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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
20/63

『ほどほどにやってくださいね』

夜が明け、警視庁のとある取調室。

頭に包帯を巻き、至る所に絆創膏や青痣をつくった迅は、半ばキレ気味の刑事の目の前に座り、取調を受けていた。

昨夜、迅は帰宅途中に何者かに操られた絵怜奈と、もう一人のチャラ男に襲われた。騒ぎを聞きつけた周辺住民の通報によって駆けつけた警察を見たチャラ男たちは逃走し、怪我をして倒れていた迅は警察のご厄介になることになった。当然、今やっている取調も、保護された時点で受けることになることは迅も分かっていた。

とは言っても、迅は刑事の質問に、本当テキトーに答えているので、真面目度はゼロだ。

ここ最近、絆創膏にお世話になるなぁ…なんて考えたりもしている。

だが、そのテキトーな態度には刑事も気が付いたらしく、苛立ちを見せながら迅に顔を近づける。


「つまり今回の事件、君は完全に被害者であると、そういうことで良いんだね?」


「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」


早く帰りたい衝動に駆られている迅の態度は自然と喧嘩腰になっている。


「あと、君を襲ってた連中の中に、君の通う第三高校の制服を着た子もいたって目撃証言があるんだが、恨みを買うような心当たりは?」


「ありません」


その制服の子とは絵怜奈のことなので、心当たりはあるのだが、これ以上、事を面倒にはしたくないので、迅は嘘をついて誤魔化す。


「それに、今の時代、ホログラム技術が完成してるんですよ?ホログラムを使った変装だって、技術がある人なら簡単にできる。その子が本当に三高の生徒だという保証はないじゃないですか」


制服の子は完全に絵怜奈で、ホログラムを使っているようには見えなかったが、とりあえず早くこの場を切り抜けたいので、またまた嘘をつく迅。


「ふーん…君、やけに犯人を庇うね。なぜ?犯人と友達?」


「自分の通う高校に殺人未遂犯がいるなんて、信じたくないからなんですけど」


「へー」


刑事は何か見透かしたような笑みを浮かべていたが、迅は平静を装う。というか平静で冷静だ。


「ところで君、公安局環境管理課所属なんだね。てことは、異常患者(グローバー)には詳しいよね?」


迅は黙秘する。


「君を路肩のブロック塀まで蹴り飛ばし、そのブロック塀を壊すほどの破壊力を持つ人間なんて存在しない。つまり、犯人グループは異常患者(グローバー)である可能性が高いと思うのだが、どうだろう?」


おそらく、ここからがこの刑事たちにとっての本題だろう。

まだ公安局が公表していない情報を、取調と称して入手しようという腹だ。その手には乗らない。


「確かに、異常患者(グローバー)が絡んでいる可能性があります。ですので、この件は公安局環境管理課の管轄です。部外者である刑事さんたちに情報を漏らすわけにはいきません」


「誤魔化すつもりかい?」


「機密事項ですので」


目をつむって、迅は答える。

刑事は迅の顔をじっと見つめている。嘘をついているのかを見抜こうとしているのだろう。嘘をついている人間は、よく顔に出るものだからだ。


「さて…何を隠しているのやら」


「公表できないから隠している。あなた方警察にも、秘密の一つや二つ、あるでしょう?」


刑事は一瞬答えに迷い、眉を(ひそ)める。


「でも異常患者(グローバー)が絡んでなかったら?」


「そうなったらこの件に関してはあなた方警察にお任せすることになります」


「あくまで黙秘、ということだね?」


「黙り込んではないですけどね」


「そうか。まあ、機密事項なら仕方ない」


刑事は椅子に座り直してから、再び口を開く。


「そうそう。この件とは全く無関係なんだけどね」


「……?」


「都市伝説と謳われている延長能力(オーバーアビリティ)。公安局にいるなら知ってるよね?」


「ええ、まぁ」


「世間ではまだ都市伝説程度にしか認識されていないが、我々警視庁はその能力は存在すると考えている」


警察も中々勘が良いようだ。


「そして、その延長能力(オーバーアビリティ)とやらを持つと思われる者たちによる犯罪行為が後絶たない」


「…はぁ……」


どう対応するべきか。延長能力(オーバーアビリティ)を持つ者、すなわち有能者(アダプター)も、異常患者(グローバー)に分類される。一応は、これも環境管理課の管轄ではあるが……


「こうも事件を起こしてもらっては、警察としても延長能力(オーバーアビリティ)を持つ人間を受け入れることができない。むしろ、今は敵視している」


「今回の事件も、延長能力(オーバーアビリティ)が関係あると?」


迅の問いかけに、刑事は横に首を振る。


「いや、そういうことを言いたいわけじゃない。私が言いたいのは、我々警視庁には対延長能力(オーバーアビリティ)保持者部隊が存在している、ということだよ」


この言葉に、迅の眉がピクリと動く。


「我々警視庁は延長能力(オーバーアビリティ)保持者を危険人物と定め、それらしき能力を持つ者を捕獲するという方針をとっている」


人権真っ向無視の方針だ。

そもそも、延長能力(オーバーアビリティ)自体が噂程度にしか広まっていないのに、突然捕獲されて本人も家族も納得できるのだろうか。問題点だらけの、応急措置のようなやり方だ。


「さて、事情聴取は以上だ。協力、感謝する」


迅は刑事に促され、取調室を出る、その間際に、


「人権侵害とか言われないように、ほどほどにやってくださいね」


「…子どもが大人の決めたことに口出しするな」


「一応、公安局員ですので」


取調室の扉は閉められ、迅はその場で刑事と別れた。別に犯罪を犯したわけじゃないので、すぐに署の出口へと向かう。

警視庁はわかっているのだろう。

有能者(アダプター)部隊を作ったと迅に教えるということが、公安局への宣戦布告を意味するということを。

下手すれば、公安局と警視庁の全面対局もあり得る。


「ただでさえ謎の敵集団もいるのに、また敵が増えるのか…」


先ほどの話を聞く限りでは、対有能者(アダプター)部隊は公安局にとって敵でしかない。

だが緊急事態では、市民の安全が第一のはず。この点では公安局と変わらない。


この思考は正しいのか否か。


この問いの答えを、今の迅は【超速演算(アクセルブレイン)】を用いても、導き出すことができなかった。





To be continued……

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