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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
23/63

『絶対王冠-アブソリュートクラウン-』

通常通りに授業を終え、学校から直接公安局本部へと入った迅と御園は、持ち場である環境管理課に入り、各々(おのおの)のデスクにつく。


「お疲れ様です、椎名さん」


「お疲れ様です」


「ああ、お疲れ」


既にデスクについて電子書類に目を通していた椎名に、二人は恒例の挨拶をする。

今この部屋にいるのは、迅と御園と椎名だけのようだ。他のメンバーはまだ来ていないらしい。朝陽や輝夜(かぐや)、海斗も学生だから、まだ来ていないのも仕方ないが、蒼夜(そうや)がまだいないのは何故だろう、と、迅はふと考えてしまう。まぁ、遊んでいる以外に答えは出てこないのだが。


「篠宮、コーヒー頼んでもいいか?」


「はい、イイですよ。種原君も飲む?」


「え、ああ。お願いするよ。できれば砂糖多めで」


「フフッ、種原君はお子ちゃまですね」


「…じゃあそのお子ちゃまが喜ぶようなコーヒーを頼むよ」


「はいはい」


ここが、異常患者(グローバー)を排除するという、汚れ仕事を請け負うようなところに見えないくらい、和やかな雰囲気が漂っている。

いや、これが四年前までは普通だったのだ。だがあの惨劇以来、このような平穏な時間すらが"当たり前"ではなくなってしまった。


「…そういえば」


御園に作ってもらった、砂糖多めのコーヒーを飲み干し、迅が学校に絵怜奈がいなかったことを報告しようとした時、下方からのものすごい破壊音が、平穏な時間に終わりを告げた。


「なんだ…!!?」


椎名が立ち上がり、ブラインドを上げて窓の外を見下ろす。だが、一見変わった様子はない。何か変わっているのかもしれないが、環境管理課の部屋は十二階、そんな変化を視認できるわけがなかった。一人を除いては。


「ガラスの破片……?」


下を見下ろした御園が、目を細めることなくそれを確認する。

御園の延長能力(オーバーアビリティ)万里双眼(マイルズスコープ)】だ。御園は常人の何倍も視力が良い、超視力の持ち主だ。

御園が視認したのはガラス片。つまり、公安局本部の入口であるガラス扉が、何者かによって破壊された。つまり……


「侵入者……?」


迅の呟きとほぼ同時に、サイレンが鳴り響いた。


『緊急事態発生。緊急事態発生』


緊急事態発生以外に何か別のことを言えよ、と、サイレンに胸の中で文句をつける迅だが、そんなことを気にしている暇は当然なく、


「椎名さん、俺、行きます」


「しかし種原、ケガは……」


「大丈夫です」


少し、ほんの数秒考えてから、椎名は首を縦に振った。


「無理はするなよ」


「はい」


迅が部屋を飛び出そうとすると、耳に飛び込んできた御園の声を聞いて、迅は足を止めた。


「私も行きます」


御園の申し出に、迅と椎名は同時に、同じ答えを口にした。


「「ダメだ」」


既に臨戦体制に入っていた御園は、腰に携えたハンド銃型"リジェクター"〈シムナ〉に手を掛けた状態で停止し、理由を聞きたげに迅と椎名を見つめる。


「昨日話しただろ。一瀬信樹らの目的はお前だって」


そう。一瀬信樹らの目的は、「神」となり得る者である御園の可能性がある。先日、迅が襲われたのも、邪魔者である迅を排除するためだったのだろう。迅を速やかに排除した後、御園を捕らえるつもりだったのだろうが、迅が時間を使ったため、それは成し得なかったと思われる。


「で、今、攻めてきてるのはおそらく奴らだ。ターゲットをこっちから敵前に出すなんて、御園をもらってってくださいって言ってるようなモンだろ?」


「…でも……」


正論を述べられ、たじろぐ御園。その手は、強く握りしめられている。


「わかってくれ御園。お前のためなんだ」


御園の肩に両手を置き、そう投げかける迅。

御園は目を潤わせながら迅の顔を見上げると、


「…騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)光剣(こうけん)、忘れてるよ?」


と、笑顔で言葉を紡いだ。

迅は「あ」と漏らして、忘れ物をしっかりと装備する。

光剣とは、文字通り"光の剣"の通称で、正式名称は"ビームサーベル"なのだが、なんだかダサいということで漢字表記に変換して日本語読みして呼んでいる。

騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)は、ヘッドホンのような形をした外音除外装置である。装着すれば、外部からの音はまったく聞こえなくなるのだ。洗脳系の有能者(アダプター)対策である。


「気をつけてね」


御園が笑って言う。


「ああ。椎名さん、御園をお願いします」


椎名は無言でコクリと頷いた。

迅は環境管理課の部屋を飛び出し、急いで最下階へと階段を駆け下りる。

下りている最中に、騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)を装着する。インカムとフィットする設計になっているので、同時に装着することで、インカムからの音声は聞くことができ、外部からの音は百パーセント除去することができるのだ。

階段をすべて下り、公安局本部入口に到着した迅。

入口には、二台のスポーツカーが乗り捨てられている。そして、その周りには………


「…洗脳系の延長能力(オーバーアビリティ)か…!」


覇気のない目で迅を睨む、公安局員が約三十人、スポーツカーの周りに群がっていた。


「そうよ…これが私の延長能力(オーバーアビリティ)傀儡創主(ドールマスター)】よ」


群れの中から、一人の少女が姿を現した。


長い黒髪のポニーテール。水色のブラウスに白のミニスカートという格好の美少女だ。

その少女に続いて、二人の男女も姿を見せる。男の方は、チャラチャラした少年、先日の事件の時は、雷杜(らいと)と呼ばれていた少年だ。

そして女の方は金髪で真剣を握った少女、白雪絵怜奈(しらゆきえれな)

絵怜奈も、周りにいる公安局員同様、目に覇気がない。まだ、ポニテ少女に操られているのだ。

先ほど何かポニテ少女が言っていたようだが、騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)を付けているおかげで、全く何を言っていたのか聞き取れなかった。


『そのポニテ少女の延長能力(オーバーアビリティ)は【傀儡創主(ドールマスター)】だそうだ。それと、騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)は音声入力でON/OFFの切り替えが可能だ。装着したままでも、OFFにすれば音は聴こえる』


椎名が、迅の思考を読んでいたかのようにフォローしてくれた。

迅はすぐに「OFF」と唱え、騒音除去機能を一時停止させる。

直後、ポニテ少女が声を上げる。


「ここにいる公安局員、覚えておきなさい。私は天童五海(てんどういつみ)、これからこの場を支配する者よ!!」


迅は反射的に「ON」と叫ぼうとした、その時。


「あなたにここは支配できませんよ」


操られた公安局員の群れを割って通り、現れたのは紺色の髪の少女。


「輝夜!?」


その少女は、輝夜だった。輝夜は五海と相対すると、嘲りの笑みを浮かべる。


「私がいる限りは…ね?」


その発言を聞いた瞬間に、迅と雷杜は同時に、だが違う言葉を叫んでいた。


「ON!!」


「五海ちゃん!!耳栓しろ!!」


迅の騒音完全除去装置(ノイズキャンセラー)が起動し、雷杜が耳栓と呼んだ、彼らの騒音除去装置を、五海と雷杜が装着する。

そして次の瞬間、形勢は逆転する。


『「全員、私の言うとおりに動きなさい」』


輝夜の声に秘めていたのは、王の資質。


絶対に敵わない、と、相手をひれ伏せさせる覇王の威圧。


ただ糸で繋がれて操られていた者たちが、その糸を引きちぎって、その王の前に膝を折る。


その光景は、王の凱旋。


「私の洗脳に上書きした…!?私より高位の洗脳系能力…!!?」


驚きのあまり、五海は叫んでいた。

だがその言葉を、輝夜は即座に否定する。


「違いますよ。五海さん」


衝動で騒音除去装置を外していた五海が、輝夜に操られている公安局員に視線を向ける。隣で叫ぶ、雷杜の忠告を無視して。


そして気付く。輝夜は"操って"などいないということを。


公安局員たちは、そして絵怜奈は、操られて輝夜の側にいるわけではなく、自らの意志で、輝夜に従っているのだと。


数多の視線を自分に集める中、輝夜は高々と口を開いた。


「【絶対王冠(アブソリュートクラウン)】。これが私の延長能力(オーバーアビリティ)です」





To be continued……

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