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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
25/63

『公安局環境管理課一係』

堂々と侵攻を図る鉄二(てつじ)と交戦に入る、海斗と蒼夜(そうや)

鉄二の侵攻方向を塞ぐように立った二人は、それぞれの"リジェクター"を起動する。


「〈ウコンバサラ〉起動」


【ユーザー音声認証。潟上海斗(かたがみかいと)の音声データと一致、潟上海斗を確認しました。〈ウコンバサラ〉起動完了】


「〈アテナ〉起動」


【ユーザー音声認証。猪狩蒼夜(いかりそうや)の音声データと一致、猪狩蒼夜を確認しました。〈アテナ〉起動完了】


海斗が起動したハンマー型リジェクター〈ウコンバサラ〉は、重すぎず軽すぎずをコンセプトに、尚且つ高い威力を追求して作られた、最新鋭の技術が組み込まれたハンマーである。

重量級のハンマーに比べたら、さすがに威力は低くなってしまうが、それを補うための形態がしっかりと用意されている。

ギターケースに入るサイズなので、持ち歩きも物凄く不便、というわけではない。海斗愛用のリジェクターだ。

蒼夜が起動したのは、アームプロテクター型のリジェクター〈アテナ〉だ。

プロテクター内部に、装着者の身体能力をリアルタイムで数値化する機能が備えられており、それに応じて筋力アップさせ、攻撃に反映させるリジェクターだ。

プロテクターは盾としても使うことができ、接近戦での防御にうってつけだ。

二人は各々の愛用リジェクターを装備し、侵攻する敵・鉄二と相対する。

対する鉄二は装備なし、素手での戦闘スタイルのようだ。だが油断は禁物である。先ほどの移動速度を見るに、鉄二はただ者ではない。


「相手が素手で身軽なら、ほぼ素手に近い俺が隙を作る。潟上はその隙を突いてくれ」


「了解!」


傀儡創主(ドールマスター)】を使える五海(いつみ)が退いたことによって、洗脳の心配はなくなったため、騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)を外している海斗と蒼夜が小声で作戦を立てる。

一方の鉄二は、輝夜(かぐや)を警戒して騒音除去装置を外していないため、こちらの声は聴こえていない。


「行くぞ」


〈アテナ〉に青い模様を走らせながら、蒼夜が鉄二に向かって足を進めた。直後、戦闘が始まる。

蒼夜は、まず受け身の態勢を取った。攻撃を受け流しながら隙を探すためだ。

蒼夜は鉄二の殴る蹴るの猛攻をすべて回避している。右ストレートからの右足での蹴りの高速の連撃も、蒼夜は簡単に受け流した。

これは蒼夜の延長能力(オーバーアビリティ)によるものだ。

蒼夜の延長能力(オーバーアビリティ)は【完全追眼(ユーピテルチェイス)】、常人よりも遥かに長けた動体視力だ。定めた狙いを見失うことは絶対にない。

この【完全追眼(ユーピテルチェイス)】で攻撃を見切り、鍛え上げた身体能力と合わせて、鉄二の攻撃を回避していたのだ。


「…………」


拳を繰り出しながら一瞬だけ、鉄二はニヤリと笑みを浮かべた。その笑みを見た蒼夜は悪寒に襲われ、反射的に後ろに飛び退いた。

次の瞬間、鉄二は瞬く間に蒼夜の目の前まで接近し、思い切り右ストレートを繰り出した。

防御までは間に合わなかったため、鉄二の右ストレートをもろに食らってしまった蒼夜は、殴られた勢いのまま壁に突っ込み、破壊された壁の瓦礫と共に地面に倒れている。

攻撃を読み、衝撃を和らげるために後方に跳んだにも関わらず、この威力だ。ただ黙って食らっていたら、どれほどのダメージになるかは、火を見るより明らかだ。

驚愕の表情を海斗が見せていると、鉄二は騒音除去装置を外し、不敵の笑みを浮かべて口を開いた。


「強化筋力【巨人力域(タイタンストレージ)】。俺の延長能力(オーバーアビリティ)だ」



環境管理課の部屋をとび出し、椎名に指示された場所に到着した御園は、インカムから聴こえてくる音に耳を傾ける。

彼女の腰に巻かれたホルスターには、五海対策の騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)と、御園の愛用の武器〈シムナ〉が提げられている。


『作戦は今言った通りだ。健闘を祈る』


椎名の声と共に、作戦が決行される。

御園は出るタイミングを見計らいながら、隠れて戦場を見る。

ホルスターから〈シムナ〉を取り外し、小声で起動させる御園。

トリガーに人差し指を掛け、攻撃の準備を完璧にし、御園は出るべきタイミングを待った。



公安局入口付近では、迅&絵怜奈vs雷杜(らいと)と、輝夜vs三郷(みさと)の戦いが繰り広げられている。

輝夜と三郷はお互いが同等レベルのため、どちらも一歩も譲らない戦況となっている。

一方、迅&絵怜奈と雷杜は、雷杜が二本のナイフで二人の攻撃を凌いでいるが、"投薬(ドラッグ)"によるドーピングにより、パワーアップしている絵怜奈が、力で雷杜を圧倒し、できた隙を迅が突くという展開が多くなってきているので、迅たちが雷杜を崩すのも時間の問題だ。

たった今も、絵怜奈の攻撃を受け止めて仰け反った雷杜に迅が斬りかかるが、雷杜はバック転をして回避、迅と絵怜奈から距離を少し取っている。


「…了解」


隣に立つ迅が突然口を開いたので、絵怜奈は少し驚いて、


「どうしたの?」


と、問いかける。

迅は絵怜奈には視線を向けぬまま、簡潔に答えた。


「指示が出たんだよ」


「そんなことは……」


「待て」


絵怜奈の言葉を中断させ、迅は雷杜を指指した。

指の指す方向を見ると、雷杜が胸ポケットから何かを取り出し、それを胸部に押し当てていた。

何を取り出したのかは、出した物が小さくて見ることができない。

が、迅はそれが何かを悟ったようで、勢いよく雷杜に向かって突撃する。

その迅を見て、雷杜は胸部に押し当てていた物を投げ捨て、すぐさま両手にナイフを握る。


「はあぁぁあッ!!」


迅は〈デュランダル〉を思い切り、雷杜めがけて振り抜いた。

だが、その刃はナイフ一本で、いとも簡単に止められてしまう。

雷杜は明らかに、先ほどよりもパワーが上がっている。


「やっぱさっきの…薬だったか」


床に放られた物を横目で見ながら、迅は雷杜を睨みつける。だが雷杜は騒音除去装置を着けているため、迅の声は聴こえていない。

絵怜奈は、床に転がる、雷杜が捨てた物に目を向ける。


「……注射器?」


落ちていたのは、針のなく、中身も空の注射器。最近の予防接種などでは主流の、無針高圧注射器というやつだ。

これを使って、雷杜は"投薬(ドラッグ)"を行ったのだ。


「…くッ……!!」


絵怜奈が一瞬目を離した間に、迅が劣勢という戦況に変わっていた。

やはり今の雷杜は、先ほどまでとはケタ違いの強さだ。


「援護しなくちゃ!」


絵怜奈が雷杜に近づいていく。



「ダメだ、絵怜奈!!」


迅の忠告を無視し、絵怜奈は刀を薙ぎ払う。だが、簡単に止められ、今にも押し返されそうになってしまう。


女子が"投薬(ドラッグ)"で強化されていても、同じく"投薬(ドラッグ)"で強化された男子に勝てるはずはなかった。

絵怜奈の刀はあっさりとはね返され、絵怜奈は両手を上に挙げる体制になってしまう。

その絵怜奈に、雷杜は容赦なく、全力でナイフを振るった。


「絵怜奈!!!」


ギリギリのタイミングで、迅が雷杜と絵怜奈の間に入り、〈デュランダル〉でナイフを受け止めたが、威力までは相殺できず、二人はふき飛ばされてしまう。

壁を破壊するほどの勢いで飛ばされた二人は、何とか瓦礫の中で腰を浮かせている。


「迅さん!!」


輝夜が名を呼んでいるが、こちらに加勢には来れない。

雷杜が、迅と絵怜奈にトドメを刺そうと近づいてくる。

絶体絶命の危機に陥り、絵怜奈は目をギュッと閉じる。

だが直後に聴こえた三郷の声に、絵怜奈は瞼を開けた。


お姉ちゃん(・・・・・)!?雷杜さん、ターゲットがいます!!!」


輝夜と武器を交えながら、なんとか三郷はターゲットの方向に視線を向ける。

雷杜はその方向を素早く見ると、確かにターゲットの姿があった。


「篠宮さん…?よく見えないけど....」


絵怜奈も同じ方向を見て、小さく呟く。

絵怜奈や雷杜、三郷が見つめるのは、海斗たちが戦っている場所よりもさらに向こう、上階へと向かう階段の踊り場に立つ、御園だ。

御園は銃型リジェクター〈シムナ〉の銃口を三郷たちへと向け、狙いを定めている。

すると今度は、天井に付けられたスプリンクラーから、消火用の粉が勢いよく噴き出てくる。すぐに、辺りは真っ白で視界は最悪となる。


「逃がしたらダメ!!雷杜さん、行ってください!!」


三郷が叫ぶ。

迅と絵怜奈は直ぐには立ちあがれない。途中にいる二人も、この消火用の粉による煙幕のせいで、通過する雷杜を止めることはできない。今、誰にも邪魔されずにターゲットを捕らえられるのは、雷杜だけだ。


「オッケー!!」


雷杜は脅威のスピードで走り始め、煙幕の中へと突っ込んでいく。


「絵怜奈、お前はここにいろ」


迅は立ち上がり、煙中を走る雷杜を追って駆け出す。

三郷は迅をなんとか止めようとするが、輝夜に阻まれてそれを成せない。


そんな三郷の横を誰かが、目にも留まらぬ速度で抜けて行ったが、三郷はそれを誰だか認識できなかった。


三郷の目の前にいる輝夜は、勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべていた。

粉の煙幕を抜けた雷杜は、ターゲットである御園へと急接近する。

御園は生け捕りにしなくてはならないので、雷杜はナイフを懐にしまい、もう一つの特技である格闘技を用いて、御園を捕らえようと試みる。

簡単には捕まるまいと、御園も動き回る。だが徐々に、壁の隅へと追いやられていく。


「はい、追い込んだ」


追い詰められた御園に、雷杜がどんどん近づいていく。そして、御園に触れ………ることはできなかった。


「ホ…ホログラム!?」


雷杜が狼狽する。そして背後からの気配に気付き、後ろを振り返る。


「追い込まれたのは、お前だ」


そこには、〈デュランダル〉の切っ先を雷杜に向けた、迅が立っていた。

そして彼の背後では、本物の御園が、銃口を雷杜に向けている。

嵌められた。雷杜は深くそう思った。ホログラムの御園は、本物の御園を動かすための囮、消火用の粉を使った煙幕は、囮の御園を逃がすためではなく、背後から追う本物の御園の存在に気付きにくくするためだったのだ。


「詰んだぞ。観念しろ」


雷杜に鋭い視線を送りながら、迅が言う。

雷杜はこめかみから汗を垂らしながら、懐からナイフを取り出し、両手でしっかりと握る。


「悪いけど…そう簡単に諦めるわけにはいかないんだよね〜」


「……そうか」


迅は剣先を下ろし、攻撃もでき、受け身も取れる体制を整え、背後に立つ御園に声を掛ける。


「だってよ。行くぞ、御園」


「了解、援護は任せて!」





To be continued……

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