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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
24/63

『自分で守りたいので』

輝夜(かぐや)の絶対的能力【絶対王冠(アブソリュートクラウン)】によって、こちらが優勢となった只今の戦況。

もともと戦闘員ではない公安局員たちは、輝夜の命令に従って避難し始めた。

もう手がない五海(いつみ)に、刀を鞘から抜いた金髪美少女・白雪絵怜奈(しらゆきえれな)が迫る。

五海は何度も洗脳を試みるが、一度、輝夜に忠誠を誓った者の精神を手中に収めるのは困難を極め、結局できず(じま)い。


「よくも…よくも……」


怒りを露わにしながら、絵怜奈は五海へと近づいていく。彼女からは感じられるのは、濃厚な殺気のみ。


「よくも私を…好き放題使ってくれたわねぇェッッ!!!」


憤る絵怜奈の刀は大きく振りかざされ、五海へ一直線と言わんばかりに振り下ろされる。

戦闘がまったくできない五海は、ただ悲鳴を上げてしゃがみ込む。

そんな五海などお構いなしに、絵怜奈の刃は空を斬る。


ガキイィン!!


絵怜奈の刃は、雷杜(らいと)の持っていたナイフによって止められた。

が、迅をふっ飛ばせるパワーを持つと思われる雷杜が、絵怜奈のパワーに押されていた。

先日、迅が絵怜奈と交戦した時は、あまりパワーがあるとは感じなかったのだが………


「……くッ…"投薬(ドラッグ)"が裏目に出ちゃってるよ〜。俺今日は"投薬(ドラッグ)"してないし〜」


「フン、自業自得よ」


"投薬(ドラッグ)"…?

ドーピングの一種だろうか。筋力増強剤のようなものを注射()っているのだろうか。

騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)をOFFにして、あれこれ思考を張り巡らせる迅だが、そんなにのんびりと考え事ができる状況ではない。雷杜を圧倒していた絵怜奈だが、じわじわと絵怜奈が押され始めている。"投薬(ドラッグ)"の効果で強くなっても、男のパワーにはまだ及ばないようだ。どれほどの効果が出るか、ということには、個人差は出るのだろうが。

そして、遂に、絵怜奈と雷杜の戦いの形勢が逆転した。絵怜奈の刃が押し返され、バランスを崩した絵怜奈は後方に数歩下がる。僅かに距離が生まれた。


「絵怜奈!俺も加勢する。二人でやるぞ!」


腰の鞘から〈デュランダル〉を抜き、起動させた迅は、絵怜奈の隣に立つ。


「種原迅…アンタ、なんで……」


絵怜奈が不思議そうに、迅を見つめる。


「公私はきっちり区別する。人として当然だろ?」


「ああ…そう」


絵怜奈は少しガッカリしたのか、「はぁ〜」とため息をついた。だが直ぐに、握っている刀の切っ先を雷杜へと向けた。


「足引っ張らないでよね」


「言うねぇ…口だけだったら幻滅するぞ?」


二人、横目でアイコンタクトを取り、一斉に雷杜へ斬りかかる。雷杜はそれを避け続けているが、どれだけ持つかは時間の問題である。

それでも雷杜は、ナイフ一本と持ち前の身体能力の高さを活かし、二人の猛攻を必死に凌いでいた。

その戦闘の横では、二人の支配者が相対している。

一人は、不得手の戦闘を前に怖気付いている天童五海(てんどういつみ)

もう一人は、背負っていたケースから、自らの愛用武器である棍棒を取り出し、五海に向ける猪狩輝夜(いかりかぐや)

五海の洗脳系能力【傀儡創主(ドールマスター)】を退けた延長能力(オーバーアビリティ)絶対王冠(アブソリュートクラウン)】により、自らの能力を使えなくなった五海は、なす術なく、ただ輝夜の棍棒に怯えていた。

輝夜の延長能力(オーバーアビリティ)絶対王冠(アブソリュートクラウン)】とは、五海の【傀儡創主(ドールマスター)】のように、他人の精神を干渉して対象を操るのではなく、声によって能力使用者の有能さや高位さ、権力の高さなどを対象の脳内に叩き込み、信頼に値する人物だと認めさせる能力である。

簡単に言うと、対象を強制的に、だが本人の意志に反することなく服従させる延長能力(オーバーアビリティ)だ。

輝夜は手に持つ棍棒を軽く振り払うと、棍棒に起動を命ずる。


「〈シャムロック〉起動」


【ユーザー音声認証。猪狩輝夜の音声データと一致、猪狩輝夜を確認しました。〈シャムロック〉起動完了】


殴打部ではない方の先端に、三つ葉の飾りが付けられている棍棒の起動音声が、輝夜のみに聴こえるように発声されている。

棍棒型の"リジェクター"である〈シャムロック〉を振りかざし、容赦なく五海に振り下ろす輝夜。


「終わりです」


五海は(きた)るべき痛撃に備えて目を瞑る。

だが、覚悟を決めて待っていたその痛みは、しばらくしても五海を襲うことはなかった。代わりに、何かと何かの衝突音が、五海の至近距離から聴こえてきた。


「早く下がってください、五海さん」


輝夜の攻撃を阻み、五海の目の前に立つのは、鮮やかな黒髪の少女。彼女の握る、銃と槍が一つの武器となっている銃槍の槍部分が、今も輝夜の〈シャムロック〉とギシギシ音を立てている。


「……なッ………」


輝夜は、その少女に見覚えがあった。何しろその少女の顔が、いつも見るあの子(・・・)と瓜二つなのだから。


「ありがとう、三郷(みさと)。気をつけるのよ。その女の声を聞くと操られるわよ」


五海が後方に退き、彼女とすれ違うように、なにも武器を持たない、ガタイの良い青年が勢いよく公安局本部に飛び込んでくる。


「ったく…増援が来ないか警戒して外に出てたってのに、苦戦し過ぎだ」


鉄二(てつじ)さん。ここは私と雷杜さんで十分なので、お姉ちゃん(・・・・・)をお願いします」


「了解だ」


鉄二は、迅や輝夜、絵怜奈をスルーして、物凄い勢いで公安局内部へと侵攻していく。


「しまった!!」


迅が雷杜と剣を交えながら狼狽する。このままでは、いずれ環境管理課の部屋に到達されてしまう。

そうなれば、御園が危ない。



『大丈夫だぞ種原!俺らがやる』


インカムから、海斗の声が耳に飛び込んでくる。その直後、入口から最初の十字路の右方向から、潟上海斗(かたがみかいと)猪狩蒼夜(いかりそうや)が姿を現した。侵攻していた鉄二と鉢合わせの形になる。


『こっちは俺たちに任せて、君たちはそっちに集中しろ』


「「了解!」」


迅と輝夜が口を揃える。

輝夜は、銃槍の少女と鉄二の会話が気になっていた。

五海を撤退させたことで、これ以上【傀儡創主(ドールマスター)】が使われることはないと踏んだ輝夜は、銃槍の少女と戦う前から騒音除去装置(ノイズキャンセラー)を外していた。だから聞くことができた、謎の会話。


---お姉ちゃん(・・・・・)をお願いします


お姉ちゃんとは、一体誰のことなのだろうか。

輝夜に妹はいない。朝陽に妹がいるという話も聞いたことがない。引きこもり少女の茂袮(もね)は、四年前の大感染(パンデミック)で家族全員を亡くしている。


つまり消去法でいくと…銃槍の少女の言う"お姉ちゃん"とは、やはり………


それなら、銃槍の少女に見覚えがあるのにも合点がいく。実の姉妹なら、嫌でも似てしまうものだろう。兄と妹の蒼夜と輝夜も、似ている部分が少しあるのだから。


「御園…さん……?」


輝夜が小さく呟くと、騒音除去装置を着けていたはずの銃槍の少女の攻撃が止んだ。

輝夜の口の動きだけで、なんと言葉を発したのかを読み取ったのだろうか。

銃槍の少女は何も言わず、ただ満面の笑みを浮かべていた。



御園と椎名は、警備課から拝借した防犯カメラ映像に映る戦闘をジッと見つめていた。

二人とも両耳にインカムを付け、音声による戦況の把握も行っていた。


「…………」


御園は、落ち着かない様子で、どこかソワソワしている。無理もない。他のメンバーは戦っているのに、自分だけ安全な場所で待機しているのだから。

と、思った御園だが、すぐに違和感を覚えた。なんだか誰か足りない気がする。


「あの…朝陽ちゃんは……」


茜屋(あかねや)はまだ到着していない。着いても屋内戦闘では役に立たなそうだから、一度ここに来てもらう」


「…なるほど」


「篠宮」


椎名に呼び掛けられ、椎名の方向に向き直る御園。


「メンバーがほぼ揃っている。数もこちらが有利。悪いが篠宮、奴らを落とすためだ。行ってくれるか?」


そう頼まれた御園は、自分のデスクに置かれた銃型"リジェクター"〈シムナ〉を腰のホルスターに掛けると、待ってましたとばかりに顔を輝かせ、


「行きます。自分ことは、自分で守りたいので」


「そうか。指示は随時インカムを通じて出す。無事を祈る」


御園は軽く椎名に頭を下げると、環境管理課の部屋から出て行った。





To be continued……

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