き、実弾を放った。朝陽の銃は、光の弾丸だけでなく、手作業で装填することによって、実弾も発砲できるのだ。


「うそ!?」


発砲して間もなく、朝陽は驚きの声を漏らす。


「どうした?茜屋」


椎名も訊ねてくる。

朝陽がトリガーを引いたのと同時に、少女がこちらに向けて銃槍を向け、発砲したのだ。彼女の弾丸は、朝陽が放った弾丸と衝突し、威力を互いに相殺して落下していく。

おかしい。建物から出てきた直後の上方からの狙撃。完全なる死角からの狙撃だったはず。それなのに、あの少女は気付き、しかも弾に弾を当ててみせた。


「どれだけ視野が広いのよ…アイツ」


朝陽は愚痴をこぼし、窓枠にかけていた足を下ろす。

視野が広いというよりは、視力が極端に良い、というべきか。ほぼ太陽が沈んでいる中で、金属の実弾を瞬時に視認したのだから。


「目が良いって言えば………」


朝陽は、視力が極端に良い同僚を一人、思い出す。


「……まさかね」


朝陽は〈テルシオ〉を担ぎ、ううん、と、首を横に振った。





To be continued……

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