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Tokyo Adaptor  作者: 四篠 春斗
配属編
2/63

『大感染後の日本』

2212年。

日本は世界に誇れるほどにまで、医療と科学の技術を向上させた。

資源の乏しさに苦しみながらも、世界の国々とのやり取りを経て、日本はこれから世界が20年かけて到達すると推測されている域にまで、医療・科学技術を発展させたのだ。

世界で初めて市販された新型の携帯通信機器は、インカムのような小型機器と、手首に付けるだけで機能するブレスレット型の機器だ。一見ただのアクセサリーにしか見えないこれらの機器は、見かけによらず素晴らしい機能を持っている。

ブレスレット型の機器はSDカードのような役割を果たし、ブレスレット内にあらゆるデータを保存する事ができる。

インカム型の機器には脳波を読み取る機能が組み込まれており、耳に装着して手首にブレスレット型の機器も取り付けると、装着者の視界内に時刻や日付などを表示する事ができる。それに加えて、何かを想像する事で、インカム型の機器が脳波を読み取り、想像したものに関するデータを表示したり、メールのやり取りをしたりする事が可能だ。

そして、視界内に表示されたウィンドウの辺りに指を運ぶと、まるでクリックしたようにウィンドウが変化する。例えば、ウィンドウを閉じたければ、ウィンドウの右上に表示されたバツボタンの辺りに指を動かすと、バツボタンが押されたようなエフェクトを発生させ、直後にそのウィンドウは閉じられる。

他にもたくさんの最先端機器が市販されており、今や個人情報などの大事なデータを、本当の意味で肌身離さず持ち歩ける時代となったのだ。


そして、科学技術と共に成長したのが、医療技術。


科学の発達により、医療機器の性能も向上、不治の病とされていた病気の特効薬の開発に成功したり、成功率がかなり低い手術(オペ)を容易く成功させたりと、病院内で寿命以外で死を迎える患者は、今はとても少なくなっている。

最近では、新しい細胞や薬の開発にかなりの資本をつぎ込んでいる製薬会社も多い。

日本の突出した医療・科学技術は世界にも注目され、世界各国から日本を訪れ、研究所を見学する外国人研究者が、毎年たくさん訪れる。


医療科学先進国・日本は、二度目の高度経済成長の真っ只中なのだ。



そんな日本は、四年前に崩壊した。



大感染(パンデミック)》とまで呼ばれる、災害にも似た出来事が、未曾有の被害をもたらした。

森林が朽ち果て、たくさんの人が一斉に命を落としたわけではない。だが、ほとんどの生物が、生物と定義される域を逸脱してしまったのだ。

人間は自我を失い、常識はずれの力を持つ怪物に、動物たちも飼育不可能なレベルにまで凶暴化、怪物たちによって、たくさんの人々が命を落とした。日本全土は、怪物によって蹂躙されたのだ。

動物たちは制御不能の野獣へと様変わりし、人間もまた、同じようになってしまったのだ。変貌してしまった者たちは、なんともない人々を無差別に襲い始め、襲撃によるたくさんの死傷者が出た。

この悲劇の原因は、新型細胞異常発達ウイルス【GW-01】。出処(でどころ)不明のこのウイルスは、風に乗って日本を埋め尽くし、瞬く間に日本を壊した。


それから四年、ウイルスに感染しなかった者は東京に集められ、そこで生活する事になった。


悲劇の半年後に開発された、ウイルス感染者--異常患者(グローバー)が嫌う特殊な合成物質を含んだモノリスで東京を囲い、完全に隔離された中で人々は暮らし始めた。

GW-01の感染予防接種まで受けられるようになり、異常患者(グローバー)の発生率は低くなっている。


そして、異常患者(グローバー)と化してしまった人間や動物から人々を守るべく、公安局に新たに作られた課。


異常患者(グローバー)用に開発された、最先端武装”リジェクター“を自在に操り異常患者(グローバー)を無力化・抹消する特殊部隊。



それが公安局環境管理課である。



聴こえの良い名前とは裏腹に、その責務は鎮圧・抹消。


環境管理課は、殺し屋集団だ。


その殺し屋集団に人々は守られているというのが、現在の東京、いや、日本の現状なのである。



迫る竹刀の行く先が見える。(じん)は軽い身のこなしで竹刀を避けると、相手を竹刀ではたく。


「はいそこまで!種原(たねはら)の勝ち!」


両者は被っていた防具を脱ぎ、軽く礼をし合う。

真剣な試合ムードは、負けてしまった少年の声で壊される。


「また負けかよ〜種原、お前なんなんだよ」


「さぁ…そう言われましても…」


タオルで身体中の汗を拭き、スポーツドリンクで喉を潤しながら、迅は困った表情を浮かべる。


「お前のその人間離れした先読み術はなんなんだ?」


「術っていうか…その、俺も無意識なんで……」


このやり取りを、別の部員ともたくさん交わした。迅の未来予知に匹敵する先読みに、数多の部員が太刀打ちできずにいる。


「なぁ、種原。お前、延長能力(オーバーアビリティ)って知ってるか?」


先輩部員の口から飛び出た初耳の用語に、迅は思わず食いついてしまった。


「ただの都市伝説なんだけどよ、妙に現実味のある話でな」


先輩部員は楽しそうに語り始める。


延長能力(オーバーアビリティ)。それは人間の持つ能力の延長線上にある能力のことで、稀にその力を持ってるヤツがいるらしい」


そんな話、信じる気すらない。迅は聞き流すつもりで、うんうんと頷く。


「耳がめちゃくちゃ良かったり、目がすこぶる良かったり、未来が見えたり……いろんな延長能力(オーバーアビリティ)が存在するらしいんだ」


先輩の熱弁を聞き、迅は何か思い出したように、あ〜、と頷き、先輩に続いて口を開いた。


「それってアレですよね。異常患者(グローバー)化するウイルス、【GW-01】を生まれつき体内に持っているとか、遺伝子組み換えでそういう人間の能力の延長を手にいれたとか、改造人間だとか、いろいろ言われてるやつですよね」


そこらで小耳に挟んだくだらない噂話を迅は言い並べながら、内心で確信していた。

そんなものは存在しない、と。

胸の内でそう断言し、右耳から入る先輩の声を左耳に抜けさせようとした時、その声は脳の辺りで停止した。


「お前、延長能力(オーバーアビリティ)持ってるんじゃね?てか持ってるだろ!」


冗談交じりで言ったのはわかっている。だが、そう言われた迅はムッとしてしまう。


「…それは、俺が異常患者(グローバー)や改造人間の端くれだ、と言いたいんですか?」


真剣な口調で怒りを漂わせる迅を見た先輩は、慌てて弁明する。


「いやいやいや!そういうつもりじゃあ……悪い、失礼なこと言ったな」


「いえ、俺の方こそ。少し生意気でした」


心底謝辞を述べる先輩に、迅も生意気なことを言ったと謝罪し、話を元に戻す。


「それで、もし俺が延長能力(オーバーアビリティ)を持っていたとして、それはどんな能力なんですか?」


素朴な疑問だ。自分が能力持ちというのなら、その能力の詳細が気になるのは誰でも一緒である。


「うーん……一瞬先の未来が見える、的な?」


よくあるマンガの異能が飛び出したので、迅はあまり驚かなかった。むしろ、その推測に疑問を覚えた。


「でもこの前、俺は後ろから忍び寄ってからの攻撃に対応できませんでしたよ」


数日前の剣術部の練習中、迅は背後からの不意打ちに対応できなかった。極力音を立てないよう忍び寄られ、あっさりと剣を浴びた(当然、真剣ではないが)。

もし一瞬先の未来が見えるなら、自分が背後から誰かに襲われるという未来が見えるはず。実際それが見えなかったので、迅は先輩の推測にはてなマークを浮かべたのだ。


「じゃあ、視認できる範囲での変化による未来が見える、とか?」


想像力豊かすぎだろ、と先輩に呆気を取られる迅。だが、これなら一応筋は通っている。

途中から延長能力(オーバーアビリティ)が存在する前提での会話になっていたが、先輩が楽しそうなのでそこには触れないでおく。


延長能力(オーバーアビリティ)かぁ……いいなぁ、俺もそんな能力が欲しいぜ」


「そうですか?ない方が気楽でいいと思いますけど」


迅は荷物をエナメルバッグに詰め、チャックを締める。


「では、お先に失礼します」


「おう、おつかれ」


よくあるやり取りを交わし、迅は剣術部の部室から出た。玄関で靴を履き替え、校門を跨ぐ。夕焼けの中、いつもの帰り道を歩く。電車通学のため、向かうのは学校に最寄りの駅。


延長能力(オーバーアビリティ)、ねぇ……」


自分の芸当が、並の技術ではないことは、自分でも自覚していた。だが、それは努力次第で身につくもので、誰にでもでき得る芸当だと思っていた。

しかしそれは、数百人に一人、数千人に一人、数万人に一人という割合で存在するものなのかもしれないという。

それを先輩は、羨ましがっていた。


「羨むほどの能力じゃないと思うんだが……」


迅はボソリと呟く。

確かに迅の特技は、戦闘に関係すればとても有効で重宝される特技だ。

しかしそれが、日常生活でもそうとは限らない。

好きなアニメの先の展開が読めてしまうかもしれない。

少し離れたところにいる老人が車にはねられるとわかっても、助けてあげられないかもしれない。

凡ゆる情報から導き出される未来の全てが、自分のためになるとは限らない。

自分が延長能力(オーバーアビリティ)を持っているかもしれない、なんて、言われない方が良かったと、迅は心からそう思う。

もし知らないままでいられたら、わかってしまったアニメの今後の展開も、「やっぱりこうなるのか」という、単なる予想で収めることができる。

だが知ってしまえば、自分はネタバレされたような感覚に襲われる。


都市伝説である延長能力(オーバーアビリティ)


もし存在するのならば、それは羨まれる存在ではない。


延長能力(オーバーアビリティ)は万能ではない。


なぜならこの時迅は、この先の展開を読めなかったのだから。


「あれ、混んでるな。なんかあったのか?」


駅に向かう最中、迅は道が混み始めていることに気付き、辺りを見まわす。

すると、遠くから拡声器を通した声が聴こえてきた。おそらく、選挙活動中の議員だろう。演説の真っ最中のようだ。人が多いのは、演説の傍聴者が大勢いるからだろう。


「あんま人混み好きじゃねえし、裏道通るか」


小さくため息をつき、迅は路地へと入った。


「…ん?」


迅は異変に気付き立ち止まる。


捨て猫がいたわけではない。


追われ身の美少女が隠れていたわけでもない。


「……剣?」


迅が見つけたのは、いかにもハイテクそうな、一本の刃のない剣だった。





To be continued……

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