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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
22/63

『大事なんだもの』

「おかえりなさい、迅!!」


「うぐッ……!!姉ちゃん?」


同日の夜、帰宅した迅は突然、姉の(かがみ)に抱き着かれ、困惑と赤面をする。

鏡の手には、お玉が握られたままだ。よほど迅の帰宅が嬉しかったのだろう。例の事件のせいで、昨日は帰宅していなかったのだ。


「ケガ大丈夫?お腹空いたでしょ?迅の好きな海鮮丼、作ってあるわよ」


「あ、ああ。ありがとう…夕飯は海鮮丼…じゃあ、そのお玉は何に使った?」


鏡が握ったままのお玉を指差し、迅は訊ねた。海鮮丼を作るのに、お玉は必要ないはずだからだ。


「お味噌汁も作ったから」


「ああ…なるほど」


即答され、一瞬で納得する迅。

それから数分ほど鏡の熱い抱擁に付き合った後、迅は〈デュランダル〉の入ったケースを直ぐ手の届く位置に置き、食卓についた。


「それにしても…姉ちゃんのブラコンぶりは衰退という概念を知らないな」


マグロを口に運びながら、迅は苦笑いで呟く。

姉・鏡は、知っての通りブラコン、ブラザーコンプレックスである。でも昔はそうでもなく、どこにでもいそうな兄妹だった。血が繋がっていなければ、おそらく会話など交わさないだろうという具合に。


「だって大事なんだもの、迅のこと」


ウインクして答える鏡に、迅は一瞬ドキッとしてしまう。鏡は普通に顔立ちが整っていて美人なので、ウインクなんかされると心がときめいてしまう。

そんな美人の鏡が変わったのは四年前、あの《大感染(パンデミック)》の時だ。

両親が異常患者(グローバー)から迅や鏡を守って殺され、後続の異常患者(グローバー)から迅を守った鏡も、体内にウイルス【GW-01】を残すことにはなってしまったが、迅と共に生存できた。

その後から、鏡の迅への態度は変わり、ブラコンへと豹変したのだ。


「迅だって、私のために剣術習ったり公安局に入ったりしてるじゃない。シスコンね」


「う……そう…かもですね」


そこを突かれると返す言葉もなく、迅は少し耳を赤くして鏡から目を背けた。

確かに、迅はシスターコンプレックスかもしれない。

鏡はニコニコと笑って、迅は苦笑いで食事を進めていると、鏡が急に真面目な表情に変えた。


「それで…明日からどうするつもりなの?」


どうするの?というのは、公安局の仕事はどうするのか、という意味だろう。そのケガで仕事するつもりか、と言いたそうな顔で、鏡はそう訊ねた。


「ケガがある程度治るまでは公安局本部で待機って椎名さんに言われた。御園も一緒にだよ」


「へぇ…御園ちゃんも一緒なんだ……二人きり?」


「違う」


迅が即答すると、残念そうに口をへの字に曲げる鏡。

何を期待していた、と呆れながら、迅は箸を進める。


「ま、頑張ってね。迅」


何を頑張れと言われているのかわからないが、頑張れと言われて気を悪くするほどのひねくれた心は持っていないつもりなので、迅は笑顔で返事をした。

すると鏡は、少し照れくさそうに迅を見やると、


「ご飯食べたら……何する?」


と、問いかけてきた。


「へ?」


「コーヒー飲む?お風呂にする?それとも……ワ・タ・シ♡」


「ゴボッゴホッゴホッ……」


鏡のベタなお色気発言に驚き、思いきりむせる迅。要は動揺したのだ。

そんな迅を、何か可愛いものを見る目で見ている鏡。

迅は喉に詰まらせたものを味噌汁で流し込むと、すぐさま叫んだ。


「何考えてんだ姉ちゃん!!!」


「フフフッ…そっか、迅は御園ちゃんの事が好きなんだものね」


「はあぁっ!!?」


動揺しまくりの迅を見て、鏡は楽しそうに笑っていた。

迅はこの何気ない時間がまた、何度も来る事を、心の中で密かに祈っていた………



翌日。この日は金曜日のため、今週最後の登校日となる。

本当なら、ケガを理由に休みたいところだが、絵怜奈と御園の事もあるので、あまり周囲の気を引かない程度に絆創膏を貼り、いつも通り制服を着た。いつもと違うのは、一昨日の夜の事件で、ワイシャツをボロボロや制服のズボンをボロボロにしてしまったため、真新しいワイシャツとズボンを着ているということくらいだ。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


玄関で鏡に軽く手を振って、迅は自宅を出た。

迅の家はそこそこな高層マンションの一室で、いつもはマンション入り口で御園と合流して、学校に向かっている。御園も通学路でこのマンションの前を通るらしく、全く問題なしで合流できるらしい。


「おはよう、種原君」


「おう、おはよう御園」


いつも通り、朝の挨拶を交わし、学校へと向かう迅。

だがこの日の迅は、周囲への警戒心が普段より二倍以上増していた。

一瀬信樹(いちのせのぶき)らが御園を狙っている可能性が大きい以上、警戒を怠らないわけにはいかないのだ。

そのせいであまり会話を交わさないまま、学校に到着した。

迅と御園はクラスが別のため、途中で別れ、迅は自分のクラスの教室へと入った。


「オッス、種原」


今日のクラスでの最初の話し相手は、海斗だった。


「…絵怜奈は来たか?」


「いや、まだだ」


ヒソヒソと話し、迅はまだ絵怜奈が登校していないのを確認した。とは言ってもまだホームルームまで時間がある。これから来ることも十分にあり得る。だがそれでも来なければ、絵怜奈はまだ操られているということになる。


「はい、ホームルーム始めまーす」


そんなことを考えている内にホームルームの時間となり、担任の女性教師が教壇へと上がり出欠確認を始めた。

絵怜奈は来ていない。

それどころか、もう二日も家に帰っていないらしく、両親が捜索願を警察に提出したらしい。

迅は窓の外を見つめ、居場所もわからない絵怜奈を探した。が、見つかるわけもなく、そのままボーッとしているうちに、朝のホームルームは終わり、担任は教室を出て行き、入れ違いで一時限目の世界史の男性教師が教壇へと上がった。



時間は流れ夕暮れ時。

学校もそろそろ放課となり、学生たちがぞろぞろと歩道を歩き始める時間帯だ。

公安局本部近くの駐車場に、二台のスポーツカーが停車している。それも日本車ではなく、結構高そうなドイツ車。

その二台のスポーツカーに、それぞれ二人ずつ、人が乗っていた。


「いいか。作戦開始まであと一時間だ。時間になったら、車で公安局に突っ込んで戦闘開始、いいな?」


鉄二(てつじ)が、ハンドルに手を置きながら、インカムに向けて話しかける。助手席には、チャラチャラした少年・雷杜(らいと)


「乱闘開始ってコトでいいんだよね?」


「ああ」


『私…運転苦手だわ』


インカムの向こうから、五海(いつみ)が弱音を吐く。


「今さら何言ってんだ。それに、お前がその金髪娘から離れたら、洗脳が解けちまうだろう」


『そうね…頑張るわ』


「作戦始まる前からミスらないでね〜?五海ちゃん」


『あなたに心配される筋合いはないわ。雷杜君』


「冷たいなぁ〜」


こんな感じのやり取りを、鉄二は今までに幾度となく耳にしてきた。

五海は一方的に雷杜を嫌っていて、雷杜は執拗に五海に絡もうとしているのだ。おそらく…というか絶対、雷杜が五海に不必要に絡もうとしなければ、雷杜が五海に嫌われることはなかっただろう。

そうこうしているうちに時間は過ぎ、作戦決行の時刻となる。

鉄二はスポーツカーのエンジンをかけ、インカムに向けて告げる。


「作戦開始」


直後、二台のスポーツカーは勢いよく発進し、道路でスピードを上げていく。

道行く車を上手く避け、公安局本部入口の前で方向転換し、ノーブレーキングで突っ込んだ。


「きゃああああ!!!」


女性たちの甲高い悲鳴が、広いエントランスホールに響きわたる。

鉄二たちはスポーツカーを止め、降車して戦闘体制に入る。


『緊急事態発生。緊急事態発生』


非常を知らせるサイレンと音声が、局内全域に鳴り響いた。





To be continued……

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